サイアスの千日物語 三十六日目 その二十五
「え、本当!? やった!
こちらこそ宜しくお願いします!」
ランドは素直に喜び、顔をほころばせて敬礼した。
「お、おぃ! ちょっと待ってよ歌姫ちゃん! いや嬉しいけども!
6人のとこに7人取っちゃってよかと? どうなんね!」
シェドは何やら混乱しているようだった。
「ん? 多い分には良いんじゃないかな」
サイアスはさらりとそう言ってデレクを見た。
「いいぞー。どーせ消耗品だし、一割多いなら儲けモンだろ」
デレクはそう言って手の平からコインを消し、
ベリルのポーチを指差した。ベリルはポーチから出てきた
コインを見て驚愕の声を上げ、大はしゃぎしていた。
「……消耗品て。もっと柔らかく!」
シェドがそう嘆き、
(食材?)
とデネブが引き継いだ。
「いあいあ!? やめて! 怖いから! てかまぁ。
採用して貰えるならそれでいっか。コンゴトモヨロシク!」
シェドはそう言ったが、
「何言ってる。条件付きだよ。ごまかすんじゃない」
サイアスは淡々と指摘した。
「むぅー…… ていうかぁー、シェド・フェルがぁー
本名なんですけどぉー」
(シェド・フェルさんの益々のご活躍をお祈りしております)
「やめて! 不吉な定型文やめて!」
「うっさい! 女々しい! さっさと白状しなさいよ!」
ロイエが我慢も限界とばかりにそう吠えた。
「ロイエ! 男同士の間に入るなッ!」
シェドが何やら苦しげにそう言った。
「誰が入るか! まとめて叩っ斬る!」
ロイエはそう言って壁に掛かっていた両手斧を引っ掴んだ。
よっ、色男! とラーズや兵士たちがロイエを囃したてた。
「待て! 話せば判る話せば!」
「じゃあ話せよ。ほら早くしろよ」
ラーズはなおもニヤニヤと煽っていた。
「いやちょっとさ…… 事情があって言えないんだよ。
今は無理! そのうち話すから! マジほんと!」
「判った。じゃあそのうち採用するからまた来てほしい」
「いやぁあああ! いぢわるしないでぇぇえ!」
シェドは相変わらずシェドだった。
「鬱陶しくなってきたわ…… 始末していいかしら」
「まぁまぁ。眷属には生餌の方が効果的だから……」
ニティヤはサイアスと何やら物騒な相談を始めた。
「クッ、進むも地獄退くも地獄……!
万事休す、か…… おいサイアス! まずは理由を示せ。
俺の名前を知りたい理由をよぅ!」
「信用できないから」
サイアスはにべもなくそう言った。
「泣くぞくるぁあ!」
シェドは半泣きでそう言った。
「先日の騒動。無断かつ独断で動いて人質に取られたと聞いた。
そういうのは要らないんだ」
サイアスはシェドが先日取った行動をたしなめた。
「グッ、グゥゥ…… そいつを言われるとツライ……」
流石にシェドは言い返せず、兵士らは笑っていた。
デレクは苦笑しつつもベリルにコイン遊びを教えていた。
「でも大丈夫だ! もう懲りた! 二度とあぁいうのはやらないし、
部隊に入ればちゃんと命令も聞くって!」
「ふむ、誓えるかい?」
「おぅおぅ、勿論だ! 誓っちゃいまーす!」
「その名に懸けて?」
「え? あ、あぁ、そこでそう来るのね……」
「そういう事。偽名に誓っても意味は無い」
「宜しい! ならば戦争だ!」
シェドはサイアスに向かってそう叫んだ。
「戦争……?」
サイアスは意外といった表情で聞き返した。
「事情があって名前が言えないのは事実なんだよ。
でもどうしてもっていうなら、見事俺を倒してみせろ!
戦って敗けた場合は、名乗っていいことになってるんでな!」
ジャジャジャジャジャキンッ!
次の瞬間、サイアスが、デレクが、ロイエや他の兵士すべてが
一斉に抜刀した。そして瞬き一つする暇もなく、
数十の刃がシェドの首もとに突き付けられた。
「ぐぇっ…… 何これ……」
「第四戦隊の総意だ。名乗れ。さもなくば斬る」




