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サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
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サイアスの千日物語 三十四日目 その二十七

コンコン、と規則正しい音が響いた。

誰かが扉を叩いているらしい。サイアスはそう理解した。

サイアスはそう理解したものの、どうにもその音が心地よく、

ますます眠たくなっていた。雨だれのような心地よい音に

さらにうつらうつらと寝過ごしていると、途端に大時化に

飲まれた小舟のごとく激しく身体が揺れ動いた。


「ちょっとあんた! いつまで寝てんのよ!

 さっさと起きなさい!」


「うーん」


サイアスは心底いやそうな表情を浮かべ、目を開けた。

すると今にも食いつかんばかりの目を吊り上げたロイエが

目に入り、慌てて起き上がった。


「これから斬り合いだってのによく寝れるわね。

 どんだけ神経図太いのよ……」


「眠いものは眠い」


サイアスは淡々とそう呟いた。


「……もっかい言って御覧なさい」


「何を? 何か聞こえたの?」


「えっ?」


「はい、どいたどいた」


サイアスはロイエの虚を突いてさっさと起き上がり、

応接室でデネブに礼を述べ玻璃の珠時計を受け取った。



「どうもここのところ」


サイアスはデネブが煎れてくれた茶を喫しつつ呟いた。


「妙に眠い。元々寝起きは良くない方だけれど、

 ちょっと度が過ぎる気がする」


「そう……」


ニティヤは思案気にそう言うと、

何か思い当ったのか書斎兼寝室へと消えた。


「ね、ねむいねむい病ですか!?」


ベリルがつぶらな瞳を見開いてサイアスを見つめた。


「あぁうん、多分そう…… なのか?

 ベリルのところの本に、何か書いてあったりする?」


「わ、わかりません…… でも調べてみます!」


ベリルはそう言ってかぶりを振った。


「ありがとう。何かのついででいいからね」


「疲れたまってんじゃないのー? ダメよ夜更かしとか。

 あんた夜中にフラフラ歩きまわってそうなイメージだわ」


ロイエはサイアスの頬をぷにぷに突っつきながらそう言った。


「何言ってるんだ。荒野は夜が一番忙しいのに。

 あとお茶飲みにくいからぷにぷに禁止」


「え、そうなの? でもここの人ってみんな昼型じゃない?」


「四戦隊は、普段は待機が任務だからね。

 代わりに一旦特務となれば、昼夜の別なく休みはないよ。

 それに魔や眷属は夜の生き物だから、余所も夜間任務の方が多い」


「へー、そうなんだ…… お肌が心配だわ」


うかつに反応すると危険なので、

サイアスはロイエの発言を聞き流すことにした。


「訓練課程中の補充兵は実戦に用いることはない、と一応言われている。

 もっとも君らはもう補充兵ではないから、場合によっては

 動くことになる。一昨日みたいな感じかな」


「ふーん、なるほどねー」


ようやく頭が回り始めたサイアスは、まず、自室へ戻った

ロイエとベリルがどうして再びサイアスの居室に居るのかを考えた。

その結果、恐らく不安なのだろう、との推論を得て、

こちらの居室の留守を頼む、と伝えておいた。

その後サイアスが装備を整えるべく書斎兼寝室へと戻ると、

ニティヤが寝台に横になっていた。


「疲れてる?」


サイアスはそう問うた。


「そういう訳ではないわ。仕組みを探っていたの」


ニティヤは目を開けてサイアスを見やり、身を起こした。


「仕組み……?」


「えぇ…… 

 この寝台、治療系の術式がかけてあるわ。どこかに呪符でも

 貼ってありそうね。術式に催眠効果が含まれているのか、

 それとも別途掛けてあるのか、そこまではちょっと判らないけれど」


「ほほー……」


「眠いのはきっと術式が機能していたからじゃないかしら。

 つまり治療が必要な状態だったということでしょうけど。

 心当たりはないの?」


「山ほどある。というか…… いや、なんでもない」


つい今しがた妙に眠かったのは、

個性豊かな配下たちの極めて自然な横暴ゆえと見て間違いない。

サイアスはそう結論付け、寝台と寝台に掛けらているらしき

治療術式に深い感謝の念を抱いた。


「何よ、思わせぶりね…… 

 まぁ大事の前の小事。今日のところは見逃してあげるわ。

 急いで支度しないといけないわね」


ニティヤはそう言ってスっと物置に消えていった。

サイアスもまた一通りの武装を整え、ロイエとベリルに

留守を任せ、デネブを伴い詰め所へと向かった。

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