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サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
213/1317

サイアスの千日物語 三十六日目 その九

一通り説明を終えたオッピドゥスが在所へと戻っていき、

兵士たちは訓練を再開した。第一戦隊教導隊は盾滑りについては

全員が使いこなせるようになり、サイアスロールは縦ではなく

横回転として背後を取る形式に切り替え、一定の成果を得た。


またこれらの技能を活用するため、今後は盾の表面に

油を塗布しておく案が検討された。油で摩擦を減らせば

盾滑りは成功率が著しく高くなるし、眷属は総じて火を嫌うため、

火の付いた盾で体当たりでもしてやれば、かなりの損害を

与えることもできるだろうと考えたのだった。


「うむ、サイアス殿、そしてデネブ殿。貴殿らのお蔭で

 実に有意義な訓練となった。感謝する。サイアスロールは

 流石に一朝一夕とはいかないが、いずれきっと使いこなして見せよう」


騎士ルメールは実に満足げにそう言い、笑って頷いた。


「お役に立てたのなら何よりです。我々も良い訓練になりました」


サイアスはサイアスで、教導隊から実戦での陣形について学んでいた。

相手が私掠兵団のような雑兵の群れであるならば

少数精鋭を以て十二分に数的不利を覆し得るが、戦力指数が上手の

眷属が相手の場合、こちらが数で勝負するしかない。

個人技も大事だが、それ以上に集団としての技術や位置取りが問われる

ケースが今後益々増えるだろうことを、サイアスは痛感していたのだった。


「さて、いつまでも我らの都合で引き留める訳にはいかないな。

 最後に我々から一つ、贈り物をさせて頂こう」


騎士ルメールは配下に声をかけ、配下は新たな台車に

金属の板らしきものを乗せて戻ってきた。それは中央部が

僅かに膨らんだ、縦長のひし形の上部を切り取ったような

形状をした、人の胴に近い大きさの重厚な金属製の盾だった。


「第一戦隊精鋭兵の専用盾『メナンキュラス』だ。

 小振りだが特殊で強力な代物だ。複数の金属材からなる

 合成盾であり、城壁に迫る強度を持っている。

 並の眷属の攻撃では傷一つ付きはしないだろう。

 盾というより装甲板といった方がしっくりくるかも知れないな。


 唯一無二の特徴として、バネと油圧による衝撃吸収機構を内臓している。

 これにより、仮に眷属の群れの突撃や大ヒルの薙ぎ払いのような

 防御の閾値を超えた衝撃であっても最大限吸収・緩和し、

 所持者への浸透を最小限に食い止める。欠点はとにかく重い事。

 剣や槍の比ではない。これだけで甲冑並みの重さがあるのだ」


「『メナンキュラス』は戦隊長閣下の使っておられる盾のレプリカだ。

 閣下は比類なき膂力をお持ちなため、装備において必ず問題となる

 重量というものをまったく気にする必要がない。そのため作り手も

 手加減抜きで全力でやれるのだそうだ。そうした中で

 最高の防御力のみを追求し、資材部や工房が技術の粋を結集して

 生み出した傑作が閣下のもつ二枚の『メーニア』であり、

 それを小型化・汎用化したのがこの『メナンキュラス』というわけだ。

 小型化・汎用化といっても元が元だけに、誰もが使える代物ではない。

 が、デネブ殿であれば大丈夫だろう。第一戦隊土産に是非、

 この『メナンキュラス』を持ち帰ってくれたまえ」


サイアスはルメールに一礼し、台車からメナンキュラスを持ち上げた。

持ち上げるだけならばサイアスでも平気だが、構えて維持し、まして

振り回すとなると到底不可能に思われた。サイアスはメナンキュラスの

裏側をデネブに向け、デネブは裏側中央のグリップをガシリと握りしめ、

上下左右に動かし調子を確かめ始めた。デネブであれば問題なく

用いることができるようだった。やがてデネブは満足したのか、

メナンキュラスを胸前に引き付け右手の槍を旋回させて右側面へと

薙ぎ払い、小脇に抱えるように持ち替えビシリと構えた。


「うむ、堂に入っている。貴殿であれば十二分に使いこなせるだろう」


騎士ルメールは何度も頷き請け負った。


「ルメール様、素敵な贈り物、有難く頂戴いたします。

 デネブともども、必ずや戦場で活躍し御恩返しといたしましょう。

 では此度はこれにて失礼いたします」


サイアスはデネブの分もと頭を下げて礼を述べた。


「こちらこそ今日は大変良い勉強をさせていただいた。 

 サイアス殿、デネブ殿。是非またお会いしよう。

 総員! サイアス殿とデネブ殿に対し、敬礼!」


第一戦隊教導隊は一斉にサイアスとデネブに敬礼し、

サイアスとデネブもまた敬礼を返した。

そして二人は北東区画を後にした。

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