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サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
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サイアスの千日物語 三十七日目 その十五

タカタッと高らかに馬蹄を響かせ、しかし極力速度を殺しつつ

デレクら騎兵8名は緩やかな上り坂を進み始めた。

馬足の最初の盛り上がりが落ち着いた辺りで、

前方を見やったデレクは思わず


「……マジで?」


と呟いた。


「うがっ」


「なんつーマネを……」


兵士らも次々口々に呻き、呻きつつもなんとか馬足は保っていた。

彼らの前方、先刻までただの緩やかな斜面だったその場所は

大盾や杭、柵の乱立する即席の野営陣に様変わりしていたのだった。


「いくらなんでも手際良すぎ……」


「つかどこ通りゃいいんだよ!」


追いすがる魚人たちを適宜左右に跳ねて躱しつつ、

前方に迫ってきた遮蔽物の群れに騎兵たちは呆れた声を発していた。


デレクらが河川へ釣りに出向いてすぐ、

ローディスは供回りの抜刀隊を除く全兵に対し、手にした得物で

地面を削るよう命じた。馬蹄の響きに隠すようにして

各兵は一斉に両手武器を振りかぶり、農作業よろしく斜面を耕して

種の変わりに盾を植え、杭を打ち柵をこさえたのだった。

遮蔽物だらけで行きの様には進めなくなったデレクらは、

南進しつつも途方に暮れていた。


「デレクよぅ」


「うむ」


「お前、剣聖閣下に嫌われてんじゃねぇの?」


「う、うーん?」


「いやむしろこりゃ歪んだ愛情表現なんじゃないのか」


「ぬーん…… あっ」


デレクはズラリと並んで行く手を遮る遮蔽物の最前列、

そのやや東寄りにひっそり開いた進入路と、脇に突き立つ立札を見つけた。

立札には丸っこい字で「お帰りはこちら」と書かれていた。


「大丈夫だ、問題ない! ハハハ、我に続けー!」


デレクは笑いつつそう叫び、愛馬は尻尾をフリフリして

後ろ足のみで立ち上がり嘶きを上げた。

その後デレクは大漁旗を盛大にブンまわして高らかに掲げると、

立札目掛けてダッと脱兎のごとく駆け、すぐに進入路を

すり抜けて見えなくなった。


「相変わらず鬼のような逃げ足だな……」


「まぁあんなでも魚人よりゃマシだ。

 とっとと続くっきゃねぇだろうな!」


ほんの間近まで迫った魚人を尻目に、

騎兵たちは一列になってデレクを追った。


遮蔽物は一見ずらりと一列に並んでいるかに見えて、

随所で微妙なズレを伴っており、そのズレは少なくとも馬一頭が

余裕を持って通過できる程度には広かった。また髄所に順路を示す

立札があり、騎兵たちはまるで障害物走の如くに馬を駆った。

デレクら8名の騎兵はジグザグと九十九折つづらおり

東奔西走しつつ、徐々に南上方へと昇っていったのだった。


魚人15体は手の届きそうな速度でモタモタと逃げる

デレクらを追い、遮蔽物の奥へと進んだが、

二度程東西に切り返したところで四方から次々に手槍や斧が飛来し、

半数近くが全身からそれらを生やして絶命した。

仲間の惨状に逃げの算段を始めた魚人もいたが、斜面を下ろうにも

遮蔽物が邪魔して満足に逃げれず、さらに物陰から飛び出してきた

斬り込み隊によって一体残らず滅多斬りにされた。

斬り込み隊はその後余韻に耽ることもなく、

即座に散開して再度潜伏した。



「ちょっと閣下ー。酷くないっすかー」


巧みな馬足で遮蔽陣を突破し、ローディスの下にまで

戻ったデレクは、旋回ピルーエットしつつ苦笑してそう言った。


「そーだそーだ! 酒をよこせ!」


「休暇もよこせ! セシリアちゃん大正義!」


ほどなくして追いついた騎兵たちも、

口々にギャアギャアと喚きたてていた。


「クックック。敵を欺くには味方から、というだろう。

 結果として無事ならそれで良いではないか……

 酒なら後でラムを一樽送ってやろう。休暇は知らん。

 ベオルクに言え…… ところでセシリアちゃんとは誰だ」


ローディスはニヤニヤと笑いつつ、

全ての物言いにいちいち律儀に対応した。


「あーいや、ハハハ。次いってきまー」


デレクはそう言って配下を促し、再度釣りに向かった。

騎兵たちは態度を一変させて


「やった! 閣下信じてた!」


「セシリアちゃん最高!」


などと叫びつつデレクの後を追った。

ローディスは騎兵隊の人を食った享楽振りを、

昔を懐かしむようにクツクツと笑って見送った。

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