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サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
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サイアスの千日物語 三十四日目 その二十四

倉庫は詰め所とほぼ同等の広さがあった。扉のすぐ傍には

長物の武器が立てかけられ、続いて他所から運ばれてきた

木箱入りの個人注文品や馬具等の汎用品が安置されていた。


サイアスと兵士たちはそうした物資の隙間を縫って奥へと進み、

普段はあまり人の入らぬ小具足類の置き場へとやってきた。


「既に魚人のヒラキと大ヒルの姿焼きやら、

 鑷頭のカブト煮までやらかしたお前には、今更な話だがな。

 魔や眷属ってのは見た目もデカさもまるで違う。

 大抵人よりデカいしゴツいし強い。要するに『格上』の相手だ。

 そこらは判ってるよな」


兵士の一人が棚を物色しつつそう言った。


「はい。身に染みて。

 さすがに大ヒルは当分遠慮したいかな……」


「ははは、だよな。俺もあれは勘弁だわ。

 んでな、格上が格下に攻撃を仕掛ける場合には

 イチイチ小技なんぞは使わずに、カサに掛かって

 押し込んでくる、てのも実感してるんじゃないか?」


「そうですね。確かにその通りだと思います。

 なんというか、大ざっぱ?」


「おぅおぅ。そういうこった。あいつらにして見りゃ

 適当に引っぱたいただけでこっちはお陀仏だからな、

 割りと大味な攻撃しかしないんだよ。代わりに有り得ん

 速さと重さだから、うっかり受けたら防御ごとグッシャリだ。

 ……まぁ同じことを逆に眷属にしでかす御方もいるけどな」


「やっぱり規格外ですよね、あの閣下は……」


「うむ、実は魔なんじゃねぇかとはよく言われてるぜ」


「まぁともかく、だ。対魔・対眷属戦では小技は

 ほとんど飛んでこないから、防具は被弾面積の多い部分を

 重視して、細部は無防備に近いってことが多いんだ。

 手足なんかは手袋にブーツで十分ってこったな。

 それで足りないような相手だと、まず胴体が吹き飛んでるって話」


兵士の一人が布地に革や金属を縫いつけた小札でできた

首飾りのようなものを取り出し、サイアスの首に合わせた。

サイズに問題ないと見た兵士は、サイアスに手渡し、

付けてみるよう促した。


「そいつは喉輪。ゴルゲットとも言うな…… んで続きだが、

 一方人間同士の戦闘となると、どっちも似たようなデカさゴツさで

 似たような能力だし、さらに似たような武器使ってどつき合うだろ。

 魔や眷属がキメてくるような、防具も何もお構いなしにもってく

 一撃必殺の速さや重さが無いもんだから、いきおい決着も長引いて

 細かい怪我が増えるんだよ。それに」


別の兵士が膝、脛、足の甲をそれぞれ独立して覆う装甲を

革紐やリベットで繋げて後方でベルト止めするようになった防具を

引っ張りだし、サイアスの足と見比べていた。そしてこれも

問題無しとみてサイアスに手渡し、

サイアスは両足のブーツの上からそれらを付けた。


「それは足甲。まぁ見たまんまだな。

 レギンスだのソルレットだの呼ぶことも多いぜ。

 んでそれに、だ。人体ってのは末端ほど細々した部品で出来てて、

 しかも複雑な造りになってるんだよ。だからそういった部分に

 ちょっとした怪我を負っちまうと、命に別状なくても

 一気に機能が落ちてしまう」


別の兵士が小さな敷物のような布地を取り出した。表面には

無数の小札が縫い付けられており、布地の上方両端には

ベルトが一体化して付いていた。


「それは佩楯だな。騎乗戦闘だと相当大事なパーツだ。

 歩兵にゃ微妙なとこだがな…… まぁ重さと相談してみろ。

 ほいで…… どこまで話したっけ?」


「ちょっとした怪我で一気に機能が落ちる、と」


「おぅそれそれ。例えば親指だよ。

 利き腕の親指一本千切れただけで、もう満足に剣を持てやしないだろ? 

 それに足の親指一本折れただけで、途端に踏込みも回避も効かなくなる。

 末端程機能性の高いパーツが揃ってるてことだな。

 だから荒野用の防具で軽視されがちな、そういった細部を護る

 部分鎧、つまり小具足が要るってこと」


サイアスは佩楯を試してみたが、動きがもっさりとして回避技能に

障りが出そうなのでやめておくことにし、一礼して兵士に返却した。


「佩楯は止めたか。なら膝当ての上に

 もいっちょ増装でもいいかもな。この手の小具足は

 完全受注生産の個人専用な甲冑と違って、部品単位でバラ売りでな。

 組み方次第じゃ安くていいモンが仕上がることもある。

 まぁ大損ぶっこくことも多いがね」


兵士はそう言って苦笑した。


「平原で傭兵やってたころは、暇見繕っちゃあ

 市やら防具屋やら冷やかして、パーツ集めて自作甲冑とか

 組んでたんだぜ。まぁ大抵はガラクタの塊になっちまうけどな」


「ははは、あるある」


兵士たちはそう言って笑っていた。


「防具屋の口車でついつい要らんパーツ買っちまって

 折角の給金がパァとかな。酒飲んだ方がなんぼかマシだっつってなぁ」


「自作パーツにぶっこんだ金で新品甲冑買えるわい、みたいな」


「あぁ…… でもあいつら、単なる余りモンを

『超特価! こだわりの自作派に贈る究極の逸品! 

 特級工房の備品が今だけこの価格! 現物限り!』

 とか言って売りさばくからな。そんなん買ってまうやろ……」


「……まぁ、俺らの悲しい思い出は良いとして。

 サイアスの防具はコートオブプレートにサリットだから、

 後は小手かね。小手は…… っとあの辺か」


その後サイアスは金属の小札を縫い込んで防護力を高めた、

コートオブプレートと同仕様の手袋を選んで貰い、

談笑しつつ詰め所へと戻った。

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