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サイアスの千日物語  作者: Iz
第二楽章 魔よ、人の世の絶望よ
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サイアスの千日物語 四十三日目 その十

「えっ!? な、名前ですか……!?」


「そう。一つ宜しく頼むよ」


各自の装備を一旦片付け、ランドを招き入れての昼食の後。

茶を喫しつつ団欒しながら、サイアスはベリルに頼み込んでいた。


「眷属の名前かぁ。

 ちょっと想像も付かないわね」


ロイエはそう言って肩を竦めた。


「それも歴史に残るような、でしょう?

 そんな無理難題、よく引き受けたわね」


茶を喫しつつ他人事のようにニティヤが言った。


「無理難題ではないさ。

 結局のところ、赤黒のおじさん二人が満足すれば

 それでいい。だからベリルというわけだね。

 ベリルの命名であれば、あの二人絶対に喜ぶから」


「成程…… 

 流石は我が君、奸智に長けておられる」


ディードが褒めているのか貶しているのか

よく判らない感想を漏らした。


「奸智公、とブーク閣下が呼んだ魔が居た。

 正式名称では無いけれど。あれも今回出るんだろうか」


サイアスはどこか因縁めいたものを感じつつ、

まだ見ぬその存在の名を口にした。


「魔はそれぞれ活動周期がまばらで、一度の宴で出現するのは

 せいぜい数柱と言われています。私がこれまでに体験した中でも

 3柱を超した試しは無く、それも複数の夜に分かれての顕現でした」


サイアスの言を受けディードがそのように答えてみせた。


「へぇ、そうなんだ……

 どうにも効率が悪い気がするけれど、

 一体何を考えているんだろうね……」


ランドが客観的な見解を述べた。


「魔は平原でかつて神と呼ばれ崇められていた存在に近い、

 と聞いたことがあります。眷属の様に人の血肉を喰らうのではなく、

 魂そのものを喰らうのだとか。神が人の祈りや信仰を吸い上げ

 力と成すのに似ている、と」


「それじゃあわざわざ襲わずとも、祈りや信仰を受ける形で

 人に接すれば全て丸く収まるんじゃないかな」


まつることでまつりごとをなし、

おさめることでおさめる。

元領主らしい政治的な発想をランドは示した。


「私が魔であれば、遥か格下の羽虫の如き人の子に

 媚びを売る様な真似は断じていたしません」


「そっか。何だか凄く納得した……」


対等以下の相手とわざわざ交渉する物好きは少ないと

いうことか、とどこかディードの雰囲気が変わったことを

感じつつランドは頷いた。


「魔が神と同様であるとするならば、

 いわば荒神と呼ぶべきものです。まつろわぬ神を

 飼いならすなど、どだい人の身には余る所業。

 ならば打って払うべしというのが我らの業です」


「ふーん、成程ねー。

 まぁ遭ったこと無いからイマイチ実感湧かないけど、

 やる前から呑まれちゃダメだってのは判るわ。

 要は人間様舐めんなってことよね!」


ロイエはきっぱりそう言ってのけ、

デネブも頷いて賛意を示していた。


「……どうしたの?」


やけに涼しげな表情で会話に耳を傾けている

サイアスを見て、ニティヤがそのように尋ねた。


「神殺し…… 

 そういうのも悪くないね」


サイアスは僅かに目を細め、薄く笑った。


「ぅゎぁ……」


「あらあら、眷属はもう飽きちゃったのね」


ランドはドン引きし、ニティヤは新しい玩具をねだる

子供を見やるが如くサイアスに微笑んだ。


「フフ、まぁ人なぞ歯牙にも掛けぬ高次の存在と言い条

 魂はしっかり喰らっているわけですから、

 取り立てて畏れ敬うべき相手でもありますまい。

 良き心がけかと存じます」


ディードもまた不敵に笑い、サイアスに頷いた。


「何だか置いてけぼりだ……

 あ、同じ表情をしたベリルが居た。良かった……」


ランドは安堵の表情でベリルを見た。


「そういえば、眷属の命名の話をしていたんだった。

 なんかごめんね? すっかり盛り上がってしまって」


サイアスは悪びれもせずしれっとそう言い、

話を再びベリルの下へと戻した。

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