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サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
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サイアスの千日物語 三十四日目 その三十六

「おーおー、派手に食い散らかしてやがるな。

 踊り食いってのはこういうのを言うのかね」


ラーズがひょうげつつもうんざりとした口調でそう言った。


「サイアス殿、どうされるのだ?」


セメレーは大口手足とその餌食に顔をしかめつつそう問うた。


「連中の内にグウィディオンが居なかった以上、

 帰投するという選択肢は無い。恐らくグウィディオンは、

 元々遅れてくるつもりだったのだろう。流石に城砦からは

 既に出ているだろうから、暫くはここで待機だね」


サイアスは常と変わらぬ口調でそう言った。


「するとこの連中は、全部まとめて捨て駒だったか」


セメレーはそう言って頷いた。


「偽名を使って潜伏している点を見ても、グウィディオンとしては

 自分が荒野へ向かって荒野で死んだという情報をトリクティアに

 納得させ得るだけの材料が欲しかった、ただそれだけ、なのだろう。

 ローディス閣下の言われたように、最初から補充兵ではなく

 機動大隊の方に紛れていたのではないかな。で、共に付いてきた

 配下のある程度を補充兵に入れ、一芝居打たせて密かに回収し、

 配下ともども荒野で死んだことにして平原へ戻り再起を図る、と」


サイアスはそこで一旦言葉を区切り、


「配下には説明していたのだろうね……」


とやや肩を竦めてそう言った。


「なるほどなぁ……

『補充兵と百人隊に二分して、補充兵側で騒ぎを起こして放逐され、

 百人隊側で回収・吸収して、皆で揃って平原へ帰る』と言やぁ、

 配下どもも納得する。頭と皆と、何より自分の将来のために、

 多少の危険や犠牲は厭わずきっちり役目を果たすだろうぜ。

 だがその実、当のお頭様としちゃ、自分以外は端っから

 捨て駒にする気でしたと、まぁそういうことかい」


ラーズはそう言って皮肉に笑った。名うてとはいえ傭兵だった

ラーズとしては、こうしたやり口は今日の今初めて目にしたと

いったものでもないようだった。


「ま、似たようなのは俺も結構見てきたがね。

 今回のはとびきり模範的な糞野郎らしい」


ラーズはそう言って不快感を露わにしていた。セメレーもまた同様だった。

サイアスはと言えば、星明りとデネブの差し出す松明の炎を頼りにして、

昼にルジヌから受け取った資料に目を通していた。


「これまでの戦歴によると、グウィディオンは戦場を配下に

 任せきりにするということをしない男のようだ。

 どんな現場にも必ず自分で赴き、自分の目で結果を確認。

 後処理の指揮も自分で執るのが常らしい」


「余程神経質なのか、配下が信用ならんのか。まぁ両方か」


セメレーはそう言い、サイアスは頷いた。


「ともあれ今回だけ現場に来ないということはないだろうね。

 必ず顛末を見届けにくる。それに連中は『馬の手配』がどうだと

 言っていた。少なくともグウィディオン自身はここに馬で来るだろう。

 供回りが数騎居るかもしれないね。数は多くはないだろうけど」


「成程な。当初の二連戦の見積もりが三連戦に増える訳か。

 まぁギリギリ矢はもつだろう。あちらさん次第ではあるけどな」


そう言ってラーズは自分たちの南方で

慌ただしくもてきぱきと動くランドを見やった。

ランドの作業するすぐ隣には、先刻までは確かにただの

台車であったはずの、奇妙な構造物が出来上がりつつあった。


「サイアス殿、眷属どもがそろそろ動くようだ。次の狙いは我々らしい」


セメレーはひとしきり動く者を貪り尽くし、活きの良い新たな

踊り食い対象を求めてサイアス達に向き直った大口手足を見やっていた。


「ケッ、『食事休憩』は終わりかよ。先に死体から食って欲しいもんだ」


ラーズは冷笑気味にそう言った。


「できそこないも近付いてきたね。ではそろそろ二戦目いくか」


サイアスはそう言って敵前ながら悠然と時計周りに振り返り、

北のセメレーに頷き、東のラーズに頷いて、南のデネブに微笑んだ。

サイアスは最後に南方やや離れたブークらの方を見つめた。

そちらでは準備が済んだらしきブークとランドがサイアスに頷いており、

サイアスはこれに対して自身も頷いた。そしてサイアスは再び西へと

向き直り、向き直りざまにその剣を払い、盾を構えた。

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