サイアスの千日物語 三十九日目 その十
「やれやれ、勝手な行動は慎めって
言われてんのにな…… どうしたもんか」
ラーズは食堂へと逃走したシェドの挙措に肩を竦めた。
「第七王子の名に誓っておいて、これだからねぇ。
やっぱり閣下の言われる通り、彼が主張する
名誉棄損は成立しないよ」
ランドは苦笑してそう言った。
「普段から身勝手に動くヤツが、
戦場でだけ律儀に動くなんてありえないわよ!
指揮官ならともかく、一兵士としては大問題だわ。
ちょっと躾けしといた方がいいわね……」
「そいつぁ同感だ。この手の馬鹿が原因で
壊滅した部隊は、俺も腐る程見てきてるからな……」
傭兵上がりのロイエとラーズは見解の一致をみたようだった。
「ふむ、どういった処罰が適当かな……」
ハーネスの調子を確かめ終わったサイアスがそう問うた。
「打ち首? 獄門?」
「市中引廻しの上磔?
鋸引きとか車裂きもあったっけ……」
ロイエとランドがさらりと提案した。
どうやら死罪は確定のようだ。
「釜茹でとか天ぷらも良いわね」
「案外煮つけとか煮っ転がしもいいかも知れん」
「僕はソテーかなぁ……」
「私は小悪魔風が一番好きだね」
「わ、私はちゃんと火が通ってれば何でも……」
どうやら調理法の話になったようだ。
「そうだな。火の通りは重要だぜ」
「アレは刺身とか絶対無理な感じよね……」
「活け造りとか踊り食いとか? ……ぅぇぇ」
どうやら素材の味を活かすのは困難なようだ。
「……そういうのは魔とか眷属に任せなよ。
君らちょっとおかしくない?」
見かねたセラエノがまるで真っ当な見解を述べた。
「閣下に言われましても……」
「何だとぅ!」
サイアスに指摘され、セラエノは憤慨した。
「まぁとにかく…… 今回は口頭注意に留めるのが宜しいかと。
何せ最上官たる参謀長自身がこの体たらくですので。
次回以降は、そうですね…… 人格矯正プログラムでも
ご用意しましょうか? 三日もあればどんな跳ね返りでも
従順な良い兵士になりますよ。ウフフフ……」
「腐った魚の目になりそうだな。
まぁ今と大して変わりゃしねぇか……」
ルジヌはギラリと光る眼鏡の奥で楽しげに目を細め、
ラーズは他人事らしい寸評を施した。
「城砦の外周を走らせるのはどうだろう。
できたら夜に。丸腰で。伝令と囮の鍛錬になりそうだよ」
「ふむ、良案ですね」
「んー、ソレって育成面を考えると良い感じだけど、
アレの能力的にすぐ余裕になっちゃって、罰としての効果が
なくなりそうだよ? 事前に手足を縛っておく、とかなら……
いや、さっきの動きを見るに、平気か……
ともあれもっと精神的にガンガン追い込む方が良いんじゃない?
例えばさ、第一戦隊のガチムチ連中の蒸し風呂に一晩放り込むとか。
トラウマも相まってかなり効くと思うなー」
「そっちも慣れたら洒落にならねぇんだが……」
サイアスの案をルジヌは気に入ったようだが、
セラエノは毒を以て毒を制す、を望んでいるようだった。
そしてラーズは不測の事態を恐れていた。
また、酒席で自ら暴露してまわったせいか、
シェドのフラれ武勇伝はやはり方々まで広まっているようだった。
「わ、私は、さすがに可哀相かな、って……」
そう言ったのは、ベリルの口調を真似たシェドだった。
「あぁ? テメェいつの間に。
つか気色わりぃ声出してんじゃねぇよ!」
「わ、私そんな変な声じゃ無い!」
ラーズは顔をしかめ、
ベリルは珍しく激昂していた。
「というか何で戻ってきたのよ」
「誓いを破ると罰が怖いからデス!」
「……一応覚えてんのね。
まぁ飛び出した時点で破ってんだけど」
「ひぃっ!? 今回はノーカン! ノーカンで是非!!」
「……!!!!」
そのときセラエノに電流が走った。
「どうしました、閣下」
「閃いた。閃いてしまった……」
「……」
「ノーキンが ノーカン主張 皆カンカン」
「そろそろ行きますよー。
あ、皆はもうここでお昼にしていいよ。
午後私は間に合えば参加で」
「サイアスさんに関しては、私の方で諸々
連絡を入れておきますね。では済みませんが、
うちの不束者を宜しくお願いします」
「こらぁ! スルーするなぁ!
それに誰が不束者だ!」
「お任せください。それでは」
サイアスはルジヌに敬礼し、
配下に軽く頷くと、十字を背負い丘を登るが如く
喚くセラエノをズルズル引きずって営舎の外へと出て行った。
広場の一同は色々と見なかったことにして、すぐに平素の様相に戻った。
と、そのとき、周囲の補充兵たちがロイエやラーズに声を掛けてきた。
それは昼食の誘いであった。二人とも他の補充兵にかなり顔が広く、
特にロイエはアウクシリウムで女性陣を率いて素行の悪い連中を
捕縛したこともあったため、同性からは非常に人気があったのだった。
補充兵が各隊に配属されて散り散りとなる前に
まとめて挨拶しておく絶好の機会であると考えたロイエらは
シェド、ランド、ラーズら男衆は男子寮側の食堂へ。
ロイエ、ベリル、デネブら女衆は女子寮側の食堂へと
それぞれ分かれ、他の補充兵らと食事を共にすることになった。




