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サイアスの千日物語  作者: Iz
第二楽章 魔よ、人の世の絶望よ
304/1317

サイアスの千日物語 四十一日目 その七

「ここが13階、中央塔上層となります。

 上層にはこの13階とさらに上に独立区画があるのみです。

 13階は当城砦の指令部となっており、

 一般的な表現としての『軍上層部』と同義を成しています。

 

 本城は俯瞰した場合四角錐をしているため、

 中央塔の外部は上へ向かうにつれ狭くなっています。

 13階の塔外部は丁度本城地上部分の中枢区画、

 すなわち十字路に連結した中央塔や参謀部のある広場そのものと

 ほぼ同程度の広さになっています。


 平原の建造物でいえば城や宮殿の尖塔の先の鋭利な

 装飾部分よりもなお高い位置にあるこの上層の塔外では、

 天体観測や平原西端との狼煙や反射光による情報交換等が

 行われています。


 上層には軍議用の会議室と防衛戦用の指令室、情報分析室など

 数室が入っているのですが、そのうち指令室への入室許可を

 先行したヴァディスが取っているようです。

 良い機会ですのでご案内しましょう」


そういってルジヌは階段脇の通路を折れ、

少し進んだ位置にある左右を兵士が守る扉を開いた。

内部は第四戦隊の詰め所をやや広くした程度の広間であり、

窓はなく、床も天井も壁面も、皆一様に真っ黒に塗り込められていた。

さらに扉正面奥の天井は壁に向かって斜めに下がるように傾斜しており、

傾斜部手前の台座には巨大な玻璃の珠が置かれていた。


「見ての通り灯り一つない殺風景な部屋ですが……

 フェルマータ、お願いできますか?」


ルジヌはそれまでのほほんと着いてくるだけだった

軍師フェルマータに声を掛けた。


「はいはい。折角ですからサービスマシマシでいきますよー。

 この指令室にはいくつかの玻璃の珠がありますが、

 これをちょちょっとこうすると……」


フェルマータは傾斜部手前の台座に鎮座する一際大きな玻璃の珠に

近付き、静かにその手をかざした。すると玻璃の珠が明滅し始め、

斜面となった天井に複数の色合いで城砦近郊の地図を映しだした。

おぉ、と驚嘆の声が一行から漏れた。


「玻璃の珠の内部には、先日の『虚空のソレア』と同様に

 いくらかの術式が封入されています。魔力を当てると起動して、

 関連情報を周囲に投影する仕掛けです。なのでここは一面真っ黒。

 奇しくも黒の月の夜と同じ感じになってますねー」


フェルマータは楽しげにふらふらと歩き、

散在する他の玻璃の珠にも手をかざしていった。

玻璃の珠は順次脈動明滅し、天井や壁面、さらには床に

様々の映像情報が現れ、黒一色の部屋は情報の光に満ち溢れた。


「宴の際には参謀長以下十数名の軍師と騎士団長以下数名の騎士や兵士

 伝令がここに詰め、逐次情報を更新し映像で描写しつつ

 状況分析や作戦立案、そして遂行を執り行うことになります」


ルジヌの補足に合わせ、フェルマータは鼻歌交じりで

とある玻璃の珠の表面を撫でた。すると斜面の天井の情報が変化し

城砦北門外の様子が映し出され、一隊が巡察に出動する様が観てとれた。


「想像を絶する凄さだわ…… 

 机に地図置いて駒遊びする、私の知ってる司令室とは大違い」


ロイエが驚き呆れかえってそう言った。


「それが普通です。ここが特殊なだけです。

 平原にこれらの仕組みが漏れると要らぬわざわいを招くため、

 治癒技術ともども魔術を用いた諸技術は秘匿されています。

 そういう訳ですので、ここで見たことは当面部外秘でお願いしますね」


「えぇ、勿論よ…… 

 おしゃべりを置いてきたのは正解だったわね」


「あー確かに。酔った勢いで得意げに話しそうね……」


と、ルジヌの言にニティヤとロイエが応じた。


「ここ人智の境界は知識や技術の最前線でもあるため、

 様々な軍事、科学技術が持ち込まれ、あるいは産まれて

 持ち帰られていくのですが、魔に関する技術や知識は

 その特異性や再現性から言って、扱いが非常に難しいところです。

 今もなお東方域で戦乱の火種が燻り続ける状況を鑑みても、

 これらの技術の普遍化はさらなる時代の推移に委ねるべきでしょう」


ルジヌは最後にそう言って指令室での説明を終えた。

闇と光の織りなす不可思議な空間を堪能したサイアスたちは

指令室を退出して、階段をさらに上へと進んだ。

およそ半階分ほど進んだところで階段の行く手はその風景を変化させ、

僅かに灯りの漏れる別の空間へと繋がっていった。


現れたのは塔一階の大広間をやや広くした程度の開けた空間であった。

方々の隅には空隙があり、昇降用の装置らしきものが設置され、

付近にはいくらかの資材が積んであった。天井は高く優に三階分程はあり、

上に行くにつれ狭くなる天井の中心部分には四角柱の突出しがあり、

その脇には引き出しを縦にぶら下げたような踊り場らしきものがあった。


「ここが中央塔の頂上にして本城天頂部独立区画です。

 四方隅には物資搬送用のリフトや空隙がありますので、

 そちらを歩く際は足元に注意してください。

 頭上に見えているのが今回の目的地である参謀長の庵の

 基底部にあたる物資搬入用出入り口と踊り場です」


ルジヌはそのように説明し、先行して待機していた

ヴァディスに向かって頷いてみせた。


「お、着いたか。ここが玄関先というか、勝手口というか、

 そんなところだよ。随分足も疲れたろうが、後少しさ。

 今暫く、美味い酒のために頑張ろうじゃないか」


ヴァディスは薄く笑って一行に合流し、

いよいよサイアス一行はセラエノの庵へと足を運ぶことになった。

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