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サイアスの千日物語  作者: Iz
第二楽章 魔よ、人の世の絶望よ
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サイアスの千日物語 四十二日目 その七

食事を終え、茶を喫して一息付いたサイアスは

就寝中に届けられた他の書類にも目を通し、適宜署名して

区切りのついたところで出かけることにした。


「今日は夜まで休みでしょう?

 部屋でゆっくりしていたら?」


ニティヤはソファーに腰掛け葡萄を堪能しつつそう言った。


「厩舎と工房へ行ってくるよ。厩舎へは馬の空き具合を確かめに。

 馬術訓練の講師役をヴァディス姉さんが引き受けてくれたから、

 こちらで馬が複数使える時間を押さえておきたいんだ。

 クシャーナやミカにも会っておきたいし。

 

 工房へは武具の修繕目的。昨夜はかなり暴れたからね。

 デネブは工房長にギェナーの報告もしたいんじゃないかな。

 防具工房の方でも、ベリルの帽子が出来あがっているかも知れない。

 気分転換に皆でのぞきに行くのも良いね。どうする?」


「良いわね。行きましょ! 

 じゃあちょっと待ってて。さっさとこいつらやっつけるから!」


ロイエはそう言って全力で書類を殲滅し始めた。


「私もですか……?」


軍馬に乗るにも武具を扱うにも

とにかく小柄に過ぎるベリルは上目がちにそう言った。


「あら。留守番するの?

 なら宿題をたっぷり出さないと」


「えっ? えっ!?」


ニティヤに笑顔で脅されて

ベリルは全力で怯んだ。


「馬に乗れないならデネブやサイアスに乗ればいいじゃない」


冷徹に殲滅作戦を遂行しつつ、

サイアスより頑丈そうなロイエは自分を棚上げしてそう言った。


「肩車でもしようか? 

 おんぶとか抱っこの方が良い?」


「!? じっ、自分で歩けます!!」


サイアスに笑顔でそう言われ、

ベリルは真っ赤になって慌て始めた。


「ははは、照れてる」


サイアスはそう言って笑い、周囲も知らず微笑んだ。


「本当、可愛いわね。 ……でも」


ニティヤがそこで一呼吸置き、じっとサイアスを見つめた。

お姫様然とした穏やかな微笑を浮かべてはいるが、目は据わっていた。


「余所の女に言ったら許さないわ」


女衆が一斉に頷いた。

サイアスは昨夜の散歩以上に肝を冷やした。



「起きたかサイアス。まるで参謀長だな」


休息中ということで、ローブ姿のまま詰め所に入ってきた

サイアスを見て、ベオルクが愉快げにそう言った。


「いざ着てみると、物凄く楽ですね、これ。

 軍師がローブを好む理由が判った気がします」


サイアスは敬礼して挨拶すると、出掛ける旨を申告した。


「良いとも。ついでに防具工房の長マレア殿に

 この書状を届けてくれ。デレクの鎧を新調するのでな」


「了解しました。例の任務用ですか?」


サイアスは書状を受け取り何気なく尋ねた。


「そうだ。あいつは放っておくとすぐ軽装になるからな。

 野戦や騎戦なら機動力でどうとでもなるが、さすがに坑道内ではな。

 閉所でのブレスは回避が効かん。吐かれた時点で丸焼き確定だ。

 火気に弱いのは敵に限った話ではない。そこで全身を覆ってやると」


「丸焼きが蒸し焼きになる……?」


「……それもそうだな」


ベオルクは眉間に皺を寄せ暫し思案した。が、


「ま、香草を詰めて岩塩で包むのも悪くない。

 もっとも、ワシの好みは特製だれで食う串ものだがな」


と得意の勿体ぶりヒゲで言い放った。


「私は小悪魔風が好みです」


「唐揚げ! 唐揚げ!」


「手羽先も捨てがたいわ」


サイアスらは即座に料理の好みを主張しだした。


「判った判った。厨房長に相談してみると良いだろう。

 お任せで作るよりも注文される方が嬉しいらしいからな。

 厨房長は古今東西のあらゆる料理が作れるぞ。

 特に肉料理と焼き菓子に関しては達人級だ」


ベオルクはヒゲを撫でつつニヤリと笑った。


「おぉー!」


サイアス一家は歓声をあげた。


「……ねぇ、そういえば

 鎧の話をしてたんじゃないかしら」


ニティヤが正鵠無謬な指摘をした。


「ふむ、そうだったか? そうかも知れんな……

 そうだサイアス。皆で行くならついでに装備を見繕ってやれ。

 ベリルにも専用のものを用立ててやるといい。特注で構わん。

 費用は戦隊のツケでいいぞ」


「おー」


「やった! ありがとうおじ様!」


「うむ!! 

 ……ぅぉっほん。では行くがよい」


にやけた顔に供回りから刺すような視線を向けられ、

一つ咳払いをしてベオルクはサイアスらを送り出した。  

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