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サイアスの千日物語  作者: Iz
第二楽章 魔よ、人の世の絶望よ
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サイアスの千日物語 四十二日目 その十三

ロイエとベリルの武器選びは極めて敏速に終了した。

ロイエはインクスや職人らに自身の要望を過不足なくてきぱきと伝え、

気風の良さを喜ばれつつ戦場剣を特注した。さらにベリルと共に

ウラニアの持つ両手斧「月下美人」の写しを所望し、各自の体格に

合わせたものを別途用意して貰うことになった。


「月下美人の写しに関しちゃちぃと時間が掛かっちまうが、

 他は明日朝まとめて届けさせよう。他に要りようなのが

 あったら職人どもの習作を買ってやってくれ」


インクスは以前のサイアスの時と同様にそう言うと、

早速作業に取り組み始めた。サイアスらは丁重に礼を述べ、

職人らが修練と小遣い稼ぎで作成した支給品よりやや上質な

一品ものをいくつか買い取り、笑顔で見送られて営舎へと戻った。



第四戦隊営舎の詰め所では半数に近い10数名の兵士らがたむろしており、

中には騎士デレクの姿もあった。デレクは机に突っ伏してべちゃりと

へばっており、サイアスらの帰着には気付いていないようだった。


「よぉお帰り。じきに剣聖閣下が来るって話だぜ」


兵士に混じって雑談していたラーズがそう言った。


「なんつーか、見事なまでに所帯染みてるな。

 尻に敷かれてる感が半端ないぜ」


同様に違和感なく混じっていたシェドがそう言った。


「今機嫌を損ねるとおやつ抜きになるけど、良いのかい」


サイアスはシェドにそう告げた。


「何! おやつ、だと……!?」


「一応アンタらの分も魂焼き貰ってきたんだけど、

 そうかぁ要らないかぁ。ところでランドは?」


「ハッ。ランドでしたら居室にて図面を引いておりまする。

 ただちに呼んで参りますので、今暫しお待ちくださいませ」


周囲がドン引きするほどの変わり身でシェドが執事プレイを開始し、

恭しく一礼するとランドを呼びにすっ飛んでいった。


「あいつ人生楽しそうだよなぁ……」


「それなりに苦労もしてるんだけどな。

 まぁ大半は自業自得っつぅか」


兵士らとラーズはそう言って笑い、サイアスは個数の多い鍛冶場焼き

改め修羅場焼きを詰め所の皆にお裾分けした。


「おー、武器工房行ったんか。

 あそこの親方子供好きだからなぁ」


「兵士も職人もみんな子供扱いでな。

 職人衆は一人前扱いされたくて必死になってるらしいが」


「へぇ。俺ぁおやつくれるんなら子供扱いで一向に構わねぇが」


「職人てのはプライド高ぇのが多いからな。

 まぁその分俺らが甘えてやるぜ」


ラーズは兵士らと談笑していた。そこに居室からベオルクが現れた。


「ワシを差し置いて甘味を堪能するとは何事か。

 まず真っ先に声を掛けよ」


とニヤニヤしながらやってきて、修羅場焼きをひょいぱくした。

二つ、三つと続けてつまみ一息付いたベオルクは、呆れて見やる

供回りに対し、来客用も兼ねて茶を取りに走らせた。


「おいデレク。お前もへばってないで一つ馳走になれ。

 でなければワシが全て食ってしまうぞ」


ベオルクの発言に危機感を感じた兵士たちは、

さっさと自分の分を確保した。


「うぅ、きちぃ、身体痛い……」


「気付け薬、要りますか……?」


呻くデレクにベリルがそう問い、


「大丈夫だ、問題ない! 

 うむ、鍛冶場焼きか。いただきまーす」


と鍛冶場焼きを頬張った。


「デレク様、ラーズもですが、明日の午後ブーク閣下が

 演奏会の打ち上げで茶会を催すので来て欲しいと仰ってました」


「やった!! 正正堂堂サボれるじゃないか!!」


サイアスの伝言に飛び起きて雀踊りし始めた。どうやらまだまだ

余力を隠し持っているらしかった。と、そこに

ランドを連れたシェドが戻ってきて、


「!!? 俺の分! 俺の分は!!?」


とうろたえ始め、


「アンタらのはこっちにあるわよ! 

 まったくうっさいわねぇ」


とロイエは工房での自分を棚上げして

別に取っておいた魂焼きを小隊の男衆に差し出した。



「ほぅ、何だこりゃ。見たことねぇな」


「何となく卵系な感じだね。貰っていいの?」


「どうぞ! 箸で摘まんで出汁に漬けて食べるのよ、

 ってもう遅いか……」


ロイエの説明を待たずして誰より早く手を出したシェドが

器の出汁を木皿にぶちまけ、手でひっ掴んで口に運んだ。


「……まぁ箸は知らねぇだろうし、

 野郎3人でつつくとなりゃあこうなるわな。つぅか美味ぇな。

 まだ十分に温けぇが、焼き立てはさぞ凄かったんだろうな……」


とラーズが器用に箸を用いつつ感想を述べ、


「本当だねぇ。魂焼きかぁ。

 名前はびっくりだけど、とても上品な美味しさだよ」


とランドもほくほく顔で同意した。

シェドはと言うと、一つ目をぱくついた後うずくまる様にして

拳をプルプルと震わせ、ぐわっと伸び上がって絶叫した。


「震えるぞ魂! 燃え尽きるほど焼!! おおおおおぉおっ!!」


「黙って食え」


「うっす! いったらっきまーっす!」


四方八方から総ツッコミを受けつつも

シェドはめげずにムシャムシャと魂焼きを堪能した。

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