表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイアスの千日物語  作者: Iz
第二楽章 魔よ、人の世の絶望よ
330/1317

サイアスの千日物語 四十三日目 その三

「お待たせしちゃってごめんね。

 じゃ、ちょっと色々卓上に拡げさせて貰うよ……」


サイアスの居室へと戻ってきたランドは

一家が興味深げに見守る中、卓の脇に置いた大箱から

5つの塊を取り出した。


一つは第三戦隊長クラニール・ブークから拝領した攻城兵器等の

設計図集とランドの手書きによる数枚の図面を、それぞれ束ねあげた

ものだった。次なる一つは複数の棒や歯車を組み合わせた機構の一部

であり、残りの三つは木材と金属板、布等を巧みに組み合わせて

作られた人の頭部程の大きさの兵器の模型だった。



「順に説明していくね。

 まずはこの図面集。グウィディオンの件での褒賞として、

 ブーク閣下から城砦騎士団の所有する攻城兵器の設計図集を

 頂いたんだ。トリクティアの軍部やブーク閣下ご自身が考案した

 図面も混じっている貴重なものでね。現状僕の一番の宝物だね。


 ただこれらは大規模な独立部隊で運用することを前提に

 作られているから、小規模な特務部隊である第四戦隊で運用するには

 ちょっと手に余る感じでね。もっと小型化して携行性や機動性を高め、

 手早くポンポン使えるようにしないと付いてけないと思ったんだよ。

 そこで極力威力や射程を殺さず小型化して、さらに単独で運用できる

 ように操作性を改善したのがこっちの図面。


 それぞれ特徴のある3種類を用意してみたんだ。

 どれを採用するかはサイアスさんたちに決めて貰えれば良いかなって」


ランドはまずはブークに貰った設計図を示し、次に自身の書いた

図面を示した。形状や用途は似ているものの、小型化による

強度の低下等を補うべく随所に細かい変更がなされ、特に発射機構や

照準機器への変更はまったく新規の発明に近い程であった。


「おー、凄いねランド」


「伊達に自宅親衛隊やってないわね!」


「はは、有難うサイアスさん。

 ロイエのそれって、褒めてないよね……」


サイアスやロイエの評価にランドはやや照れていた。一方、


「戦車、ですね……」


とディードが図面や模型を眺めつつ頷いて見せた。


「馬に台車を曳かせてそこに兵士が乗り、長槍や弓

 さらには車輪等に付けた刃で敵を攻撃し、あるいは

 突撃蹂躙する古代の機動兵器です。平原の戦場で最強の名を

 欲しいままにしましたが、鐙の発達とともに人が直接馬に乗って

 槍や弓を操る様になると次第に廃れていきました」


「おぉ、流石だね…… 

 そう、発想はそこに近いんだよね。ただ悪路だらけの荒野では、

 移動しながらの発射はまだちょっと無理かなぁ。

 一応技術的な目途は立っているんだけど、時間をかけて検証して

 いかないと。なので第三戦隊のマンゴネルの様に、運搬面の

 利便性のみを求めているとみて貰った方が良いね。それで」


ランドは自身の図面のうち三枚を卓上に並べ、

それぞれの上に対応する模型を置いた。



「まずは一つ目。これは兵器としてはかなり寂しくてね。

 台車の中央やや前方に可動する円形の台座に盾の付いた

 大型の弩を支柱に固定して設置し、台座や支柱の操作に

 よって適宜射撃の方角や仰俯角を変える仕組みのものだね」


ランドは一つ目の模型を手に取り、

弩の部分を動かしながら示してみせた。


「兵器として寂しいというのは、ちょっと大きい弩を撃てる

 という以外に見るべき特徴が乏しいからだね。ラーズみたいに

 自在に動き回れる弓の達人と比べたら、まるで霞んでしまうんだ。

 ただ大型の弩、バリスタは矢以外にもいろいろなものを

 打ち出せるから、そういった汎用性を勘案すれば十分使いでは

 あるだろうね。ほとんど既存兵器を組み合わせただけだから、

 一番作成しやすくもあるし」


ランドは通常の矢の他に石球や皮袋、油の詰まった瓶なども

飛ばせることを説明した。流石に後半の代物は弓で撃つのが困難であり、

組み合わせ次第では十分機能し得ると見えた。


「荷台にバリスタを据えた兵器はかつて実在していました。

 やはり戦車と同様に廃れていきましたが、

 一定の成果は上げていたようです」


ディードはそのようにランドの説明を補った。

サイアスやロイエ、ニティヤやベリルまでもが興味深げに

バリスタ付き台車の模型を眺めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ