サイアスの千日物語 二十八日目
翌朝。サイアスは食堂で食事を済ませ、詰め所へと向かった。
詰め所にはベオルク以下数名の騎士と兵士たちがいた。
サイアスは挨拶をしてベオルクのところへ向かった。
「おはようサイアス。武器決めは済んだかね」
ベオルクはサイアスに問うた。
そういえば武器を決めるために練兵所へ行ったのだった、と
今更ながらに思い出したサイアスは、とりあえず昨日こなした
ありのままを伝えた。ベオルクはヒゲを撫でながら笑っていた。
「まぁ、やること自体はやっているようだ。
デレクが来るのを待つとするか」
「おはよーございます」
暫くしてデレクがやってきた。
「デレク。サイアスの見立てはどうだったかね」
「あーはい。では…」
デレクはあらたまって話し出した。
「突きは初段、斬りは二段てとこですかね。あと強撃を打てますねー。
ただ精度が低く、身体も出来上がってないので反動がやばい。
使い込んで高次の技に昇華できれば、それだけでやってけそうですが」
やや間延びした口調ながら、デレクは淡々と観察結果を報告した。
「武器は剣で。先端が重めのヤツなら強撃も活かし易いでしょう。
ただ膂力自体は高くないので、両手剣とかは厳しいですねー。
斬りだけなら斧が良いんですが、突きが出せなくなるのは勿体ないかと。
まー主武器は片手剣、副武器は手斧で。手斧は飛び道具にもなるのでー」
ベオルクはしばし黙考し、言った。
「片手半剣をリカッソ細め長め、剣先厚重ね、かつ柄を磨り上げて、
重量そのままに重心のみ変えた片手剣に再鍛造する、というのはどうだ」
リカッソとは剣身のうち刃のついていない部分を指し、個体差
もあるが概ね鍔元から拳二つ分程度の長さであることが多かった。
ここを逆手に握って剣を棍のように扱い、組み打ち等に用いるのだ。
もっとも魔や眷属に組み打ちが効くかは、微妙なところではあった。
「あー、良いですねそれ。 ……工賃お高めになりそうですが」
「とりあえず仕様書だけは作っておこう。
工房の連中のお気に召せば、『試作』してくれるかもしれんしな」
ベオルクはそういって棒を一本サイアスに渡した。
「右脇に挟んで手を伸ばし、肘、手首、指先の位置に印を。
……そう、それでいい」
「あー、『試作』させる気だ」
デレクは薄く笑った。
ベオルクはサイアスから受け取った棒に、何事かを書き付けた
紙を巻き付けると、詰め所の部下全てに聞こえるように言った。
「さて、私はこれから軍議だ。お前たちは昨日と同様待機してくれ。
ただし明日は一仕事ある。それなりに備えておいてくれ」
その後ベオルクは供回りを連れ、部下たちの敬礼を受けつつ退室した。
「んじゃーサイアス、また薪割り、じゃなかった訓練にでもいくかー」
デレクは例の間延びした調子で告げた。
「はい、お願いします」
サイアスは即座に答えた。
「とりあえず昼までなー。明日早そうだから今日は早く寝る」
いやいやそれは早過ぎるだろ、などと突っ込む兵たちと共に、
サイアスは詰め所を後にし、練兵所へと向かった。




