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サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
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サイアスの千日物語 三十七日目 その二十

ベリルによって血清を投与された兵士は

急速に症状が進行したのと同様に、急速に容体が回復しつつあった。

そこで連れて来た兵士は台車を借りて戻る当初の予定を変更し、

同僚を乗ってきた馬にくくり付け、ゆるりと城砦へ引き返すことにした。


「じゃあ俺らは一旦戻るぜ。今度何か奢らせて貰うからな!」


そう言って去る兵士らを見送った後、ベリルは残りの素材をも血清へと

調合する作業を開始し、ランドは紙にさらりと兵士の上半身を描き、

患部や症状、特徴等を書き込んでいった。



「ん、また来るぜ。てかえらく速いな……」


ラーズの言葉が終わるか終らぬうちに、ローディスの下を発った

副官がサイアスの下までやってきた。小豆色のガンビスンにブレー、

柔軟で高品質な靴と言った出で立ちで、武器は短剣一本しか持っておらず、

徒歩にして馬に勝るとも劣らぬ速さであった。


「サイアス殿。閣下より、軍師長セラエノ様を

 第二戦隊本陣までお連れせよとの命です」


「了解しました。こちらからも報告があります。

 詳しくは部下に聴取ください」


サイアスはそういうとサリットとホプロンを外し、

八束の剣をデネブに預け、


「ミカ、頼む!」


と前掲気味になって自分の手袋に鞭を当て、ミカは一声嘶いて

猛然と城砦へ突進し始めた。ミカは元々斥候や伝令を得意とする

軍馬であり、足の速さは折り紙付きであった。サイアスの檄に大いに

応えたミカは前方を往く騎兵2名を瞬く間に追い越し、全身の筋肉を

用いて低空を飛翔するかのごとくに一気に城砦まで駆け抜けていった。


「呆れた速さだな…… あれ、止まれんのか?」


シェドは思わずそう呟いたが慌てて咳払いし、


「実は、見たことのない魔物ってヤツの毒への血清ができてるっす。

 予備も作ってあるんで、持ってって貰えれば」


「おぉ、それは素晴らしい! お預かりしよう。

 閣下は貴殿らに対し、戦後必ずや正しく報いることだろう」


副官はそう言って血清と処方箋、ランドの書いた症状の覚書を受け取り、

敬礼して本陣へとすっ飛んでいった。


「二戦隊の副官衆は大変そうだな……」


シェドは誰にいうともなしにそう呟き、呟きつつも、

自分にはああいう役割が一番合っているのではないかと

思いはじめ、思った通りを口にした。



「なぁ…… 俺っち思うんだけどよぅ」


「何よ」


サイアスの置いていった装備を台車にしまいつつ、

ロイエが適当に返事した。


「俺って伝令に向いてっかもしんねえぜ……?」


ロイエが、ラーズが、ランドが一斉にシェドの思案気な顔を見やり、

短い沈黙のあと口々に感想を述べた。



「あー、いいかも。あんた弱いけどしぶといし、

 落着きないしカサカサしてるし、ウザいし」


「そうだな。ちっと走り込めば良い伝令になるかもなぁ。

 伝令てのは明るいヤツの方が向いてるからな。

 ウザいくらいでちょうど良いんじゃねぇの」


「うん、良いと思う。指令を一字一句違えず伝えるには、

 頭空っぽの方がいいしね。ウザいのはまぁ、仕方ないかな」


「きちゃまら…… さりげなく貶しやがって、

 特に最初がラで最後がドのヤツ!」


「? ラード?」


「うゎ、脂っこーい」


「肉料理にはラード、野菜料理にゃ菜種油が鉄板だぜ」


「ラーズって実は結構料理できるんだ?」


「まぁな。つってもたまの気分転換って感じだ」


「……ぉーぃ」


三名はシェドそっちのけで雑談を始めた。シェドはため息を付きつつ、

しかし何処か得心の言った様子で自分も雑談に混じることにした。

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