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サイアスの千日物語  作者: Iz
第二楽章 魔よ、人の世の絶望よ
307/1317

サイアスの千日物語 四十一日目 その十

本城天頂部独立区画における平原と荒野の代理戦争は

激闘の末人類側の勝利で幕を閉じた。開け放たれた扉の外は青空であり、

貯蔵庫の物資から運び設置した大時計によれば時刻は午後の4時半過ぎ。

戦闘開始からおよそ二時間が経過しても夏の太陽は未だ高く、

精兵たちは凱歌を歌いつつ、お茶会へと活躍の舞台を移した。


セラエノの庵の大広間は、かつての面影を欠片も残してはいなかった。

当初は山積する物品に対し一応の配慮を以て排除していたものだが、


「100年放置していたものが、今後必要になる訳無いわ!

 どうせ消費期限切れよ! 燃やしてしまえ!!」


とのロイエ将軍の一声により、後半は焦土作戦に切り替えられた。

中二階とは完全に独立していることや外壁が石造りなことも幸いして

油と松明を適正に運用した焼き討ちは抜群の成果をもたらし、

いかがわしい謎生物の類は根絶され、灰燼に帰して下界へと飛散した。


途中から業火による浄化に移行したため手の空いたサイアスは

貯蔵庫の物資を物色しはじめ、やや年代を経てはいるが新品である

豪奢な敷物や調度品の類を見つけ、上階へと運んだ。それらは

ニティヤの裁量で適宜配置され、マナサの居室にも似た

客間兼居間を構築した。こうして一行は作戦を完了し、汚れた上着を

まとめて処分し、下階の物資からセラエノ用の衣服を各自分捕り

着替えた上で、お茶会へと至ったのだった。



「初めてお客を招いたら制圧侵略略奪されたうえ、

 暫定政府まで置かれた件。だが許す! 許すぞぉ!!」


セラエノは年代物ながらフワフワにしてフカフカな

最上等の毛皮の敷物の上をゴロンゴロン転がりながらそう言った。


「参謀部入りして10年近くになりますが、まさか

 閣下の庵がこのようなことになっているとは

 ゆめにも思いませんでした」


ルジヌはデネブの給仕を一礼して受け、杯を口に運んだ。

中身はラインの黄金であり、普段の気難しい表情は

蕩けるように消え失せた。


「ずっと階段付けなかったのは、

 きっと隠ぺい目的でしょうね……」


「だろうなぁ。

 アトリア以外は誰も入れようとしなかったしな」


フェルマータの言及に

再び酒が入って上機嫌なヴァディスが頷いた。


「私はその、余りこういったことが

 気にならない性分ですので……」


パイをパクつくアトリアはややバツが悪そうにそう言い、


「それも見越しての人選か。

 さすがは閣下、保身の鬼」


「し、失礼なこと言うな! ばかぁ!」


ヴァディスが杯を傾けそう述べて、

セラエノは大きなモフモフのクッションにしがみ付きつつゴネた。

どうやら幸せいっぱいのようだ。


「すると……

 アトリアの部屋もヤバい、のかな」


「その可能性は非常に高いわね……」


フェルマータは楽しげにさらなる分析をおこない、

ほんのり酔い加減のニティヤがこれに賛同した。


「うむ、次はロイエンタール将軍に

 アトリア宅の攻略をお願いせねばなるまいな」


「!?」


「お任せあれ!! 当然お茶会もセットよね!!」


ヴァディスから新たな下命があり、焦るアトリアをよそに

ロイエは報酬目当てでこれに応じた。



それからさらに一時間程、酒や茶、菓子や料理を堪能し、

大いに騒ぎ笑いゴロゴロしてお茶会はお開きとなった。

帰りはセラエノが庵の玄関となる扉から中層外壁まで一人ずつ

抱えて運び、さらにセラエノは100年分の物資から各自の気に入った

ものを手土産に与えた。食糧は普段から自分で地上に降りて物色するため、

物資の大半は調度品や衣服、書物の類であり、今では既にアンティークと

なっている由緒ある調度品や古式の衣服または装飾品等を手に入れ、

一向は一様にホクホクであった。


ベリルはセラエノに遊覧飛行をして貰ったため、居室に戻ってからも

興奮し通しで、よく判らないことを早口でまくしたてていた。

サイアスは帰りに工房へと寄り、羽根付き帽子を注文し

修羅場焼きとシェドやランドの短剣を入手して居室へと戻った。

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