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サイアスの千日物語  作者: Iz
第二楽章 魔よ、人の世の絶望よ
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サイアスの千日物語 四十四日目 その十二

営舎の詰め所に戻ったサイアスたちを

供回りや書類に包囲されて青息吐息なデレクが出迎えた。


「おースおちかれ!

 報告やら引き継ぎやら、全部済んでるぞ。

 報酬も既に出てる。さらに馬術の実地指導報告書まで付いてる。

 無茶苦茶優秀だなーお前の姉ちゃん」


「おー」


サイアスは呆気に取られて生返事をした。

北門で別れてから営舎に戻るまでの小一時間で

ヴァディスは残務を全て片付けてしまったようだ。

そして今頃は夜に備えて居室で寝ているのだろう。

実家の弟の性格がどうだと言っていたが、きっと姉が完璧過ぎて

立場を失くし、捻くれてしまったに違いない、とサイアスは

思わず納得してしまった。


「とりあえずアレだ。

 今回みたいな状況では、一戦したら戻って休んで良い。

 言ってなかったっけー」


「初耳でーす」


「あれ……」


「あれ…… じゃねぇだろ。

 お前逃げろだの盾にしろだのしか言ってねぇよ!」


騎兵の一人が呆れてつっこんだ。


「そうだっけ…… 

 まぁ、誰かしら止めただろうし。

 結果的に戻ってきたし問題ない! よし、寝れ!」


デレクはしれっと笑顔でサイアスに書類を渡した。それによれば、

魚人撃破並びに大ヒル撃退の報酬として勲功20000点。

これを騎兵隊10名で分配せよとのことだった。

先陣を切って突撃し敵を粉砕したヴァディスへの撃破報酬は無し。

但し報酬欄から矢印が書類の余白へと延びており、そこには

「酒」と書いてあった。ラインの黄金はまだ数本あったはずだ。

夜に持っていくことにしよう、と一人頷いて、サイアスは勲功を

騎兵隊10名で等分配した。


「おい隊長。お前の取り分が少ないぞ?」


と騎兵の一人がそう言ったが、サイアスは


「エール代ということで。皆で呑んできて下さい。

 私は絞め落とされる前に自主的に眠ります。

 姉さんなら絶対何か手を打ってそうだし……」


と答えた。すると


「あら。よく判ったわね。

 賢明だわ……」


と、天井からクスクスと忍び笑いが響いた。

サイアスは肩を竦め、ラーズや騎兵は硬直した。

デレクは精神的にいっぱいいっぱいなのか、

奇怪な機械と化していた。


「では皆さんお疲れ様でした。ラーズは6時にね」


サイアスは何事もなかったかのように居室へと戻り、

湯浴みして眠ることにした。時刻は3時少し前。

回復祈祷と寝台の呪符の相乗効果によって眠りは深く回復は早く、

サイアスは夕刻にはすっかり元気になっていた。



6時過ぎ。サイアスは再び装備を整え、応接室へと入った。

既に小隊の面々は揃っており、デネブが例によって食事を取りに出た。

サイアスはデネブを待つ傍ら、デレクから受領した書類の残りに

目を通し始めた。


「ふむ。ラーズ。

 ちょっとそこに立って」


「ほい」


サイアスは書類のうち馬術実地指導報告書なるものを見やり、

ラーズに声を掛けた。ラーズは特に頓着せず指示に従った。


「足を肩幅に。爪先は僅かに内側へ。

 膝を軽く曲げ、上腿を外側へ。

 逆に下腿は内側へ捻る様に」


ラーズはサイアスに言われるままの姿勢を作ったが、

すぐに足がプルプルと震えだした。


「……色々きちぃんだが」


「その状態が騎射の際の足の状態に近いんだそうな。

 次に両手を肩の高さで左右に広げ、下半身はそのままに

 上半身を左右に捻ってみて」


ラーズはプルプル震えながらも言われた通りにした。


「ほぅ、成程……

 何となく言わんとするとこが判ってきたぜ」


「ぶれずにこなせるようになったら、

 弓を持って同じ動作を。それで、撃ったあとの反動が

 今回のアレに繋がっていたから、この動作を基にして

 上半身のみで反動を殺しきるようにすれば良くなるってさ」


「ほぅほぅ、納得だ」


「あと、撃ったあと弓を寝かせると楽になるかも、

 と書いてある。どういう意味だか分からないけれど」


「反動を縦に殺すってことか?

 確かに左右にぶれるよりは良さそうだな……」


ラーズは震える足を伸ばしたり元の姿勢に戻したりを

繰り返しつつ、手の動きを確かめていた。


「通じたんなら良いか……

 まぁそんなとこだよ。あと、今のラーズの馬術技能は

 2に近い1だそうな。騎乗戦闘ができるのは馬術技能2から

 らしい。コツさえ掴めばすぐだろうね」

 

「おぉ、そいつも実に納得のいくところだな。

 かなり足に来るがこの姿勢、きっちり練習しておくぜ。

 軍師殿にはくれぐれも礼を言っといてくんな」


「はいはい。後で伝えておくよ。

 私の馬術技能は3だってさ。今回やたら腕が痺れたのは、

 ミカの重量と突進力が強撃に乗ったせいらしい。

 無茶すんな馬鹿、と書いてある……」


「まったくもってその通りだが、

 俺に言われたくはねぇわな……」


ラーズは苦笑して額を押さえた。


「フフ、まったくだ。

 っとデネブが戻ってきたね。食事を頂こう」  

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