サイアスの千日物語 三十七日目 その九
「さて、まずはそっちのでかいの……
ランドだったっけー」
デレクはそう言って、敬礼するランドをじっと見つめた。
デレクも軍師の目を持っている、との軍師長セラエノの言を
サイアスは思い出していた。
「ふむ、見た目通りな感じだなー」
デレクはそう言って一人頷き、周囲の兵士は
ランドの手や顔を観察していた。
「手に武器のクセが無ぇな。辛うじて槍か?」
兵士の一人がそう言った。
「先日の実戦では何を使ったんだ?」
「マンゴネルです」
兵士の問いにランドが応えた。
「マンゴネ……? ……まさか攻城兵器……」
「そうです」
ランドは笑顔で肯定した。
「いやお前、こないだはほんの数名だったろ。
それにサイアスしかり、デネブにセメレーしかり、
放っときゃ一人でも斬り込んでくタイプだし、
お前一人で兵器は無理だろ」
「えっ? いや特に問題は……
運搬も組みたても全部、一人でやりましたけど」
「やだ、何この子…… ちょっと奥さん聞きまして?」
「えぇ聞きましてよ。一人で兵器が平気でした、なんつって」
「おいシェド、お株奪われてんぞ?
お前ぇも混じったらどうだ」
兵士たちの戯言にニヤニヤしつつラーズが言った。
「マンゴーラッシー超ウマー」
「何それ! 甘いの?」
シェドが謎の電波を発し、ロイエが早速食いついた。
「……まぁおバカどもはほっとくとして。
マンゴネルは通例、巻き上げに1、測量・照準に1、
装填・発射に1の最低3名、要するに班単位で扱うぞ」
「あっ、照準や手順については
脇でブーク閣下から指示を頂きました」
デレクにランドがそう応え、
「にゃるほど…… にしてもコイツは逸材だな。
是非ともそのまま兵器を極めれー。手持ち武器は、そうだな……
六角棍とかどうだ? 槍より打点多いし使い勝手もいい。
何よりいざとなったら資材にも工具にもできるから」
とデレクが結論付け、倉庫に兵士が六角棍を探しにいった。
その後デレクはシェドに向き直り、
「お前はランドの補助。照準と測量担当してやれ。以上」
と簡潔にまとめた。
「ちょっ! んな寂しいこと言わんと!
俺の武器も見立おなしゃっす!」
とシェドは抗議し、
「なんだよ剣持ってっからそれでいいじゃん」
との兵士の問いに、
「これはファッションっす!!」
と大声で答えた。
「んな得意げに言われてもだな……
お前実戦は?」
「まだっす!!」
「得意な武器とかあるんか?」
「ないっす!」
「んじゃ何か技能とかないんか」
「ないっす!」
「お前いくつよ」
「24っす」
「フェルモリアは成人16だっけ?」
「そうっす」
「……職歴は?」
「ないっす……」
シェドは段々消沈してきた。
そこにデネブが
(空白の期間が8年ありますが、何をされていましたか)
と書いて示した。
「もうやめて!! 俺っちのライフはとっくにゼロよ!!」
シェドはそう言って、さめざめよよよ、と泣き出した。
「まぁそうイジめてやるなよ。反応は面白ぇけどな……
継承権の微妙な王族なんて、飼い殺しが基本だろ。
どうせどっかの寺なり離宮なりに預けられてたんじゃねぇの?
取り敢えず囲って使い道できるまで放置ってのが鉄板だからなぁ」
ラーズはそう言って苦笑した。
「おぉラーズ! 心の友よぉっ!」
シェドはそう言ってラーズに抱き着こうとしたが、足蹴にされた。
「うるせぇ! 野郎が抱き着くんじゃねぇ!」
「ダメだよラーズ。怪我させたら身代金が下がるじゃないか」
サイアスがさらっとそう言い、
「!!!!!?」
とシェドが愕然としたところに
「冗談でした。 ……皆に負けてられないと思って」
とクスリと笑った。
「笑えねぇ! んなとこ張り合うんじゃねぇっ!」
シェドはサイアスにそう吠えた。
デレクは生暖かい目でそれを見守りつつ、
「こいつもすっかり第四戦隊に馴染んだなー……
まぁいいや。能力の方は体力、器用、敏捷が高いのか。
基本はランドと組んでマンゴネルの照準と測量を担当するのが良いぞ。
護身用の武器は剣以外だとフレイルとかどうだ。
クセはあるが使いこなせば強いぞ」
と述べた。
「ほー、フレイルっすか」
シェドは一瞬で切り替わり、何やら感心してそう言った。
「棍の一方の先端に金属の錘を革やら鎖で繋いだ武器だ。
金属部分の軌道が複雑で読みにくいが、当たれば甲冑ごと
相手を潰せるぜ。お前器用そうではあるし、いいんじゃないか」
兵士の一人がそう言いつつ、フレイルを探しに倉庫へと向かった。
「いやぁ、六角棍無かったわー」
ややあって倉庫で装備を物色していた兵士が戻り、
ランドに棍らしきものを手渡した。
「だもんで四角棍でいっとけ! まぁ発注しといてやんよ」
「えっ…… 四角棍、ってこれただの角材……」
「カァーーーツッ! 黙らっしゃい!
心頭滅却すれば紐股涼しじゃっ!」
「どーいう意味だ」
「フンドシか何かっすかね……」
兵士の妄言にデレクとシェドが感想を添えた。
「おぅシェド、オメーのはこれな」
別の兵士からシェドに差し出されたのは、肘から伸ばした指先まで
程の長さの棒の先端に、複数の小さな鉄球が繋がれた武器だった。
親指程の直系の鉄球の表面には複数の突起が付いていた。
「うぉー、痛そう……」
シェドは武器を受け取りながら呟いた。
「命中したときと空振ったときで先端の軌道変わるからな。
戻りには十分注意しとけよー」
デレクはそう言って玻璃の珠時計を見やり、
「おっし、簡単に軍議すっぞー。聞いとけー」
といつもの調子で声をあげた。




