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サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
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サイアスの千日物語 三十四日目 その二十八

サイアスとデネブが詰め所に入ると、中では普段通りの

賑やかな様相を保ったまま、10数名の武装した兵士と騎士デレク、

そして参謀部からやってきた軍師ルジヌが打ち合わせをしていた。

兵士たちは普段と異なり片手剣や手斧、手槍といった短めの装備を

準備し調整しており、室内戦闘を考慮している様が窺えた。


「おーサイアス。そっちの迎えはまだだなー」


図面と睨めっこしていたデレクはそう言って、外の様子を窺った。

外では常と違って数名の兵士が詰め所の周囲を歩哨していた。


「現場が近いからな。多少気を遣う」


デレクはそう言って苦笑し、再び図面に目を戻した。

デレクら第四戦隊の本隊は、参謀部軍師と共に機を見て

駐留騎士団の営舎へ査察を掛ける手はずとなっており、

査察はそのまま駐留騎士団との戦闘へと発展する可能性が高かった。

駐留騎士団の営舎は第四戦隊の営舎と同じ城砦内閣の北西地区に

あったため、準備を気取られぬよう注意を払っていたのだった。


「これはサイアスさん。お邪魔していますよ」


次にルジヌが挨拶してきた。いつになく楽しげなのは何故だろう。


「こちらは私が同行することになっています。

 久々の実戦です。実に楽しみです」


ルジヌはそう言ってにっこりと笑った。


「はは、まー最初は穏便によろしくー」


デレクは苦笑しつつ兵士たちに油や松明の準備をさせていた。


「焼き討ちの準備をしつつよく仰る。くれぐれも他に

 引火させないようお願いしますよ」


「大丈夫大丈夫、煙攻めだから。

 出口と窓ふさいで煙焚けば、害虫なんて大抵死ぬ死ぬ」


「ふむ、合理的ですね」


ルジヌは眼鏡を直しつつデレクに頷き、

デレクはニヤリと笑っていた。


「まーこっちはいいとして。サイアス、

 少数で大勢を倒すコツ、知ってるかー」


「少数であることを活かす、ということですね」


「うむ。具体的にはどうだ?」


「常に移動して包囲を避ける」


「そうだなー。その為に必要なのは速さだ。

 単純な速さだけでなく、判断の速さも必要になるなー。

 一手仕掛けたら成否にかかわらず即動き、動き出す前に

 次の一手を準備する、この繰り返しで的を絞らせないことだ。

 ……とはいえ。これを部隊単位でやるのはムズいぞ?」


「確かに…… それによく考えたら

 相手に逃げられてしまいますね。殲滅が目的だというのに」


「だなー。まぁ本丸が判り次第、方針を切り替えるしかあるまい」


「戦闘場所は遮蔽物の無い平地となるでしょう。

 第三戦隊から派遣される弓兵を遠目に置いて、自陣から

 角度をつけた位置からの射撃で敵の移動を制限するのも有効ですよ」


「なるほど。敵の退路を塞いで貰うかな」


「弓兵の数に気付かれると強行突破を狙うかもしれませんから、

 やはり弓兵は伏兵として利用するのが良いでしょうね。本隊ではなく

 弓兵のほうを一射ごとに動かす、といった仕掛けも

 面白いかもしれません」


「なるほど、部隊としての速度と弓兵の運用、これが鍵ですね……

 今の話、現場で活かせるよう鋭意取り組みます」


サイアスはそう言って頷き、デレクとルジヌに敬礼した。


「はは、いっぱしの指揮官ぽくなってきたなー。

 まぁ腕は確かだ。味方は付いてくるさ。うまくやれー」



そのとき、詰め所の扉から新たな数名が現れた。


「頼もう! サイアス殿はおられるか! 迎えに参った!」


高らかに声を上げたのは、ピンクの板金鎧とピンクのサークレットを

身に着け、夜目にも眩しい純白のマントをはためかせた女性兵士だった。


「お、攻め攻めネーちゃんか」


兵士の一人がそう言った。そしてそれを聞くが早いか、


「誰が守備力ゼロの鉄砲玉か! 私の名前はセメレーだ!」


と女性兵士が吠えかかった。兵士たちはその様を見て大喜びしていた。

女性兵士の声はオッピドゥスのような問答無用の爆音ではなく、

そこはかとない可憐さを伴った凛々しい声であり、

何よりとにかくテンションが激烈に高かった。



「あー、あいつかー…… 腕は確かなんだけどなー」


デレクはため息交じりにそう言った。


「む! デレク様! 聞こえましたぞ! 

 腕は確か! そして心根も確かなのがこのセメレーですぞ!

 我が正義の刃でいかなる敵も屠ってみせましょうぞ!」


セメレーはそう吠え、自らの胸甲をがつりと鳴らし、

兵士たちはやんややんやと囃したてた。


「あいつ四六時中あの調子なんだよ。たまにからかうには

 いいんだけどな。正直疲れるぞ。覚悟しとけー」


デレクの脇にいた兵士がサイアスに向かって楽しそうにそう言い、

セメレーに吠えられる前にと倉庫へ逃げた。


「む! 貴殿がサイアス殿か!」


そういうとセメレーはズンズンとサイアスの前に進み来た。


「お初にお目にかかる! 我が名は」


「存じています。セメレーさんですね」


サイアスは鼓膜が心配になってきたので先手を打った。


「むむ! 何故我が名を知っている! まあいい!

 私の名前はセメレー! 第二戦隊所属城砦兵士長・セメレー!

 第二戦隊所属城砦騎士・アクタイオンの娘、セメレーだ!」


サイアスの努力の甲斐なく、結局名乗りをあげられてしまった。


「第四戦隊兵士のサイアスです。

 こちらは配下のデネブ。どうかよろしく」


サイアスは無難に手短に挨拶をした。

デネブは大兜の内部で音が響くのか、ややフラフラとしていたが、

それでも敬礼して挨拶に代えた。


「うむ! こちらこそよろしく頼む! 階級は同格だが

 指揮系統としてはそちらが上だ。気軽にセメレーと呼び捨て

 使いまわしてくれたまえ! 必ずや活躍してご覧にいれよう!」

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