表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
295/1317

サイアスの千日物語 四十日目 その四

午後3時半、内郭南西区画、第三戦隊営舎前広場。

演奏と合唱による熱狂の余韻を残したまま配属式は終了し、

見習い兵士たちは上官に率いられ、新たな配属先となる

各区画の営舎へと移動を開始した。


ブーク指揮下の演奏隊は彼らの行軍を後押しすべく

さらなる楽曲を演奏して見送り、人の群れがほぼ消えた後、

後片付けに励む工兵共々、打ち上げを約して解散となった。

サイアスとラーズは待機していたデネブらの列に合流し、

サイアスを先頭としてラーズはヴァイオリン片手に、

サイアスはデネブにハープを運んで貰いながら

北西区画の第四戦隊営舎へとひきあげた。



営舎に着いてすぐ、正式に第四戦隊へと配属されたロイエら7名に対し、

認識票と玻璃の珠時計の授与等々の諸手続きが行われた。

またサイアスに対しても第四戦隊兵士長への任命が正式に成され、

これを以てサイアスは城砦兵士の最上位の立場を担うこととなった。

サイアスの認識票には北西区画内郭を指す位置に小粒のルビーが

追加されることとなり、サイアスは取りあえずご機嫌となっていた。



「参謀部のフェルマータです。サイアス様は居られますか」


営舎にローブ姿の軍師らしき女性が現れ、サイアスを探した。

その場にいた全員は一斉にサイアスを指差して示し、

フェルマータなる女性軍師はやや楽しげな表情を浮かべつつ

サイアスの下へとやってきた。


「サイアス様、初めまして。

 参謀部付き軍師の一人、フェルマータです。

 昨日の参謀長による特務の遂行に対する報酬をお届けにあがりました。

 まずは目録をご確認ください」


フェルマータはサイアスに書状を一通差し出した。

早速ロイエやシェドが横合いから書状を覗きこんできたので、

サイアスはしっしっと追い払い、内容を音読することにした。


「発参謀長セラエノ、宛第四戦隊兵士長サイアス・ラインドルフ。

 前人未到の比類なき武功を賞し、以下の三点を報酬として与える。

 1.勲功15000点

 2.セラエノと好きな時に遊べる権

 3.魔宝「虚空のソレア」

 なお、別途特務を追加する。適宜遂行されたし……」


「うわー……」


シェドが何とも言えない感想を漏らした。


「あの、二番目の報酬はちょっとどうかと……

 それに、報酬なのに任務付けるとか、酷くないですか……」


ランドがやや遠慮がちながら同情気味にそう言った。


「まぁ二番目も任務みたいなものです。

 あの方に気に入られたのが運のツキですよ?

 ここはスパっと諦めちゃってください!

 参謀部の平穏と静謐のため、是非頑張って世話してください!

 ……オ、オホン。今のは聞かなかったことに……」


「うわ、丸投げしよった」


「しかも逃げよった」


「汚いなさすが軍師汚い」


シェドやたむろしていた兵士たちがそう言った。


「何よ! 文句あるの!? 

 もう飲み会に来てあげないわよ!?

 美女と飲める機会が無くなってもいいの!?」


「とんでもない! 

 サイアス程度、いかようにもお使いください!!」


フェルマータは軍師にしては割と軽い性格らしかった。

そして第四戦隊の兵士たちはそれに輪をかけて軽く、

躊躇なく上官を売りとばした。


サイアスはジト目でそうした連中を見やっていたが、


「三番目の魔宝『虚空のソレア』とは何ですか?」


と問うた。


「あ、それですか。少々説明が必要でして。

 そのためにこうして出向いて来たんですよぅ。

 まず、魔宝というのは、魔力の宿った宝物と言う意味です。

 普通の宝物と異なる点は、大抵の場合道具として

 使用できるという点ですね。ただし用いるには魔力が必要で、

 使用するたび気力を消耗してしまいますが……」


「おぉ、マジックアイテムとかかっこよす!」


シェドが興奮してそう言った。


「あはは、ですよね! でも調子に乗って使いまくると

 昏倒したり発狂したりしますから程ほどに! あはは!」


「おぃ、笑いごっちゃねぇ……」


「まぁまぁ。火と同じようなモノです。

 用法用量を守って正しく使えばいいんですよ。

 では虚空のソレアはこちらになります」


そういって軍師フェルマータは七色に輝く二枚の板きれ

のようなものを取り出した。掌二つを縦に並べた程度の

大きさのそれは半透明で不規則な色合いの変化を起こし

続けており、そこに本当に存在しているのか

疑わしい有様ですらあった。


「変わった外観ですね……」


サイアスはキラキラと色の変わる虚空のソレアに興味を示した。


「概念物質というヤツですね。実体のない概念そのものを

 利便性のため一時的に染色して具現化しているのです。

 虚空のソレアとはその実、魔術の術式そのものなのです」


「魔術…… だと……」


シェドはうわごとのように呟いた。


「魔術…… です…… 

 まぁ詳しいことは省きます!

 めんどくさいんで!」


「……なぁ、この軍師いわゆるハズレじゃないのか?」


「失礼な! 魔術には割と詳しいのよ!?

 ……オホン。ではサイアス様、ブーツを脱いで裸足で

 これを踏んじゃってください。むぎゅっと!」


サイアスは無言で指示に従い、両の足それぞれで

一枚ずつ虚空のソレアを踏みつけた。すると虚空のソレアは

すぅっとサイアスの足に吸い込まれ消えてしまった。


「おぃ! 消えたぞ!」


すっかりツッコミ役にまわったシェドがそう言った。


「あぁ、消えましたね…… どうしましょう」


「ちょっ!?」


「なんて、冗談ですよぅ。これで良いんです。

 ね? サイアス様」


「ね? と言われましても……」


サイアスは靴下とブーツを履いて肩を竦めた。


「虚空のソレアは魔術の術式そのものですから、

 元々形はないんです。サイアス様は今、虚空のソレアの術式を

 その身のうちに取り込んだわけです。平たく言うと」


フェルマータは一旦言葉を切り、ややためてから告げた。


「サイアス様は魔術を習得したのです」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ