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サイアスの千日物語  作者: Iz
序曲 さらば平原よ
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サイアスの千日物語 二十九日目 その四

居室の小窓から陽光が入り始めた頃、サイアスは起床した。

例によってガンビスンを着込み、腰に王立騎士団の帯剣を

佩いたサイアスは、まずは詰め所へと向かうことにした。


詰め所には人がほとんどおらず、閑散としていた。

サイアスは手近な兵士に事情を聞いてみた。


「おはよう御座います。皆、出かけられたのですか?」


「あぁ。留守居数名を残してな。数日前、補給路に障害物が

 積んであった件の対応だそうだ。お前には詳細を話していいと

 言われてるが、聞くかい?」


「是非お願いします」


サイアスは即答し先を促した。


「他戦隊との合同任務だそうだ。第三戦隊の工兵隊が

 障害物を撤去。第二戦隊の一隊がこれを警護し、

 うちらは障害物の出所を探るって話だったな。

 今日の任務は機動力重視だから、馬術の得意なヤツが

 出張っていったよ。ま、俺以外大半なんだけど」


留守居の兵士はやや自嘲気味にそう言った。


「馬術ですか……」


村に居た数頭は農耕馬で、騎乗して使うということはほぼ無かった。

特殊な訓練を受けた軍馬となると、輸送部隊で目にした以外は

せいぜい伝令の早馬程度だった。 


「ところでベオルク副長から言伝があるぞ。

 今日は馬術か座学をやっておけ、ということだ」


「そうですか。どこへ行けば学べるのですか?」


「馬術は厩舎だな。外郭の南北にある門の側に行けば判る。

 座学についてはよくわからんが、書庫とかいってみたらどうだ?

 本城には結構な量の本があるって話だ」


兵士階級は読み書き以上の教養を求められることが少なかった。

そのため特別にこだわりのある者以外は書物の類に触れようとはせず、

自然、座学もおざなりになっていた。


「判りました。ありがとうございます」


そういうとサイアスは一礼して詰め所を出て、一旦部屋に戻った。

サイアスの起居する兵士長の部屋の壁には、城砦の見取り図が

掛かっていたのを思い出したのだ。サイアスは見取り図を確認した。



中央城砦は東西南北に正対して辺を持つ正方形の外壁を持っていた。

外壁は石材を積み上げ随所を金属で補強した堅固な防壁であり、

平原諸国のどの城壁よりも高く、厚みがあった。

外壁の厚みは実に家屋数軒分であり、内部には通路や貯蔵庫、

弓兵部隊の詰め所などが設置されていた。


この正方形の外壁の内側には、これに内接する円形の城壁があった。

外壁よりはやや低いが微妙な傾斜があり、上部がやや外側へと

せり出しており、外壁と一部接合していた。正方形の外壁と

円形の内壁の間には、四箇所の狭間となる区域があり、

ここは平時は訓練に、戦時は兵だまりに利用されていた。

また南北の門に近い部分には厩舎が、東西寄りには

数基の投石器が設置されていた。

この外部防壁の内側から内部城壁の外側にあたる部分を、

「城砦外郭」と呼んでいた。


内部城壁の内側には、東西南北に頂点を持つ正方形の「本城」があり、

対角線を基調として交互に長方形の階層を連ね、

緩やかな四角錐を形成していた。

内部城壁と本城の狭間四箇所には、各戦隊の営舎があった。

営舎は北東から時計回りに第一から第四まで設営されており、

サイアスの現在地である第四戦隊営舎は本城の北西に位置していた。

また第四戦隊は規模が小さいため、北半分には各国騎士団駐留部隊の

営舎が併設されていた。この内部城壁内側の狭間と本城を指して、

「城砦内郭」と呼んでいた。


総じて、極めて幾何学的な整合性の高い建築物であり、

連合各国の技術の粋を結集したこの城砦は、まさしく「人智の境界」

と呼ぶにふさわしいものであった。



サイアスは城砦見取り図をながめつつ、未明に呼ばれた軍議のことを

思い出していた。無難に要求を満たす回答ができたものの、軍議の

内容については判らぬことが多かった。魔や眷属、荒野に関する知識が、

今の自分には不足している、そう痛感したサイアスは、まずは城砦中枢、

「本城」にあるという書庫を目指すことにした。

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