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サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
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サイアスの千日物語 三十九日目 その九

「ッキャアァアア! キシャアア! 

 名誉棄損! 謝罪! 賠償ゥッ!!」


シェドは顔を真っ赤にして悶えながら奇声を発した。


「あー、今度はお金のことばっかだよ。

 判り易ーい……」


「ヒギャアア! フギャア!」


「裁判だ、弁護士を呼べ、と」


ランドがさりげなく通訳した。


「君通訳できんの? 凄いね。まぁいいや。

 

 いいかね。シェド・フェルことシェダー・フェルモリアはフェルモリア

 王国の王位継承権5位なる第七王子であり歴とした王国の名を冠する公人

 であって公人の個人情報その他の権益は公共の利益のためとあらば開示の

 拒否を制限されるものであるから君のいわゆるプライバシーに関しこれが

 条件付きで制限されることは合法的に妥当であると言え、さらにまた君は

 西方諸国連合隷下にある城砦騎士団に所属する一個の兵士でもあり任務に

 際しての言動や思想は当然ながら組織の内務規約に則って適宜制限される

 ことになる。そして今回の件は君にかかった上官不敬の容疑に関する詮議

 の最中に調査の結果として明らかにされたことであってここになんらの

 客体に対する作為的不公正性も悪意に基づく手続き的瑕疵もなく我々は

 ただ粛々と内容の特性それ自体を問わず単に議事上の証拠としてその事実

 を取り扱っただけであって少なくともこれが制限された公人としての名誉

 を棄損することに当たると厳に言い切ることはできないのだよ。然れども

 仮に開示された内容についてその真実性を保証した上でその是非を唱える

 のであれば、当該内容は女性の権利を守るうえでの重大な問題に繋がる

 可能性が高く公務に当たる一兵士がまさにその公務の真っ最中に思考して

 いて良い内容であるかどうかは判断を待つまでもなく忌避的でありかつ

 危険なものでもあり、我々がかかる内容に起因する犯罪等の発生を防ぐ

 という目的において知り得た情報に対し適宜詳らかにしつつ対応を考慮

 することはむしろ必然であるとさえ言える。またひるがえって鑑みるに

 社会的地位を持つ者に対しての名誉棄損を判ずるにあたってはまず第一に

 従前の名誉すなわち社会的地位に基づく評価を実際にどの程度貶めたかで

 判断せねばならないが、君の場合平素の不品行や悪口雑言によりその

 社会的評価そのものが非常に低くむしろ悪名をさえ成しており、よって

 今回の事柄によって棄損し得るべき名誉が元々存在したかどうか疑わしく

 君の主張する名誉棄損の前提条件たる名誉自体と肝心の名誉棄損の程度

 すなわち損害の実情に対し疑問を呈せざるを得ないのであって、さらに」



「うごあぁあ! 頭が焼ける! 

 燃えてしまう! 成仏するぅうう!!」


「あっははははは! 

 屁理屈で軍師に勝てると思うな!」


シェドは知恵熱で苦しみうめき声をあげ、

セラエノはそれを見て高笑いをあげた。そして


「にしても成仏…… 

 そうか読めたぞ、妖怪はお前だ!」


セラエノはビシリとシェドを指さしドヤ顔で決めゼリフを吐いた。

シェドはシェドでノリノリでグオウオと呻きのたうち苦しんでいた。



「それで閣下、何か御用なのですか?」


サイアスはこれまでの喧騒をまったく無視して

セラエノに問いかけた。


「あぁうんそう。君に用があってきたんだ。

 護衛してちょうだい」


セラエノは垂れ下がっていた大扉からボトリと落ち、

スタスタ歩いてサイアスの下へとやってきた。


「護衛、ですか?」


「そそ、ちょっと湿原上空に測量に出たいんだけど、

 私一人じゃ羽牙に撃墜されちゃうからさー、

 君一緒に来てあいつら追い払ってよ」


そういってセラエノはサイアスに

特殊なハーネスを装備させた。


「ずっと掴んでると手が疲れるからさ、

 今朝作って貰ったんだよ。いいだろ」


セラエノは自身も似たようなハーネスを装備し、

サイアスのものと固定した。サイアスとセラエノは

似たような外観でかつ体格も似ているため、引っ付いて

も姉妹のようであり、まるで違和感がなかった。


「あっ、それってもしかして、

 また空飛ぶってこと? いいなーサイアス」


ロイエが羨ましそうにそう言った。


「何だ水臭いっすね! 

 護衛なら俺がやるっすよ! ウェヒヒ!」


「……引っ付いたら胸が当たってラッキーとか思ってるよね。

 思考読むまでもなく顔に書いてあるよ」


「ファッ!?」


セラエノの核心的な指摘を受けて

シェドが挙動不審となり、再び周囲のドン引きを誘った。

サイアスはそんなシェドを見て苦笑した。


「お前ぇー! そんな胸がどこにある、とか思ったろ!

 このばかぁあぁあ!」


セラエノはそう言ってサイアスの頬を左右から引っ張った。


「いひゃい。のひるしひゃめて」


サイアスは後ろ手にセラエノの脇をくすぐった。


「ひゃぁあああ! 卑劣なやつめぇ!」


「はいはい、卑劣卑劣。じゃあ準備しましょうねー。

 武器は何が良いのかな……」


セラエノはぎゃあぎゃあ言いつつも準備に勤しんだ。

サイアスはセラエノのあしらいを徐々に会得しつつあるようだった。


「そんな卑劣な歌姫より、

 ここは悔い改めたこのロイヤル俺っちを是非!」


シェドはなおも食い下がったが、


「ごめんね、私面食いなんだ。

 容姿8はすっこんでて」


とセラエノは無慈悲に言い放った。



「なっ!? 容姿8、だと……」


シェドはヨロヨロとよろめいて周囲を見渡し、

ルジヌを見とめて縋るような目で訴えた。


「無論、容姿も軍師の目によって数値化できますよ。

 直接戦闘に関係のない項目なので、普段は省いているだけです」


「ぐはっ……」


シェドは一声呻いて大人しくなった。


「他の数値同様、人の平均値は9ですから

 8であれば誤差の範囲。十分に人並みですよ?」


とルジヌがさりげなくフォローしたが、


「……へへ、8か。そうか8かよ……」


シェドは自身の容姿にかなり自信があったらしく、

そういってブツブツ呟きイジケだした。

その様を面白がったセラエノは

調子に乗ってさらなる追い打ちをかけた。


「8、10、12、11、13、13!」


それぞれシェド、ランド、ラーズ。

続いてベリル、ロイエ、ルジヌへの評価だった。


(……私は?)


「デネブは15だよ。傑作の部類だね!」


セラエノはそう述べ、デネブは小さくガッツポーズをした。


「ちなみにそこの歌姫は……」


「聞いて驚け! 17だ! 千人に一人も居ないね!

 額に入れて飾りたいくらい」


「お、俺っちの倍以上、だと……」


シェドが絶望に打ちひしがれ、

ランドがポンとその肩に手を乗せた。


「よせ、憐れむんじゃねぇ!

 ちくしょう…… ちくしょぉおーーっ!」


シェドは泣き叫びながら男子寮の側の食堂へと消えていった。

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