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サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
209/1317

サイアスの千日物語 三十六日目 その六

サイアスは台車に山と積まれた盾を見て、

早々に自分で選ぶのを諦めた。


「あの時私が用いたのは、第三戦隊教導隊の

 ホプロンだったと記憶しています」


サイアスの言を受け、盾の台車を運んできた兵士が

すぐに山盛りの盾の中から指定のものを選びだしてくれた。


「次に戦闘前の状況として、鑷頭にはかなりの数の

 油矢が射込まれており、刺さったものは極僅かでしたが

 後頭部から背面にかけて、鑷頭の身体は粘度の高い可燃性の

 油で包まれておりました」


「ふむ。そのようにせよ!」


ルメールの命を受け、兵士たちが鑷頭の模型を油まみれにした。


「まず最初に、鑷頭は私目掛けて開いた大口を閉じながら

 急激に加速し、喰らい付くべく勢いよく突進してまいりました」


サイアスはそう告げると鑷頭を動かす担当の兵士に

手早く動きの特徴を示し、何度か空打ちさせて確かめたのち、

仕手を増やして数人がかりで加速させ、自らへと猛突進させた。


「そこで私は突進に合わせ、盾を滑らせるように踏み込みを」


サイアスは自身目掛けて突っ込んでくる破城鎚のごとき一撃を

ものともせずに逆に踏み込み、軸をずらしつつホプロンを

斜めに当てて滑るように進んだ。瞬く間に位置が入れ替わり、

今やサイアスは長大な鑷頭の模型の側面を取っていた。

ほぅ、という声が周囲から漏れた。


「ふむ、『盾滑り』か。バックラーの技法を実戦的に

 昇華させたものだな。大物相手の実戦で即応させて

 決めてのけるとは、実に見事なものだ」


「大ヒルの薙ぎ払いを受けた際、咄嗟に閃いたものを

 使って見ました。予想以上にうまくいって満足しています」


「むぅ、あの大ヒルの薙ぎ払いを受けて生きているとは……

 防御に関しては既に騎士の水準にありそうだな」


ルメールはそう言って大いに頷き、感心していた。

サイアスの回避技能は既に7という名人芸の域に達しており、

盾の扱いも既に3、専門家の水準に差し掛かっていた。



「うむ。では誰か、やって見せよ!」


ルメールは配下に声を掛けた。


「ハッ。では自分が」


と率先して一人の兵士が準備をし、鑷頭の模型を突進させて

「盾滑り」に挑戦した。最初の一名は突進の回避には成功したが

自身の身体を前方へ進めて滑り込ませるには至らず、依然

鑷頭の巨大な顎の射程内に留まった。続けて数名が試すうち徐々に

コツを掴んでいき、5人目辺りからほぼ確実に成功するようになった。


「おー」


自身より遥かに重装で大きな盾を持った教導隊の兵士たちが、

ガンビスンにホプロンのみといったごくごく軽装の自らの動きを

次々と再現してのけることに、サイアスは感嘆の声を上げていた。


続く一人は鑷頭の突進を何と細身の槍で受け流しつつ

踏み込みそのままに長大な横っ腹を石突で打ち据え、右足を軸に

体幹を捻りつつ手元で小さく槍を旋回させ、二撃、三撃と連撃を決めた。

華麗な技を決めたのはいつの間にやら列に紛れ込んでいたデネブであった。

皆が次々と技を成すのを見て、何やらじっとして居られなくなったらしい。

周囲からはおぉっ、というどよめきがあがった。


「うむ、げに素晴らしき槍捌きよ!

 さぞや名のある武人とお見受けするが」


「デネブです。我が配下にして我が近衛、

 我が槍にして我が友です」


ルメールの問いにはサイアスが答えた。

デネブはどこか誇らしげに頷くと、そそくさと

サイアスの背後へ戻っていった。今は子供の状態かな、

などとサイアスはデネブへの感想を抱いていた。



「サイアス殿。『盾滑り』は確かに非凡な技法ではあるが、

 我らにとり初見という程のものではない。当日現場にいた

 第一戦隊の兵士数名は『今までに見たこともない大技』と興奮して

 報告に及んでいる。まだこれ以上の秘技をお持ちなのではないかな」


ルメールはサイアスにそう言ってさらなる技の披露を迫った。

サイアスは先に少し身体を温めたいと主張し、デネブを相手に

軽く剣撃の動作を行い、十分身体がほぐれたところで


「では、かなり特殊な挙動となりますが……」


と断った上で、鑷頭の模型を操作する兵士と打ち合わせを開始した。

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