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サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
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サイアスの千日物語 三十七日目 その十八

即席の本陣の簡素な椅子に腰かけ、卓に広げた地図と

前方眼下の光景を交互に見やるローディスの下には、

副官や伝令の報告がひっきりなしに届き、状況の進捗を報せていた。


「報告します。遮蔽陣第一陣は鑷頭の突撃により壊滅。

 死者は15名にのぼる見通しです」


「ふむ」


ローディスは何の感情も示すことなくそう応えた。

第二戦隊としては既に60体の魚人を屠っている。

それを思えば十分お釣りのくる程度の損失だとは言えた。


「鑷頭はその後第二陣をも粉砕しましたが、

 ここでの死者はおりませんでした。現在鑷頭は

 第三陣正面の広間部分に進入しつつあります」


「手はず通りことを進めろ。火矢は最初の一撃のみでいい。

 以降は投石等で注意を引き、抜刀隊の強襲を支援せよ」


抜刀隊とは5名の撃剣の名手を組長とし、3名の兵士長と

6名の兵士を組下として構成された最小単位の小隊を束ねたものであり、

通例一番隊から五番隊までの呼称で呼び倣わされる第二戦隊の

精鋭部隊だった。組長たる5名はいずれも剣術技能が7に達しており、

ローディス自ら最低一つ以上の剣聖剣技を伝授した、

子飼い中の子飼いと言える存在だった。


抜刀隊の各小隊は、戦地においては小隊単位で独自の判断により

行動することが認められており、それでいて平時はひたすら連携訓練に

明け暮れ、他のどのような隊の支援をも受けられるよう

徹底した訓練がなされていた。そのため彼らはさながらローディスの

手足の様に無理なく無駄なく行動し、未熟な兵士たちからの援護であっても

十二分に活かすことができたのだった。


「閣下、抜刀隊、戦闘態勢に入りましたが……」


ややあって脇に控えていた軍師らしき人物がそう告げた。


「支援にまわる周辺兵士を、件の魔物が襲っております」


第二戦隊の一般兵士たちは南へ向いて迫る鑷頭らを

後方である北側や遮蔽物に隠れつつ適宜投擲武器で攻撃していたが、

そこに巨体を羽ばたかせて謎の存在が飛来し、触手で踏みつけ圧殺したり、

薙ぎ払ったり、デレクの投げつけた大漁旗を槍のごとくに振り回して

数名まとめて吹き飛ばしたりと、奇襲し暗躍しているのだった。


「器用なヤツだな。動きも徐々によくなっているようだ。

 アイツは一体何者だ?」


ローディスは軍師にそう問うた。


「過去20年の戦歴にあの存在に関する情報はありません」


「ほぅ」


ローディスは北西から徐々に坂を上ってくるその存在を

しげしげと見やった。触手のうちの何本かには槍や大盾を構えており、

それらを振り回して周囲を殴り付けつつ、今は第二陣の

遮蔽物の残骸を超えようとしていた。


「第四戦隊の本隊に射撃指示を出せ。

 弾幕を張って飛べなくしてしまえ」


「ハッ」


副官の一人が短く応えてマナサの陣へと走った。


「敵が逐次投入を続けているうちは、我らに負けはないのだがな」


ローディスは自分に言い聞かせるようにそう言うと、


「ときに軍師よ。ヤツの戦力指数が算定できるか?」


「私の能力では算定できません。面目次第も御座いません」


軍師は苦しげにそう言った。


「気にするな。実戦経験を積ませるために

 敢えて二線級を連れて来たのだからな。それで、

 お前の観測技能はいくつなのだ?」


「6で御座います」


軍師は抑揚の無い声でそう答えた。一般に、初見の敵の

戦力指数を見抜くのは難度が高く、概算できるのはせいぜい

観測技能値の5倍までだとされていた。既知の敵であれば

10倍までの正確な測定が可能ではあるのだが、

初見でなおかつ測定不能となると、眼下で横暴の限りを尽くす

件の魔物は戦力指数において30を超えているとみてよかった。


「低くはない。卑下する必要もないが、そうか……

 実は7の俺も看破できんのだ。こうなると、

 セラエノを呼ぶのが確実かな」


「閣下、第四戦隊による支援射撃、入ります!」


副官がそう告げ、ローディスらの頭上を無数の黒い影が過った。

立地を利した支援射撃は山なりの弾道で件の魔物に降り注ぎ、

御丁寧にも油矢や火矢も混じっていたようで触手後方の巨大な頭部とも

胴とも付かぬ部分にあるいは突き立ちあるいは弾かれてバチバチと

炙りあげた。大した損害を与えている風には見えぬものの、

水棲生物ゆえか、それとも魔や眷属の習性か、件の魔物は火に対しては

露骨な嫌悪を示し、矢の届かぬ位置まで一時後退していった。

そして魔物のさらに後方には、新たな魚人の群れが迫りつつあった。

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