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サイアスの千日物語  作者: Iz
第二楽章 魔よ、人の世の絶望よ
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サイアスの千日物語 四十三日目 その十一

時刻は午後の一時半。

かつては午後の訓練課程の開始を告げる鐘が鳴ったこの時刻に、

サイアス一家及びランドは応接室の卓を囲んでうんうん唸っていた。

無茶振りをされたベリルがうんうん唸って頭を抱えているからであり、

押し付けたサイアスを筆頭に一緒に悩まざるを得なくなっていたのだ。


「ほらやっぱりさ、

 他の眷属の名前を参考にしつつ考えるべきじゃないかな

 判例ってのは大事だし」


領主なら裁判を担当することもあったのだろうか、

ランドは先例からの逸脱を嫌うようだった。


「良いけれど、参考になるかどうか……」


サイアスは小さく肩を竦めつつ、

自身の知る眷属の名前を列挙し始めた。



「戦力指数の低い順に、

 まずは羽牙。大きな羽と顔だけのヤツだね。

 次はできそこない。獣の胴に羽の残滓や人の顔が付いたヤツ。

 次は魚人。魚7割人3割って感じの眷属だね。

 あとは大口手足、鑷頭、大ヒル、縦長、死神虫…… 

 多分、全部見たまんまなんだろうね」


「鑷頭はちょっとひねってる感じよね。

 毛抜き頭ならもっと判りやすいのに」


ロイエは率直に指摘した。


「死神虫ってどんな眷属なのかしら」


名前に興味を惹かれたものか

ニティヤがそのように問いかけ、


「私も名前しか知らない。ディードは?」


とサイアスはディードへ話題を振った。


「死神虫は大柄の軍馬2頭分程の体格をした骸骨のような眷属です。

 巨漢の白骨死体の如き上半身と節足動物の如き下半身を持ち、

 両腕の先は鋭利な鎌状になっています。無数の肢で

 派手な音を立てて動き地を這う様に移動し、機敏な動作で

 死角から首や上半身を斬獲するのを専らとしています。

 縦長同様宴以外で見かけることは少ないですが、戦力指数は14、

 騎士級です。奇襲を受ければ一個小隊程度の損害は必至かと」


「あまり出遭いたくない類だね。

 命名理由としては外観の通りというところか」


ディードの説明にサイアスはその様な感想を述べた。


「酷い名前ばっかりで欠片も参考にはならなかったわね……」


「そうね。命名を投げ出したくなる気持ちも判らなくはないわ」


ロイエとニティヤはうんざりとして苦笑していた。


「第一印象でパパッとで決めちゃってるみたいから、

 ベリルもそんな感じでいいんじゃない?」


「えっと……」


ベリルはランドの助言を受け、暫し言い淀んだ後。


「私、その眷属のこと、よく見てないので、ちょっと……」


と述べ、


「あーそうよね。

 私らは後方の高台から遠目にぼんやり見てただけだもの」


とロイエが当時を思い出し、


「すぐにそれどころじゃなくなっちゃったしね……」


ランドはディードにサイアスが空を飛んだ下りを話して聞かせた。

ディードは目を丸くし、呆気に取られてサイアスを眺めていた。


「成程、噂には聞き及んでいましたが、それで天馬騎士……

 しかし、その後の件は、誠にお気の毒というか、その」


「……思い出してしまった……」


ディードに苦い色の想い出を掘り起こされ、

サイアスはべっこりへこみ、卓に突っ伏してしまった。


「まぁ、アレに関しては素直に同情せざるを得ないわね。 

 しょうがないわ。アレを注文するしかないかしら」


ニティヤはデネブに目配せをし、

デネブは件の特注品を頼みに厨房へと向かった。

デネブはサイアスの分だけ用意した場合確実に戦乱が勃発すると

看破し、人数分の特製果実酒を注文し、居室へと持ち帰った。

満を持して登場したスペシャルでスイーツな果実酒に

ロイエなどはキャアキャア叫び喚いて興奮し、

取りあえずサイアスの精神状態は回復した。



「件の眷属に関しては、

 上空からおおよその形状を確認しているよ。

 もっともすぐに閣下に倒されたから、動きまでは判らないけれど」


サイアスはすっかりご機嫌となってそう言った。


「あ、じゃぁ僕が絵にしようか。

 どんな感じか教えて貰えれば何とかできると思う」


不意にランドがそのように提案した。


「そういやあんた絵描きが趣味だったわね」


ロイエは再び思い出したようにそう言い、


「はは、役に立てそうで良かったよ」


と、ランドは白紙とペンを借り受け、

サイアスが特徴を語るのにあわせ、サラサラと眷属の姿を描き出した。

一枚目を特徴部位の描写に、二枚目をその組み合わせに使い

三枚目に完成形となる絵を無駄のない筆致で描き出して、

躍動感溢れる触手のうねりや今にも羽ばたきそうな翼らしき器官、

さらに最後まで手放さなかった大漁旗の絵柄まで如実に再現してみせた。

それを見た一同は手際の良さと出来栄えに感嘆の声をあげた。


「大体こんな感じかな…… 

 どう? 合ってるかな」


「合ってる合ってる。

 まさにこんな感じだったよ。

 凄いねランド画伯」


サイアスはすっかり感心してそう言った。


「が、画伯!? い、いやちょっとそれは」


ランドは照れてモジモジしだした。


「ベリル、これを見て直観で名前を付けてやっておくれ。

 どんな名前でも大丈夫だから」


サイアスはベリルを促し、ベリルは絵を睨みながら暫し唸ったあと、



「……はたこ。

 そう、これは、はたこ、です!!」



と絵を指差し呼ばわった。

ドヤ顔でふんぞり返るベリルを尻目に、

ロイエらは微妙な表情でコメントに苦しんでいたが、


「判った。『はたこ』だね。報告しておくよ。

 ありがとうベリル」


サイアスはそう言って笑顔でベリルの頭を撫で、

ブーク主催の茶会へ向かうべく準備を始めた。

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