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サイアスの千日物語  作者: Iz
第二楽章 魔よ、人の世の絶望よ
371/1317

サイアスの千日物語 四十五日目 その六

魔軍第三波の攻め手は座標6-12に限ったものではなかった。

300歩程離れた西側野戦陣の東寄りの間隙たる

座標6-13に対しても少なからぬ数の大口手足が攻め寄せていた。

もっともこちらは主目標としてではなく、錐のように尖って

座標6-12へと侵攻しあぶれた連中が防衛線に沿って

押し流されたものではあった。


まずは敵陣中央の一見手薄に見えて最も防備の厚い箇所へと

相手布陣の「誘い」に乗る形で前衛部隊を数度当てる。

これによって敵は、最も防備の厚い箇所を

当初の布陣と戦術的意図通りに手厚く護ることになり、

他の脆い部位へ流動的に兵を割くという選択肢を失う。

つまり当初の布陣で脆さの残る部位は脆さを残したままとなる。


次に右翼である城砦の東側面から攻城兵器への対応という

相手が納得しやすい然るべき理由を与えつつ羽牙の別働隊を当て

防壁上の弓兵を引き付け、上方遠距離からの支援攻撃を封じ、

さらに本命として左翼左端の間隙に主力部隊を侵攻させる。


敵を正面からの牽制で固め、右方に囮を見せて左からの一撃。

これが魔軍の戦術であった。いささかの奇をもてらうことのない

定跡ギャンビットからの論理的かつ理想的な一手であり、

闇夜による各箇所間の連携率低下をも考慮した鬼手でもあった。



とはいえ座標6-13の間隙を担う防衛小隊は

僅か2名の犠牲を出すのみで善戦していた。

西側の間隙と同様に哨戒し、侵攻の勢いに押し出されて

流れてくる敵を発見したこちらの防衛小隊は

西側の隊とは異なり即座に伝令を飛ばして後方待機の

騎士付き小隊に報告をおこなっており、

そのため援軍がすぐに駆け付けたのだった。


後方待機していた小隊の騎士は西側野戦陣の2か所の間隙が

同時に襲撃されている可能性を考慮に入れてはいたが、

どの道犠牲が出るならばまずは目先の問題を解決すべしと考え、

自隊15名全てを報告元の座標6-13への援軍とした。

さらに敵の意図に気付いたオッピドゥスの命で中央から

流れてきた精兵隊20名がそこに加わったため、

初手で失った2名以外に被害はなく、

むしろ大口手足を迎撃・撃退するに及んでいた。


元々座標6-12への攻め手の余剰であったために

程なくしてこちらでの戦闘は小康状態に入り、残存兵力は

適宜態勢を整え戦力を再配分して元通りの防衛態勢に移行した。



一方その頃、惨劇華やかなりし座標6-12の門状の間隙では

僅かに残った6名の兵士が決死の防戦を続けていた。

先刻まで9名いた残兵は一人また一人と引っ掴まれて引きずりだされ、

多量の大口手足に寄って集って踊り食いにされてしまった。

軍勢としての意図はどうあれ眷属らの狙いは徹頭徹尾

殺戮と捕食であるため、眼前に餌のあるうちは無理に敵陣深くまで

攻め入ることはせず、むしろなぶって楽しむかの様に

少しずつ引きずり出しては宴の馳走を堪能していた。


次々に仲間を奪われ食われ、今さらに1名が

人の腕に似た毛塗れのごつい肢に張り倒されて引きずり出され、

べりばりと捕食されて遂に残り5名となってしまった。

6名いれば何とか塞ぎ得たこの間隙も、委縮し疲弊し

極限状態にある5名にとっては広すぎた。

悲壮な覚悟で指揮を執る防衛小隊の兵士長はしかし

この期に及んで未だその心を屈しはせず、かくなる上はと

密集陣を解いて後鋭陣を形成し、全員が個々に盾となって

少しでも時間を稼ぐ手に出ようとした。その時。



「同胞よ、よくぞ堪えた。諸君の働きを誇りに思う」



低く勇ましい声が響き、次いで紫紺の装飾が施された

純白の甲冑を纏った武人が疾風の如く飛び出して、

襲いかかろうとしていた大口手足を2体まとめて槍で貫き、

気合もろとも盾で殴り付け吹き飛ばした。

兵士を手当り次第踊り食いして宴を満喫していた大口手足らは

慌てて新手に対応しようとしたが、武人の動きは稲妻のように鋭く

瀑布のごとく重く、近場の数体を斬り薙ぎ払って追い払い

槍を旋回させドンと地を突いて敵を睥睨し、そして兵士らを鼓舞激励した。


「すぐに増援がくる。もうひと踏ん張りだ。

 総員、密集陣形。最右翼はこのシベリウスが務める」


自身の預かる小隊を全て座標6-13に差し向けつつ、

自らは単騎座標6-12に急行した第一戦隊所属城砦騎士

「鉄人シブ」ことシベリウスは密集陣形ファランクス最右翼で盾を掲げ、槍を構えた。 

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