表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
222/1317

サイアスの千日物語 三十六日目 その十八

無事に危地を乗り切ったサイアスは、

ベリルやラーズを見送ると、デネブと工房へ出かけることにした。

ニティヤはあやとりの次は編み物をするらしく、鼻歌交じりで

準備していた。およそ兵士らしからぬ所業ではあるが

特殊な糸を用いた比類なき暗殺技術を鑑みるなら、こうした

事柄はむしろ訓練の一環になるのだろう。サイアスはそう判断した。


サイアスとデネブが詰め所に入ると、デレクがぼーっとしていた。

ここのところ事務処理に追われているようだ。


「お疲れ様です。書類仕事大変ですね」


「おー。普段は副長の供回りがやってるんだけどなー。

 まとめて連れていきやがったからなぁ。今は兵士長もいないし」


デレクは手にした羽根ペンを手指の狭間で躍らせながらそう言った。


「そういえば、第四戦隊兵士長、という方はいらっしゃいませんね」


サイアスは周囲の兵士に挨拶しつつそう言った。


「ここの兵士は皆強いんだが、とにかくめんどくさがりでなー」


デレクは苦笑しつつそう言った。


「兵士長なんかかったりぃぞ。兵士の方が気楽でいいって」


脇で聞いていた兵士がそう言った。


「俺ん中では罰ゲームだな!」


別の兵士がそう言った。

どちらも第四戦隊に抜擢される前は第二戦隊の兵士長であった。


「うちの員数的には2名居ないといけないんだけどな、兵士長。

 どっちもこないだ死んじまったからなぁ」


「まぁ、副長の企み具合から見て、お前が遠からず押し付けられるぜ」


兵士の一人がニヤニヤしつつそう言った。


「えー、皆さんを差し置いてそんな」


サイアスは迷惑そうな顔をした。


「いやいや、そう遠慮しなさんな。是非とも引き受けてくれたまえよ」


「そうそう、やっぱ上に立つモンは見栄えも大事なわけよ」


「はは、言えてる。こいつらが上に立ったら山賊扱いだわー」


「うるせぇぞデレク。おら兵士様に茶ぁ煎れんかい!」


「騎士をパシりにすんな。茶くらい自分でいれてこい……」


デレクも兵士も相変わらずだった。聞くところによれば、

いつも共にいる数名はデレクの供回りということだった。

かつてはサイアス小隊と同様6名前後居たそうだが、

やはり戦死したとのことだった。



「それよりお前らどっか行くのか? 

 見事なまでに訓練課程サボってるようだが」


兵士の一人がサイアスに問うた。


「工房へ。デネブの槍と私の盾を見繕いにいくところです」


サイアスは兵士にそう答えた。


「ふむ、蔵のは合わんか。どういう風だ?」


「デネブの槍は刺さり過ぎるのがちょっと。穂先も長い方がいいかな……

 私の盾はバックラーとホプロンの合いの子のようなのが有ればなと」


サイアスはデネブが大口手足を細身の槍で串刺しにし、

結果槍を捨て剣で戦う羽目になったことを危惧していた。

敵が一体のみなら知らず、数が多くなると容易に失われる主武器では

さすがに心もとないからだ。


「大口手足を串刺し、て。膂力あり余っとるな……

 普通の大槍じゃ駄目なのか?」


兵士の一人がそう問うた。


「今朝第一戦隊で『メナンキュラス』というのを貰ってきたので、

 今後は少々難しいかと」


「おー『イチタテ』か。あれ重いからな…… 

 んじゃ、穂先の形状変更だな。鎌槍とかどうだ?」


「メナンキュラス」には、第「一」戦隊の専用「盾」ということで

「イチタテ」というあだ名があるようだ。


「鎌槍? ハルバードみたいな?」


サイアスは問い返した。サイアスが真っ先に思い至ったのは

グウィディオンの所持していた武器だが、あれは単に鎌な気もしていた。


「いや、あくまで槍の一種だ。東方諸国で使うヤツだな。

 穂先の付け根に横に突き出た別の穂先が出てるんだ。

 だがいっそハルバードでも良いかもしれん。

 細身の、となるとまず間違いなく特注だろうけどなぁ」


ハルバードは先端に複数の攻撃部位を持つため、サイズ的にも強度的にも、

重くならざるを得なかった。優れた身的能力に加えて広範な戦闘技能

を以て初めて性能を引き出し得る、クセの強い武器であった。


「ふーむ、どうだろうなー」


デレクはそう言って暫しデネブを見つめた。


「槍術は抜群、剣術も十分。あとは棍か斧覚えればいけそうだ。

 これはハルバード『でも良い』じゃなくて『の方が良い』だな」


デレクはそう言って頷いた。


「おぅ、お墨付きが出たんならそれでいっとけ。それがいい」


兵士の一人がそう請け合った。


「んだな。こいつ武器商人の息子だからな。見立てはカンペキだぜ。

 サイアスも前に見て貰っただろ」


別の兵士がそう言った。


「武器決めでお世話になりました。なるほど、武器に強いのは

 そういう事情もあったんですね」


サイアスは成程とばかりに頷いた。


「まー昔の話だけどな。ほら、武器の売り込みにいくときに、

 実際に使ってみせた方が『売れ』が良いんだよ。さらにそれが

 子供だと『受け』も良い。子供ですら使えてこの性能、ってなるから。

 お蔭で色んな武器を徹底的に仕込まれたなー。懐かしいってか何てか」


デレクはそう言って苦笑した。いまだ歳若いデレクだが、

幼少時、実演担当として父と共に平原中を行商に飛び回っており、

あらゆる武器の操法と営業用の愛想を徹底的に仕込まれたのだった。

そうした経験が下地となって現状がある、ということだった。


「ま、これでデネブの武器は決まったなー」


デレクはそう言うと果実酒割りで喉を潤した。


「サイアスの盾はアレだろ? あの『くるりんぱ』用だろ?

 それなら間違いなく特注がおススメだわ」


「装備の特注は勲功1000からだぜ。余裕あるなら行ってきなー」


兵士たちがそう言った。


「了解しました。行ってきます」


サイアスとデネブは敬礼をし、詰め所を出て本城を、工房を目指した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ