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サイアスの千日物語  作者: Iz
第二楽章 魔よ、人の世の絶望よ
372/1317

サイアスの千日物語 四十五日目 その七

シベリウスは第一戦隊の精兵隊の長を務める城砦騎士だ。

今回の宴初夜の布陣においては第一戦隊の長である

オッピドゥス・マグナラウタスその人が精兵隊100名を

自ら率いて肝心要の地である城門正面の南方

座標6-15の防備に当たるため、精兵隊長たる

シベリウス当人は隊から離れ、西側野戦陣を守備する

別働の中隊50名の指揮を任されていたのだった。


シベリウスはカエリア王国北東部のユミル平原出身であり、

オッピドゥスやインクス、マレアらと同郷の出であった。

ただし巨人の末裔にしてはかなり小柄であり、その実

一般人にしては大柄な第一戦隊副長セルシウスと大差ない

程度の背丈だった。とはいえ膂力や体力は抜群であり、

何より決して折れぬ屈強な精神力を持っていた。

謹厳実直で表裏が無く、いかに困難な戦況においても

下命を死守し配下を鼓舞して任務を達成することから

「鉄人シブ」の異名で呼ばれ、戦隊の上下内外を問わず

絶大な信頼と敬意を受けていたのだった。



15名中10名までを敵に貪り食われ瓦解寸前となっていた

座標6-12の守備隊は、シベリウスの救援により

辛うじてその命脈を保つことができた。

戦力指数にして1から3といった手頃な御馳走である兵士らを

食い散らかしていた大口手足の群れは、自身の戦力指数6を

倍にしても届かぬ天敵とも言える城砦騎士を前にして

文字通りの意味で攻め手を失った。


シベリウスは鉄塔に挟まれた門状の間隙を密集陣で塞ぎ、

攻め寄せる敵を6枚の盾で弾き返した。そして弾きざまに

最小の動きを以て槍撃を合わせ、味方を攫おうと伸びてくる

大口手足の肢を次々に貫き払い切り落としていったのだ。

程なくして門前には攻め手たる肢と醜悪な毛達磨けだるまが散乱し、

敵主力部隊後続の侵攻を妨げ共食いの餌食ともなっていた。


結果大口手足の猛攻は徐々にその鳴りを潜め、

打ち寄せた荒波が沖へと引き上げていく有様に似て

状況は暫時の小康状態を迎えつつあった。

さらに座標6-13で敵への対処を終え再配分の済んだ

余剰兵力が援軍となって迫ってきたため、ようやく

この座標6-12にも戦況の目処が付き、果敢に戦い

生き延びた兵士らの表情に安堵の色が浮かびだしていた。

シベリウスは戦況に対し微塵の油断も見せはしなかったが、

当座の危機は凌げたものと考え、西側野戦陣全体を預かる

指揮官として次なる戦況の構築に思考を向け始めていた。



もしもシベリウスがこの座標6-12において

最初に敵を発見した歩哨の報告を聞いていたら。

もしもこの座標6-12の門状の間隙に屋根があったなら。

結果は自ずと変わっていたかも知れない。

しかしシベリウスは歩哨の叫びを聞いてはおらず、

また鉄塔に挟まれたこの門状の間隙に屋根はなかった。



そして惨劇が訪れた。

鉄塔の篝火が僅かに照らす薄闇の中

ようやく死地から解放されつつあった

兵士5名と城砦騎士シベリウスの頭上から

鉄塔の挟間を埋め尽くすように轟然と闇が降ってきた。


金属的な擦過音と衝突音、そして生々しい音が響いた。


現場まであと少しという所まで迫っていた

増援小隊の兵士15名が目にしたもの、それは

門状の間隙で蠢く大型眷属「縦長」のニタリと笑った顔だった。

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