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サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
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サイアスの千日物語 三十七日目 その二十四

「しかし何で呼ばれたんだろ。戦況やばいの?」


サイアスと共にミカの背中に揺られながら、

軍師長セラエノはそう問うた。


「私は後方配置なので詳細は存じませんが、

 未知の敵が出現したという話で」


こと任務に関する話であれば、

サイアスは喜んで応じる気であった。


「未知の敵?」


「釣り出しにあたっていたデレク様の騎兵隊が遭遇し、

 神経毒を受けました。毒については既に血清ができています」


「おー、君の隊でやったのかい」


「はい。配下が優秀で」


「成程。マナサ君といい、プロは違うねぇ」


どうやらニティヤの知識によるところが大きいとまで

看破したようだ。腐ってもイカれても城砦の頭脳、

観測能力は抜群のようだ、とサイアスは感じていた。


「今失礼なこと考えたよね」


「? いえ、素直に凄いな、と」


「その前! 腐ってもイカれても、とか!」


「はは……」


「笑いごっちゃない! ばかぁ!」


セラエノはサイアスの脇腹をゲシゲシとどついた。

しかし防具があるのでまるで効きはしなかった。

ごく自然に他者の思考を読むとは、またしても

めんどくさい女が増えた、とサイアスは内心溜息を付き、

速攻バレてさらにゲシゲシとどつかれるハメになった。


「しかし未知の敵か。それで呼ばれたとすると」


分裂気質のセラエノは、程なくして興味が

サイアスの脇腹から敵に移ったようで、再び思案し始めた。


「かなりの大物かも知れないなぁ」


「騎士長級の方は戦力指数が20を

 超えておられると聞き及んでいます。これを

 上回る戦力指数を持つ眷属が存在するのですか?」


「ん? 居るよ? 一般には余り知られていないけれど」


セラエノはサラリとそう言った。


「一般に認知されていないのは、大抵遭遇しても全滅するからだね。

 いくらかの眷属には上位種の存在が確認されている。

 確認が取れてるのは既に倒した分だから、そういう意味では

『居ない』という言い方もできるけれど」


「たとえば『できそこない』だけど、あれの上位に

 体格が数倍になって上半身がほぼ人間に程近く、

 立派な角と飛べる水準にまで育った翼のあるヤツが居た。

『できあがり』と命名されたそいつは戦力指数30。

 概ね通常個体の10倍の戦力指数を持っていたね。


 上位種は個体数が1もしくはかなり希少らしく、

 以降『できあがり』に関する報告は止んでいる」


「成程…… っと、閣下、まもなく本城を出ます」


サイアスはそういうと間近に迫った本城北口の

両脇に詰める兵士に頷いた。兵士たちは開門状態を維持し

サイアスらの退出に備えていたのだった。


本城を出たのち、サイアスは馬足をさらに早めて内郭を、

外郭を通過し、城砦北門へと進んだ。北門を出たサイアスは

北方にかすかに見える第四戦隊本陣を見やり、


「ん? 陣形が変わっている?」


と呟き、まずは確認のためにも第四戦隊本陣目掛け、ミカを走らせた。



第四戦隊本陣は、今や横一列となって射撃支援のため

臨戦態勢を取っていたが、実際に攻撃はしていないようだった。

サイアスらが近づくとすぐにデレクの方で発見し、サイアスを

手招きしてみせた。


「サイアス、どうかしたのか?」


サイアスが返事しようとデレクに向き直った時、

サイアスの首の横に、にょきっともう一つの首が生えてきた。


「やぁデレク君。手短に戦況報告してくれるかい」


「セラエノ閣下!? 心臓に悪い登場の仕方やめてください……

 敵は残り一体のみ、ローディス閣下と対峙している

 未知の魔物だけです。まもなく輸送部隊が到着するので、

 そちらの防衛を最優先して布陣し状況を維持しています。

 あの魔物、短距離ながら空を飛びますが、

 あの位置からでは輸送部隊の進路には届かないので。

 輸送部隊が逆斜線陣の東側を通過し始めた辺りで、

 向こうが先に動きそうですけどねー」


デレクは眼下の光景を指差しながら、セラエノにそう説明した。

第四戦隊本陣の北方、河川へ向かう緩やかな斜面の

90歩程先の位置に大ヒル並みの巨体を誇る未知の魔物がおり、

その東側20歩程の位置に剣聖ローディスが魔剣を輝かせ佇んでいた。

そのさらに東40歩程の位置にはマナサ率いる第二戦隊本隊の最前列が

あり、そこから「ノ」の字を描くように第二戦隊の本陣が続き、

最後列は丁度サイアスらの現在地の北東10数歩の位置にあるようだった。


「ふぅん。

 要は、剣聖閣下は自分を囮に時間稼ぎをしているのか。

 とはいえ、色々危うい状況だね……」


セラエノは瑠璃色の瞳を輝かせつつ状況を観測し、

しきりに頭を働かせていた。ただし姿勢はサイアスにしがみ付き、

サイアスの左肩にあごを乗せたままであったため、

サイアスとしてはさっさと解放されたくて、


「セラエノ閣下を二戦隊の本陣にお連れするよう

 言いつかっているのですが」


と、デレクに問うた。だが


「あぁサイアス君、それもう良いや。

 ここからの方が見やすいし、他にちょっとやることもできた」


「? そうですか? 

 でしたら私はこれにて小隊に戻ります。

 では閣下、下馬願います」


サイアスはそう言ってほぼ「おんぶお化け」状態の

セラエノを引き剥がそうとした。しかしながら、

セラエノはそんなサイアスのほおをプニプニつついて言った。


「何言ってる。やるのは君だ。とことん付き合って貰うよ?」

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