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サイアスの千日物語  作者: Iz
第二楽章 魔よ、人の世の絶望よ
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サイアスの千日物語 四十三日目 その十二

上位眷属「はたこ」の絵の報酬という形で

ロイエの分捕り品から測量関係の器具を譲り受け

ランドがホクホク顔で居室へと戻った後、

サイアスはすっかり気に入った純白のローブを身に纏い、

懐に横笛を一本忍ばせて居室を出た。

手にはベリルが直筆ではたこの名を加筆したランドの絵を。

腰には繚星と生きた剣帯。そしてケープの上からユハを纏っていた。



「よース。茶会か? 

 じゃあ一緒に行こうぜー」


一礼して詰め所へと入ったサイアスに対し、

デレクがご機嫌で声をかけた。


「お待たせしちゃったのかな。

 行きましょうデレク様。 ……っとその前に」


サイアスはデレクに待って貰い、

城砦周辺の地図を眺めていたベオルクの下へ向かった。


「副長、報告します。

 命名任務、完了しました」


「ほぅ、早かったな。

 して、如何なるものか」


ベオルクは愉快げにそう問うた。


「は。名前は『はたこ』です」


サイアスは抑揚なくそう答えた。


「……サイアスよ。

 大言壮語して引き受けたからには

 どれ程素晴らしき名が飛び出すものかと、

 随分期待しておったのだが……」


ベオルクは勿体つけて不満を漏らし始め、

サイアスが間髪入れず


「ベリルが命名しました」


と補足すると


「期待以上の美事な名ではないか! 

 感動のあまり身の震える思いだ」


と無理なく鮮やかに言葉を続けた。


「返したね」


「あぁ返した」


「実に派手にやったな」


「あぁ。くるっとやった」


周囲の兵士らはベオルクの華麗なる手の平返しに対し、

口々にそのように漏らしたが、


「うむ、たまにはワシも丸太割りをしよう。

 お前たち丸太になれ」


とベオルクが言いだしたため、慌てて方々へ散っていった。


「こちら、ランドの描いた眷属の絵と、

 ベリル直筆の眷属名です。上納いたします」


サイアスは周囲にガンを飛ばすベオルクに持参した絵を差しだした。


「おぉ、これはまた見事なものだな。

 字の方も味があって良い。写しはあるのか?」


ベオルクはランドの絵に顔をほころばせ、

ベリルの文字に喜んだ。


「いいえ。作らせますか?」


「いや、参謀部にやらせよう。

 何にせよ大義であった。後程報酬をつかわそう」


「御意」


サイアスはすっかり機嫌の直ったベオルクに一礼し、

ニヤニヤと見守っていたデレクと共に詰め所を発った。



「しかしサイアス、お前すっかり変わったなー」


幽玄なる列柱の間を南方へと歩きながら、

デレクがしみじみと、しかし楽しそうにそう言った。


「そうですか? 自分では判りません」


「最初はお人形さんみたいなお嬢さんだと思ってたんだがな。

 実は頑固で無茶で不思議ちゃんなお転婆姫だった」


「マナサ様に、デレク様がイジメたって言いつけよう」


「待て! やめてー!」


「まぁ勘弁してあげましょう。私は優しいですからね。

 というか確かに私は人見知りが激しかったですね。

 それになんというか、いっぱいいっぱいでしたから」


「もう馴染んだのか?」


「はい。なんだか皆身内って感じです。

 実家でも伯父には以前からこんな感じだったんですよ?」


「へぇ、伯父さんも結構お前に遊ばれてそうだなぁ」


「まさか。まぁ冗談は伯父にしか言いませんでしたけど。

 母やアルミナは冗談が通じないし」


「色々恐ろしいとこだなぁお前の実家。

 そういやラインドルフに武器屋はあるのか?」


「ありません。宿もないですね。雑貨屋と集会所、あとは

 行商用の取引所くらい」


「ラインドルフがでかくなったら、

 俺の店置いてくれよ。武器屋だけどなんでも扱うぜ」


「喜んで。引退したら実家を継がれるのですか?」


「んー。俺がここで暴れることで十分実家の宣伝になってるからな。

 引退したら後はダラダラ自由にやりたいんだよ。

 なのでフェルモリアよりはラインドルフの方がいい。

 売上とか全然気にしないし。むしろ開店休業とか最高だわ」


「はぁ、そんなものですか?

 ともあれ大歓迎です。是非とも引退まで生き抜いてください」


「あー何だっけ、大漁旗的なものが立った気がするぞ……」


「引っこ抜いて敵に刺せば良いでしょ、そんなもの。

 っと着きましたね。あ、ラーズだ」


サイアスは第三戦隊営舎前で手招きするラーズを見つけ、

デレクを促しそちらへと向かった。

デレクはやれやれと肩を竦め、苦笑しながらサイアスを追った。

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