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サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
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サイアスの千日物語 三十七日目 その十一

サイアスはロイエらに台車と共に集合地点へと向かうよう告げると、

デレクら騎兵担当とともに厩舎へと向かった。第四戦隊の厩舎は

外郭北部、丁度北門の裏手西側に設置されており、何度か顔を

合わせたことのある者を含め、数名の厩務員が一同を出迎えた。


「これはデレク様にマナサ様。サイアス様まで……

 ご出撃ですか」


「そそ。12頭使う。出せるか?」


「勿論です。騎士様の愛馬を筆頭に万全に仕上がっています」


「おー、流石の仕事振りだな。

 んじゃ各自乗って行けー」


デレクは兵たちにそう告げ、自身も黒く大柄な愛馬に向かった。



第四戦隊では、騎士のみならず兵士も専用馬を有していた。

他戦隊では、騎士級を除けば基本は戦隊預かりの馬であり、

どの隊も歩兵が中心であるため、員数数百人に対して保有数は

20頭から30頭前後といったところであった。

一方第四戦隊は特務の性質上、員数に比して圧倒的な軍馬保有数を誇り、

現状専用馬10、戦隊預かり15、馬車等の輓馬3の計28頭を

有し、現在はそのうち24頭が厩舎で待機していた。

去り際にデレクは厩務員の一人に



「サイアスは馬で出るのが初めてだ。

 手頃なの見繕ってやってくれ」


と声を掛けた。厩務員は畏まって


「ハッ。心得ました。

 ささ、サイアス様こちらへ……」


とサイアスを連れて厩舎を進んだ。

サイアスがマナサと親しいことは厩務員の間で

知れ渡っているようで、一般兵と同列に扱う気はないようだった。


「こちらの二頭は専ら斥候・伝令用です。

 馬格は他の軍馬に比べやや小粒ですが、馬足に優れ

 気性も穏やかです。右の灰色がグラニート。左の黒色がミカ。

 どちらでもお好きな方をお使いください」


「ありがとうございます」


サイアスはそう言って二頭の馬を見比べた。どちらもデレクや

兵士らの乗る馬に比べ細身でやや小柄であり、足がスラリとして見えた。

グラニートはくすんだ灰色の毛並に黒い斑点が混じり、名前の通り

花崗岩グラニートに似た毛並をしていた。ミカは黒の毛並の随所に

金色の細い筋のような毛が混じり、光の加減でキラキラと光輝いてみえた。


「ミカ、ミカーレ…… 雲母?」


サイアスは尋ねるとはなしに口にした。


「その通りで。どちらもフェルモリア産ですが

 カエリア産に迫るものがありますな」


サイアスはしばしグラニートとミカを見比べていたが、

ミカがしきりにゴシゴシと頭を突き付けてきたため、


「ミカにします。ミカ、宜しく頼む」


そう言ってミカに頷き、ミカは嬉しげに嘶いて見せた。


「……前から思っていたのだけれど。

 言葉だけで馬を操ったりは、できるものですか?」


サイアスは鞍の用意をしている厩務員にそう尋ねた。


「馬を操るには、基本、膝下で指示を出しますな。

 手綱や鞭はかなり強い命令になりますので……

 言葉での話し掛けにあたるのは舌鼓ぜっこで、これは専ら扶助、

 つまり動作の促進に使いますが」


厩務員はそう言って首を傾げた。


「さすがに舌鼓だけってのは聞きませんなぁ……」


ふぅん、とサイアスは生返事をしつつ、

じゃれついてくるミカの毛並を撫でてやった。

クシャーナと言い、このミカと言い、サイアスの中では

普通に会話できている気がしていたので、もしやと感じた次第だった。


「もっとも乗馬は馬が動くものですから、きっちり鍛えた軍馬の場合、

 馬の負担にならぬ様、指示出しは最低限で構いませぬ。

 馬上戦闘となると、また勝手が違ってくるのでしょうが、

 さすがに今日はお止めになった方が良いでしょうな……」


「確かに仰る通りです。肝に銘じておきます」


そうは言っても敵次第なんだよな…… 

などと内心では思いつつ、サイアスは厩務員に返事をした。


「手綱を引いて首筋を鞭で一打ちすれば、勝手に城砦に戻るよう

 躾けてあります。いざとなったらそうしてくだされ。それでは」


厩務員は一通りの作業を終え、ミカを柵から出した。

鞍と鐙、手綱の他に布と革を組み合わせた青い前掛けが着せられ、

四肢の先にも同色の布が巻かれていた。布地の全てには盾の紋章と

4の数字が縫い込まれていた。


「ありがとうございます。暫しミカをお借りします。

 必ず無事に連れ帰ります」


サイアスはそう言ってミカを抑える厩務員に敬礼し、

手綱と鞭を手にミカに騎乗した。


「じゃ、行こう」


サイアスはそう言うと小声で歌うように呟きつつミカを促した。

ミカはサイアスの意図を汲み、唯々諾々と厩舎の外へと歩み始めた。

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