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サイアスの千日物語  作者: Iz
第二楽章 魔よ、人の世の絶望よ
301/1317

サイアスの千日物語 四十一日目 その四

「うむ、堪能した堪能した。

 苦しゅうないぞ。御感斜めならずだ」


ヴァディスはすっかり上機嫌でほっこりしていた。

既に瓶の方は空であった。


「これはベオルク様が実家から預かってこられた荷物に

 入っていた分です。手紙に書いて送った分は

 また別に来るんじゃないかな」


「おぉ!? 凄いな…… 流石は原産地の親玉。

 ここはひとつ、私も実家から分捕ってこないと……」


「実家で何か生産されているのですか?」


「馬」


「!?」


「実家は王家の遠縁でね。王家の森で軍馬の生産を監督しているんだ。

 軍馬生産は王家の独占事業だからな。平原全体の名馬の

 3割程はウチで育てているぞ」


「おー」


平原北方の森林地帯を主たる領土とするカエリア王国は

軍馬の産地として広く知られていた。カエリアの実に

代表される果実と木材、これら三種の交易がカエリアの

対外収益の大部分を担っていた。


「ラグナ様の方でも用意はしていそうだが、

 何、その時は二頭持てばいいんだ。

 実家の家督は不肖の弟が継いでいるが、アイツは

 とてもこすっからいからな。手紙では無視する可能性がある。

 ここは一つ、私がこの手で活きの良いのを分捕ってきてやろう。

 馬種や毛色に好みはあるのか?」


「クシャーナみたいなのが良いです」


「クシャーナ? マナサのか? 

 あれは連銭葦毛だな。なら葦毛か左目毛、もしくは月毛

 といったところか。馬種も重騎兵用のゴツいヤツよりは

 スラっとした方が好みなのだな。この面食いめ…… 

 まぁ任せておけ。必ず上玉かっ攫って見せよう」


「やった!! ありがとう姉さん!!」


「はは、現金なヤツめ。

 では宴が済み次第行ってくるかな。

 ついでにカエリアの実も分捕って来よう」

 

ヴァディスは照れ隠しなのか、サイアスの頭をワシワシと撫でた。


「そういえば確か何か頼みがあるのではなかったか。

 そちらはすぐにでも対応するぞ?」


「あぁそうでした。

 実は私や配下に馬術を教えて頂きたいのですが」


サイアスは肝心の要件をようやく伝えた。


「良いぞ。昼からやるか?」


ヴァディスは二つ返事で応諾した。


「いえ、実は午後はセラエノ閣下から庵に来るよう

 命を受けているんです」


「鳥の巣に? どうやって?」


「鳥の巣て。実は昨日……」


サイアスは昨日のフェルマータとのやり取りなどを

掻い摘んで話した。


「虚空のソレア、か……

 宙を歩けるとはいえ僅かに数十秒。並みの者には

 真価を見出すことが難しいのかも知れないが」


ヴァディスは目を細め、試すような口調でサイアスに言った。


「前日に空中戦を経験していますので、流石に気付きます。

 斬り合いでの踏み込みなら一秒もかかりません。

 変幻自在な攻撃や回避が数十回できるという事かと」


「然りだ。庵に来いというのは半分は欺瞞だろう。

 仮に平原に伝わった場合、梯子代わりの奇妙な道具程度に

 思わせるための、な。この辺は治癒技術を秘匿している理由にも

 通じるものがある。もっとも残り半分は完全に私用。

 本当にお茶会したいのだろうな。寂しがり屋だからなぁ」


「良かったら一緒にどうですか? 閣下のところにも

 ラインの黄金を持参する予定ですが」


「行くとも。酒のためだ。万難を排してでも行かねばなるまい」


ヴァディスは即答し、玻璃の珠時計を見た。


「11時か。何か食べるか?

 確か昨日ルジヌが持ってきたパイがまだある」


「いえ、一旦戻って居室で昼食にします。

 ……って、ルジヌさんが、パイを?」


「あぁ。アイツは料理が得意なのだ。それはもう几帳面だからな。

 わずかの誤差をも許さずに、完璧にレシピを再現する」


「はは、そんな感じがする」


「料理は突き詰めれば錬金術の様なものだからな。

 軍師の趣味としては合っているのだろう。

 まぁ私は食べる方専門だがな!」


「それもそんな感じがする」


サイアスはそう言って笑った。


「ちょっと待ってろ。ルジヌのパイを分けてやろう。

 あいつは訓練課程の教官だったのだろう? 

 良い話のタネになる」


「おぉ、皆も喜びます。ではまた午後に。

 二時頃に迎えに来ますね」


サイアスはパイを包んで貰い、

デネブに持たせてヴァディスの居室をあとにした。

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