サイアスの千日物語 二十七日目
城砦入りしたサイアスは、まずはベオルクの監督する
第四戦隊に預けられることとなった。
正式な城砦入りを認可する入砦式や
戦闘員として入砦した全ての者に対し実施される
「訓練課程」は補充兵の到着日時に合わせて行われるため、
向こう数日間、待機状態が続くことになる。
その時間を無駄にせぬため、さらに実務経験を
積ませようとの意図があった。
城砦騎士団には員数や役割の異なる四つの戦隊があった。
第一戦隊は城砦の防衛に関する全権を担う最大規模の部隊であり、
概ね400名ほどが日々その業務にあたっていた。
この部隊の担う最大の任務は、概ね数百日前後の周期を以て発生する
魔と眷属の大規模侵攻への備えであった。
規則性は判然とせぬものの
魔は時に大量の眷属と共に城砦へと訪れ狩りに興じることがある。
平均して概ね300日に1度の割合で起きるこの殺戮劇は
「宴」と呼ばれており、宴を凌ぐのがこの第一戦隊の使命であった。
第二戦隊は城砦周辺の哨戒と戦闘任務を主としており、
300名ほどがその任に就いていた。
先日輸送部隊と共にサイアスが城砦へと到着した際、
防壁の前に展開していたのはこの戦隊だった。
第二戦隊は総じて高い攻撃力を誇り、宴においては
第一戦隊が敵の猛攻を防ぐ合間を縫って魔を強襲、
これを撃砕することを使命としていた。
第一戦隊と第二戦隊は役割上死傷率が非常に高く、
一度の宴で3割程度損耗するのが常だった。
そして損耗した兵士を補充するために、
定期的かつ頻回に人員の補充がなされていた。
それが兵士提供義務の存在する所以であった。
また、第一戦隊が防御を担い、第二戦隊が攻撃を担うというこの方策、
すなわち盾で防いで隙を見出し、合間を縫って戈で攻めるという戦術は
城砦騎士団全体を貫く戦術思想でもあり、小隊規模の戦闘においても
盾役を担う重装兵が敵を食い止め、戈役を担う軽装の攻撃兵が攻める
といったやり方が徹底されていた。
第三戦隊は上記二戦隊の予備隊であった。
概ね200名ほどの員数を持ち、上記二戦隊の戦闘任務を支援し
新兵の初等教育を担当し各戦隊へと補充する役割を担っていた。
またこの戦隊は城砦の経営に関する業務、すなわち糧秣の管理や調理、
負傷兵の救護や工房における武具作成などを統括しており、
戦隊下部組織として職人等の多くの非戦闘員で構成される各部門を持ち、
これら各部門に補助的に配される兵士や城砦各所の歩哨を担う衛兵などもいた。
もっとも、純粋な非戦闘員たる職人以外は、通常業務が非戦闘系とはいっても
宴の際などには総動員され前線にでる可能性がないわけではなかった。
第四戦隊は上記三隊とは少々趣を異にしていた。
上記戦隊では対応の困難な状況が発生した際にそれを扱う
特務部隊であり、平時は50名ほどが所属、これが核となり、
必要に応じて他戦隊から兵士を選抜し臨時招集して対応していた。
現在第四戦隊は隊長であった騎士長ライナスの戦死を受け、
副官であった騎士ベオルクが代理として監督にあたっていた。
各戦隊には一名の騎士長と複数名の騎士、そして大勢の兵士と
営舎の運営に関わる一定数の非戦闘員が所属しており、
それら各戦隊を城砦騎士団長が統括し采配した。
城砦騎士団長は交代で派遣され駐留する各国騎士団への采配に
身分的な不具合が生じるのを避けるため、
連合各国の王族が任期を伴って選出されていた。
現在の騎士団長は南方の大国フェルモリアの王弟であり、
自身も城砦騎士であるチェルニー・フェルモリアその人であった。
ともあれ上記の概ね1000名ほどが城砦騎士団に所属する兵士の定員であり、
これに加え、連合各国から交代で派遣され、物資輸送を主任務とする
50から100名ほどの各国騎士団がこの中央城砦に駐留した。
計1000名の人柱。それが人智の境界の在り様といえた。




