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サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
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サイアスの千日物語 三十七日目 その十

間延びしたデレクの語りかけではあったが、

詰め所の空気は一瞬で変じた。


「うむ。既に概要は説明済みだ。

 具体的な作戦展開のみ伝える。

 今回の作戦には30名で参加する。

 これは現状我々第四戦隊の総員だ」


デレクはそう言って詰め所内を見渡した。

いつのまにかマナサやニティヤも姿を見せていた。


「30名中7名はこのデレクが率いる。全員騎兵だ。

 デレク隊は城砦北方正面に展開。主に河川の眷属への

 早期警戒を担当する。表現上は早期警戒だが、実際は釣り餌だ。

 遠からず発生する宴に備え、河川の眷属を少しでも

 削っておきたい肚がある。宴を楽にするためと言うよりも、

 その後の復旧で往路を頻繁に使うためだな。

 

 先日の北往路での戦闘において、サイアスが大ヒルの攻撃範囲を

 その身を以て割り出した。通常攻撃で川べりから10歩、

 捨て身の一撃で川べりから20歩というところだ。

 よってデレク隊は川べりから20歩を限度としてお散歩だ」


「あの川は西程水深がある。つまり城砦正面は往路より深く、

 より大物がいるかもしれん。そんな距離で大丈夫か?」

 

兵士の一人がデレクに問うた。


「大丈夫だ、問題ない。こないだのは馬車数台分の特大野郎でな。

 城砦正面ですらあり得んデカさだ。ちなみに我らが歌姫は、

 川から5歩から10歩と言ったところで熱唱しつつ、

 チョコマカ動いて大ヒルを煽ってたぞ。

 お前ら、20歩ごときでビビってられんよな?」


「ウヘェ、気が狂っとる…… まぁいいや、やってやんよ!」


「おぅよ。イカレっぷりで負けてられっか!」


「うむ。それでこそ第四戦隊だ。本職の煽りってのを見せてやれ。

 とはいえ、単に大ヒルに対するだけならば、川を焼く

 従来の方法が有効だ。なので、今回は魚人や鑷頭といった

 陸戦可能な連中の数を減らすことに努める。そのため河川から

 20歩の距離以上へは進まず、敵が出たらゆるりと振り返って退却、

 を繰り返すことになる。

 

 眷属への対応自体は第二戦隊の強襲部隊がこれでもかって程に

 やってくれるから、うちらとしては湧いたら退きに専念だ。

 アイツら襲うことにかけては天才だからな。後は任せちまえ。

 ま、アレだ。『歩兵に退路なく、騎兵に退路あり』ってのを

 ガチでやってのけるんだ。一応、仕掛けは下り、退きは上り。

 馬の体力にも気をつけてくれ」

 


「次に残り22名中13名はマナサ殿が率いる。

 マナサ殿と副官二名は騎兵、他は歩兵だ。マナサ隊は本隊として

 城砦北門正面に布陣、輸送部隊及び城砦首脳の到着に備え、

 城砦首脳が着き次第警護しつつ入砦を。

 それと、我らがヒゲの副長殿は絶対一人で好き勝手暴れてるから、

 何なら放置で。迂闊に近づくと魂喰われるぞ。注意な!


 さて、残りはサイアス隊8名だ。

 サイアスは騎兵、ランドとシェドは台車、他歩兵。

 台車にはベリルも積んでおけ。サイアス隊は哨戒部隊50名と連携し

 城砦周辺の警戒にあたれ。具体的には哨戒部隊が戦闘に入った場合の

 伝令や後方支援をしてやるといい。

  

 本隊、及びサイアス隊は戦闘に積極的に関わる必要はない。

 今回は主導する第二戦隊の戦力が充実している。

 任せきりで問題ない。但しデレク隊による河川での釣りが

 うっかり大漁だった場合には、マナサ殿の本隊に潰しに

 まわって貰う可能性がある。目安としては50尾くらいかねぇ。

 一応念頭に置いておいてくれ」

 


「各隊内での具体的な布陣や戦術は指揮官に一任する。

 出動は2時。輸送部隊の往路離脱が3時過ぎ、入砦が4時手前と

 推測されている。河川への挑発は3時辺りまでだ。

 

 輸送部隊及び城砦首脳が入砦を終え次第、

 我々は第二戦隊に先んじて帰還することになる。

 時間の経過や戦況の展開度合いにも十分配慮してくれ」



デレクは説明を終え、一拍おいて付け足した。


「それと…… 

 軍師連中が雨が降るかも知れないと言ってる。

 雨が降ると水辺の眷属は行動半径が大きくなり、

 戦力逓減が緩やかになる。ついでに機動力が上がり、

 こっちは逆に機動力が下がる。要は挑発するまでも

 なく、お散歩気分で踊り食いに来るってことだ。

 降水確率は3割程度とのことだ。

 雨天時はデレク隊はマナサ隊に合流し、護衛に専念で」


「最後に、当面サイアスには支援・遊撃を中心とした

 小隊運用を経験させる。第四戦隊の中の第四戦隊って感じだ。

 この小隊には衛生兵や工兵、猟兵が揃ってる。

 育てば俺らもかなり楽になるぞ。当座は適宜補助してやってくれ」


「質問はあるかー、ないなー、よーし」


デレクは勝手に結論付け、


「では各自、装備の最終確認後、城門外左手に集合。

 現地で騎兵や台車と合流だ。総員、起立!」


ザッ、と短く音を立て、戦隊員は一糸乱れず起立した。


「第四戦隊、出動!!」


「応ッッ!!」


営舎を揺るがす雄叫びと共に、

第四戦隊総員30名は一斉に行動を開始した。

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