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サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
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サイアスの千日物語 三十六日目 その十五

「何か…… 一番マズいのを引いてしまった……?」


サイアスは救いを求めるようにヴァディスを見つめ、

躊躇いがちにそう言った。


「ん、そうか? むしろ大当たりなんじゃないか?

 考えようによっては永遠の命を手にしたも同然だぞ。

 その大半は寝ているけれど。好きなだけうとうとして食っちゃ寝し、

 なおかつずっと若いままでいられると知れ渡った日には、

 平原中から女性が集って旅団規模で眷属狩りをやりそうだ」


ヴァディスはお手上げといった風に両手を広げてそう言った。


「はは、本当に起こりそうだから怖い……」


サイアスもまた笑ってそう言った。


「それに極端な例ばかり挙げてはきたが、魔力が低いうちは

 どの症例も浅い形でしか表われないさ。顕著になるのは10以上、

 人より魔の側に寄ってからだろう。さらに言えば、

 魔そのものとやりあって、しかも勝利するようなことでもなければ、

 魔力はせいぜい一桁止まりだよ。10を超える可能性があるのは

 後方支援であるがゆえに多くの戦に関わる軍師や祈祷師、

 もしくは歴戦の騎士や騎士長くらいだろうか」


「すると、医局や資料室、参謀部が中央塔に集中しているのは」


サイアスはふと思いついてそう問うた。


「察しがいいな…… その通り。

 高魔力者を一か所に囲っておくためだ。能力、技能、変容と

 あらゆる点でみて、その方が都合がいいのでね…… もっとも」


ヴァディスは含みのある笑みを浮かべ、


「騎士や騎士長が放し飼いな時点で、まるで機能していない。

 心配性の軍師衆が自縄自縛で徒労しているだけさ。

 それにな、ほら、ここの戦闘職な連中は皆、何というか……

 ワーッとやってガーっとなってウォーって感じでヨッシャー、

 というヤツがやたらと多いのだ。ウダウダ悩むのは軍師に任せ、

 死んでからのことは生きてるヤツに任せる。何とも清々しい限りだよ」


ヴァディスは肩を竦めて呆れつつも、どこか優しげに笑っていた。


「……最近、どうでも良いからとりあえず斬る、

 が正解だと思うようになりました」


サイアスもまた、肩を竦めてそう言った。


「うむ、それでこそ城砦兵士というものだ。 ……ところで」


ヴァディスはそう言うとじっとサイアスを見つめた。


「?」


サイアスは小首を傾げてヴァディスを見やった。


「……ふむ、装備込みで5.86か。まぁ十分だな。

 サイアス、ベオルク殿はどうされているかな」


「? 副長は騎士団長の供でアウクシリウムへ出かけています。

 明日の午後に戻ると聞いていますが」


「よし、明日の夕刻、ヴァディスが詰め所にて面会を望んでいると

 伝えておいてくれたまえ。君にも同席して貰いたい」


「判りました。必ず伝えます」


サイアスは笑顔でしっかりと頷いた。サイアスは知らず敬礼を省いていた。

徐々にヴァディスを本当の姉の様に感じ始めていたのかどうか、

そこは未だ定かではなかった。


「さてすっかり長話をしてしまったが。

 何か要件があったのだったか?」


「またにします。ラインの黄金を届けるときにでも改めて」


「はは、気を遣わなくてもいいのに。まぁそれならそれでいいか。

 では私は、そろそろ居室に戻って昼寝でもしようかな。

 そちらの青い方。お構いできず済まなかったね。

 ひとつ今後とも、弟を宜しくお願いしたい。

 サイアス、また何かあったらお姉ちゃんに相談するんだぞー」


(お任せください、お姉様)


デネブは古代語でそう書いてみせ、

ヴァディスはそれを見てくすりと微笑んだ。


「うちの弟は女癖が悪いなぁ。刺されんように気を付けろよ?」


「……洒落になってない。眠ってやり過ごせないものか」


サイアスは溜息交じりにそう呟き、ヴァディスは声を立てて笑った。

その後サイアスとデネブは手を振ってヴァディスの下を離れた。



サイアスとデネブは参謀部を後にし、

昼食のために営舎へと引き上げていった。

詰め所に入るとデレクから


「おーおかえり。改修済んでるぞー」


と間延びした声を掛けられ、二人は敬礼して居室へと続く大扉を開けた。

廊下を進んで自身の居室前まで到着したサイアスは、思わず己が目を

疑った。そこには居室の扉がなく、ただ真新しい壁があった。脇を

見やると隣室の扉が大きくなっており、さらに一室向こうでは

サイアスの居室同様、扉が無くなり壁となっていた。


「……」


サイアスが隣室の扉へと向かい向き合うと、

両開きの大扉の中央部には左右に分かれる真鍮製のプレートが

取り付けられており、そこには左右に分かれて


「サイアス・ラインドルフ他 居室及びサイアス小隊詰め所」


と刻字されていた。


「良いのかこれ……」


サイアスは怪訝な顔をしつつ、居室の新たな扉を開けた。

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