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サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
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サイアスの千日物語 三十九日目 その十一

「よっし、行くかー!」


先刻までの喚きっぷりは何処へやら、

営舎前広場へ出たセラエノはサイアスを抱え、

ケープを払って純白の双翼を大きくはためかせた。

広場にいた兵士たちのどよめくなか、サイアスとセラエノは

一気に飛翔し、本城の城壁を視界の下方へ流して城砦上空に辿りついた。

セラエノはすぐに湿原へと向かうことはなく、まずは城砦上空を

何かを探すように高度を変えつつ緩やかに旋回して見せた。


「見てごらん。これが中央城砦の全景さ。

 とても幾何学的で整った形をしているだろう?

 あらゆる人智の粋を尽くして設計されたものさ。

 まぁ何割かは設計者の趣味も入ってるけどね」


セラエノはそう言ってサイアスに城砦を俯瞰させた。

サイアスは時折歓声をあげ子供のように目を輝かせながら、

初めて見る景観に見入り魅入られていた。


「設計者はどなたなのですか?」


「ん? 私の師匠だよ。ユーツィヒと言うんだ。

 聞いたことのある名前なんじゃないかな。

 人としてはてんでまったくまるでダメダメな

 真正の超絶お困り様にして本当に最低の屑だわな人だったけど、

 魔術の才能とセンスだけは、今でもまるで敵わないなぁ」


ユーツィヒ。その名はサイアスにも聞き覚えがあった。

確か連合軍の初代軍師長にして「水の文明圏」の古都ウィヌムの領主だ。

「退魔の楔」作戦や「生存圏統合防衛計画」といった策を巡らせて

魔軍との戦局を膠着させ、平原に仮初ながらも平和をもたらした人物だ。

セラエノの言から察するに、功罪は諸々あるのだろうが、

この100年間平原西部が魔の脅威を脱し、平和を謳歌できているのは

ひとえにこの人物の鬼謀神算と深謀遠慮があってのことだった。


退魔の楔作戦等が提言されたのは今からおよそ150年前。

セラエノがこうしてピンピンしているのだから、

実は師匠の方もどこかしらで存命なのかも知れないな、

などとサイアスは想いを馳せた。


「ふふ、そうかも知れないね。

 でも君、あまり深入りしちゃダメだよ? 

 本当に困ったちゃんだから…… ってもう遅いかもだけど」


「……? どういう意味ですか?」


「今はまだ話せないなぁ。

 自力で真実に辿り着いたら、その時は採点してあげるよ」


セラエノは城砦上空を流れる風をとらえ、

優雅に滑空しながらそう言って笑った。

サイアスは首を傾げたが、遊覧飛行にご満悦なため

特に拘ろうとはしなかった。



「ところで閣下、城砦の本城についてですが」


サイアスは眼下に流れる城砦を眺めながらセラエノに問うた。


「何故あのような、一風変わった様相なのでしょうか」


「それは四角錐な形状のことかい?」


「いえ、中層以降の積層構造? のことです」


中央城砦本城は全体として巨大な四角錐を成していたが、

その各面はすべからく一枚の壁面で覆われているわけではなく、

中層から暫くは、複数の長方形の平面をその中心点を以て

互い違いに積み重ねたような独特の構造となっており、

連ねられた層が生み出す稜線が、丁度上空からは

正方形の対角線を形成しているように俯瞰できた。


「あぁ。アレはね。実はどの層も自在に動かせる造りに

 なっているんだよ。畳んだり垂らしたりして壁にもできるし、

 一方に引っ張り出して踊り場にもできる。やろうと思えば畑にも。

 命令一つでその戦局に応じた最適な形状に変形する訳だね。

 

 あと、特に中層底部の数枚に関しては『蓋』になるんだよ。

 黒い月が出たら闇夜になるから、夜間は内郭に採光の必要性が

 なくなるだろう? だからアレを展開して内郭城壁にまで伸ばし、

 固定して内郭全体に『蓋』をするのさ。まぁ完全に遮断できる

 わけではないけど、羽牙の侵入経路が特定できるから、

 格段に迎撃しやすくなる」


「ほほぅ……」


「中層の上部のは大抵そのまま水平方向に引っ張りだして、

 攻城兵器の土台にしているね。兵が手に持つ武器程度では

 魔に大した傷を付けられないから、でっかい岩やら鉄塊やらを

 ガンガン飛ばして敵陣ごと強引に破砕するんだ。

 そうは言っても、魔そのものには、なかなか当たらないけどね……

 後は宴の際に司令塔及び指揮所を守るために、

 弓兵が配置されたりすることもあるよ」 


「なんだかもの凄いですね……」


「はは、話の規模が大きすぎて面食らうかい?

 でも君は遠からず、兵士全体の長となって、

 指揮系統の中枢を担うことになるんだよ?」


セラエノはそう言って楽しげに笑っていた。

第四戦隊兵士長は統制上全兵士の頂点に位置し、

騎士以外の全ての兵への指揮権を代行する可能性があった。


「まるで実感がありません。ほんのひと月前までは

 屋敷で歌や楽器の稽古をしたり、書物を読んだり写したり、

 たまに村の巡察をしたりする、まるで違った暮らしを

 していたものですから……」


「でも、覚悟一つでここまで来た。

 そして父上の意志を継いで城砦騎士になる。そうなのだろう?

 なら通過点さ。鼻歌交じりでこなすくらいの意気で頼むよ」


「はは、歌はいつでもお構いなしに歌いますけれど。

 流石に今は止めた方がいいですね。羽牙が寄ってくる」


「それは確かに困るなぁ。

 っとそれじゃそろそろ湿原に向かおうか」


風に乗って城砦上空を旋回していたセラエノは翼を大きくはためかせ、

東へ向かう風を捉えて荒野の大空を翔けはじめた。

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