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サイアスの千日物語  作者: Iz
第二楽章 魔よ、人の世の絶望よ
302/1317

サイアスの千日物語 四十一日目 その五

時刻は午後の一時半。丁度訓練課程の午後の部が開始されていた

この時刻に、サイアスは本城中枢の中央塔前にやってきた。

塔の前ではヴァディス他数名が待ち構えていた。


サイアスは一人でやってきたのではなかった。

珍しく道を歩くニティヤや茶菓子入りの籠を下げたデネブ、

さらに興味津々といった様子で周囲を見回すベリルや

それを見守るロイエをも伴っていた。要は家族ぐるみだった。

昼食時の会話にて、寂しがり屋なら皆でどうだとなったからであり、

さらにロイエの核心を突く一言、すなわち


「滅多に人の来ない前提の部屋なら、私なら絶対に片付けないわ! 

 閣下の部屋ってヤバイんじゃないの? 

 割と深刻に、女子として、というか人として……

 ここは家事のプロが必要でしょ!」


ということで、今や誰もが認める甲冑メイドたるデネブを

連れていくべきだとなり、残りはお茶会要員とのことだった。


ここに男衆が一人も混じっていないのは、

仮にも面食いを公言して憚らぬ不思議系女子の部屋へ赴くのだと

いうことと、場合によってはサイアスが抱きかかえて

庵まで運ぶこととなるために、男を抱きかかえたくない、

かつ抱きかかえさせたくないという、全会一致の主張によるものだった。



二時ごろ居室に迎えにいくという話であったが、

ヴァディスは参謀部の表で立ち話をしつつ待っていたようだ。

その相手とは3名の軍師であり、ルジヌにフェルマータといった

見知った顔ぶれに加え、ロイエらには初対面となる人物も混じっていた。

彼女らは非番ではないものの、彼女らに下知する役目を担っているのが

他ならぬセラエノであることから、まぁ良かろうとなし崩し的に

同行するつもりらしかった。


ルジヌは仄かに香ばしく香る大きな包みを持参しており、

ロイエなどは早速匂いを嗅ぎつけて挙動不審となっていた。

フェルマータは例によって心が宙に舞うかのごとく楽しげであり、

今一人はこれとは対照的に無表情かつ無感動な様子であった。

伝令等で面識のあるサイアス以外には初対面となるこの軍師は

アトリアといい、定期的にセラエノの居室を訪れているとのことだった。


「閣下は宴の時期を除くとほぼ休眠状態になられるため、

 身辺状況の情報更新、有り体に言えば生存確認のため

 10日に1、2度の頻度で庵へと赴いております。

 

 下階から物資搬入用の踊り場までは

 鉤縄を投擲し踊り場の金具に引っ掛けて登攀しています。

 私は軍師となる前はとある小国の特殊部隊におりました。

 現状こうした手段で登攀できる者が参謀部には私しかいないため、

 専らこの任務を担当しております」


アトリアは軍師特有の的確かつ説明的な口調でそう言った。


「物資を搬入する際はどうしているのかしら」


ニティヤの問いに、


「物資は概ね月に一度、資材部の人手が搬入しています。

 この際にのみ、梯子や台座といった運搬用機材の使用が許可されます。

 閣下はその存在の特異性から平原から秘匿される立場の方ですので、

 当人の出不精も相まって、普段はさながら神仙のごとき暮らしを

 なさっておられるのです」


とアトリアは淀みなく答えた。


「何だかイヤな予感がヒシヒシと。

 アトリア様! 閣下のお部屋って、その……

 凄いことになってないですか? 迷宮とか秘境とか、腐海とか……」


ロイエがアトリアにそう問うた。


「私は任務の遂行を最優先としていたため、

 特段気にしたことがありませんでした。有り体にいうと、

 任務地とは見做しても居室とは見做していなかったというか……

 また閣下ご自身は飛べるため、

 足元の状態にはあまり拘りがないようです。

 そうですね、ごく控えめに表現するならば……

 特別な器具がなくても踏破可能な状態、

 と言えるのではないでしょうか」


「あー、これは駄目だわ。

 着いたらまずは大掃除ね……」


ロイエはそう言ってため息をついた。


「ははは。普段自分からあちこちへ出向いているのは、

 どうやらそこらにも理由がありそうだな。

 まぁひとつ、主婦の底力でなんとかしてやってくれ。

 ではまずは中央塔へ。折角だから色々案内してやろう」


ヴァディスは笑ってそう言い、中央塔へと進んでいった。

一同もそれに倣い、城砦の中枢区画である中央塔の中へと入っていった。

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