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サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
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サイアスの千日物語 三十九日目 その二

ゆったりとした朝食を終えたサイアス小隊の面々は

三々五々、訓練課程へ向かう準備を始めた。

第三戦隊の営舎へと向かうべく詰め所に入ったサイアスを

デレクが例の挨拶で呼びとめた。


「おース。

 副長が話あるっていってたぞー。

 多分新しい異名のことだな、うむ」


「おはようございます。

 新しい異名って何」


「『天馬騎士』だとさ。

 ペガサスナイトだ。どうするこれ?」


デレクはそう言って笑っていた。

昨日の戦闘で確かにサイアスは空を駆けたが、

それはセラエノの力あってのことである。

そもそも黒馬のミカに白い翼な時点で違和感だらけ

であるのだが、戦場の興奮の中で垣間見た情景であれば、

細かいことはどうでもいい、となるらしかった。


「『おい飛んでみろよ』って言われたらどうしよう」


サイアスはお手上げといった風に手を広げ、苦笑した。


「そいつの首を飛ばしてやればいいわ」


物騒なセリフと共に、サイアスのすぐ脇に

ニティヤがニュっと現れた。手には布地を持っていた。


「貴方の以前からの荷物にあった布地を

 ケープに仕立ててみたのよ。

 この布地、かなりの魔力がこもっているわね。

 きっとお守り代わりになるから、身に着けておいて。

 布地はまだ余っているから、他にも何か作ってみるわ」


それはアウクシリウムを発つ際に、メディナがくれた布地であった。

そういえば、外套にしろ、とメディナも言っていたはずだ。

と、サイアスは遠い昔の事のように思いだしていた。


「くれた人も外套にしろと言っていたんだ。

 助かったよ。ありがとう」


「くれた人、か。

 本当に『人』なのかしらね…… ふふ」


ニティヤは意味深な微笑を残して再び姿を消した。


「……なーサイアスよ。

 お前ここに着く前から、随分ヤバい橋渡ってそうだなー」


デレクは溜息交じりでそう言った。

サイアスはデレクにアウクシリウムの

メディナの店の話をしてみた。が、


「『メディナの店』なんて聞いたこともないぞ」


「バザーの辺りは入り組んでるからな。

 お前違う店に入ったんじゃないか」


と兵士たちが怪訝な表情で口々に応じた。


「そもそも魔除けの香を扱う店って時点で、なぁ」


「引退した軍師や祈祷師がやってる店、

 ならば、なくもない、か……?」


「ぶっちゃけかなり怪しげだなー……

 ただ、魔除けの言い伝え自体は古くからある。

 お前なら『本物』引いてても、俺は驚かないぞ?」


デレクはそう言って苦笑した。

そこにベオルクが現れた。


「ほぅ、サイアス。

 一気に騎士らしくなった」


ベオルクはケープを纏ってエイレットを付けた

ヴァディスによく似た格好となったサイアスを見て、そう言った。

サイアスは挨拶がてら、ベオルクにもメディナの店の話をしてみた。


「ふむ…… アウクシリウムは一言でいえば、

『魔窟』だ。平原で唯一、魔力を持った人間が大量に

 集っている都市だからな。魔力や魔術、魔女に纏わる話は

 枚挙に暇がない。お前が本物と巡りあっていても

 確かにおかしくはないだろう」


ベオルクはデレクの見解に賛同した。


「何にせよ、それが魔除けのケープだと言うなら、

 有難く利用すべきだな。そして効果があろうと無かろうと、

 無事に生きぬくことができたなら、アウクシリウムで再会の折に

 礼の一つも言うがよかろう。お前ならきっとまた会えるに違いない」


「そうですね。是非そうします」


サイアスはそう言って頷いた。


「さて、お前の新しい異名の話をしよう。『天馬騎士』とは

 無論、昨日の戦闘時のアレに由来するわけだが、

 同時に『カエリアの騎士』であることも兼ねた表現なのだ。

 カエリアとは天空を意味する古語、カエルムから来ている

 そうでな。カエリアの騎馬武者を雅語で天馬騎士と

 いうことがあるのだそうだ。なので空を飛べずとも

 天馬騎士で問題はない、のだが……」


ベオルクは茶目っ気たっぷりの笑顔を浮かべた。


「実際に飛べた方が面白いということでな。

 現在参謀部の祈祷師衆が、特殊な鞍と鐙を作成中なのだそうだ。

 うまくいけば、それでまた空が飛べるかもしれぬぞ?」


「おー!」


サイアスは楽しげに声を上げた。


「さぁサイアスよ。異名と言えば、これだ」


ベオルクは羅紗の小さな包みをサイアスに手渡した。

中身は漆黒の輝きを放つ涙滴状の石を数本の金糸で

縛り上げ、銀細工の翼を取り付けたものだった。


「これは…… まさかモリオン……」


「ハハハ! よく知っている!

 石に関しては学者並みだな。これはフェルモリア王家に伝わる

 伝説級の黒水晶、モリオンの破片を削って磨いたものだな。

 破片と言ってもこれ一つで城の一つは買い取れる代物だ」


「成程、モリオンと金糸は、ミカの黒毛と金筋を

 表しているのか。そして閣下の翼かぁ」


「その通り。装飾はお前も知るスターペス殿の作だ。

 お前が依頼した品は、明日にも届けると言っていたぞ」


「おぉー」


サイアスはすっかりご満悦となっていた。


「っとそろそろ出かけた方がよかろうな。

 早速認識票に取り付けて行くがいい」


時刻は9時を少し過ぎた所だった。

サイアスはベオルクに丁重に礼を述べ、

営舎の出口でデレクらに敬礼をして、待っていたデネブと共に

第三戦隊営舎の会議室へと向かった。

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