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サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
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サイアスの千日物語 三十四日目 その二十三

コンコンと、二度ほど扉を鳴らした後、

兵士がサイアスの居室の扉をあけた。


「サイアスー、参謀部のヤツが状況確認に来て…… 

 る、ぞっと…… ぅゎー……」


兵士が見たものは、卓を囲んでお茶会に熱中する

女子らしき3名と、ソファーでぐったりと虚ろな目をする

サイアスの姿だった。4名の視線を一斉に浴びた兵士は

石化を避けんとばかりに目をそらし、扉に隠れた。


「んじゃ伝えたからなー……」


兵士は扉の隙間からそれだけ告げて去っていった。


「あちゃー、ちょっとマズったかなー?」


ロイエがそう口にし、


「口封じするの?」


とニティヤの声が卓上で響いた。

当人はノックの時点で姿を消していた。


「いやいや、さすがにそれは。ほらサイアス!

 いつまでもぼーっとしてないの! さっさと報告してきなさい?」


とロイエはサイアスを叱咤し、激励は省いた。

ベリルは書物を開きながらトコトコとサイアスに近寄り、

人体図を眺めつつサイアスに指圧を開始した。


「……ベリル、痛い。そしてくすぐったい…… 

 今は良いから、ロイエと部屋に戻っておいて」


ふんぬ、ぐぬぬと渾身の力を込めて

肩や首、脇に襲いかかるベリルを引きはがし、

サイアスは身だしなみを整えて詰め所へと向かった。



「よーサイアスおちかれー。マジでおちかれー」


デレクがニヤニヤしながらそう言った。

デレクの脇では馴染みの兵士たちが同様にニヤついていた。


「はぁ、お騒がせを…… それで参謀部の方は」


「私ですよ。 ……大丈夫ですか? 回復祈祷が必要ですか?」


「必要なのはお祓いかな…… と、状況は順調です。

 当初の予定通りであるとお伝え頂けますか」


「了解です。日没と同時に迎えが来るでしょう。

 3時間後、ここでお待ち頂けますよう」


「了解しました。適宜整えます」


参謀部兵士とサイアスは互いに敬礼を交わし、

兵士は参謀部へと戻っていった。


サイアスは玻璃の珠時計で現在時刻を確認した。

時刻はおよそ4時であり、迎えは7時辺りということらしかった。



参謀部の兵士が去ったあと、ぐったりするサイアスを

デレクと馴染みの兵士たちがからかっていた。


「女ばっか採用するからだぞー。ここの女は魔よりおっかないからなー」


デレクはそう言って他人事だとばかりに笑っていた。


「しかしなんでこう、キツい女ばっかなんだか」


兵士の一人がそう漏らした。


「ばっかお前、キツイ女だからここにくるんだよ。

 おしとやかなのに会いたかったら、休暇こさえて

 アウクシリウムに行くしかないぜ」


別の兵士がそれに応じた。


「休暇なー、まぁその前に一山越さんといかんねー」


「あーぼちぼちって噂だな。宴」


「宴…… 皆さんはこれまでにも?」


サイアスはデレクや兵士たちに尋ねてみた。


「ん? あぁ…… 俺らは割と生き残る方だぜ。

 むしろ終わってからが本番だからな」


「そぅそぅ。宴の後、手負いの魔を追っかけてって仕留めるのが主だな。

 ここらは二戦隊と共闘になる。基本、調査追跡をうちがやって、

 二戦隊が切り込む感じだな。大抵どっちも一緒にやっちまうが」


「今年はデレクの大好きなあの騎士殿が既に動いてるからな。

 いつもより手際よくいくかもしれん」


「ちょ、お前マジやめろそーいうの。

 いまだに夜灯り消すの怖いんだから……」


デレクがげっそりしてそう言った。


「あぁそう言えば。配下が一人増えました。

 マナサ様の一族の娘でニティヤといいます。暗殺者です。

 普段はマナサ様同様どこかに潜んでいますが、ちゃんといますので。

 宜しくお願いします」


サイアスはそう言ってニティヤの参入を報告した。

デレクはマナサの名や暗殺者という言葉にビクンビクンと反応しつつ

眉間に皺を寄せ上目遣いで聞いていたが、


「……宜しくお願いします」


との声が頭上から降ってきたため、


「ぅ、うわぁあぁああ…… あぁあああ…… ぁ……」


と悲鳴を上げて頭を抱えた。


「あらら、壊れちゃいましたね。聞きたいことがあったのに」


サイアスはさらっとそう言った。


「よっぽど怖かったんだろうなぁ。可哀相にいい気味だぜ」


「本音だだ漏れだぞお前」


サイアスと兵士たちはデレクを見つつニヤニヤしていた。



「んでサイアス。聞きたいことって、なんだ?」


兵士の一人がそう問うた。


「はい。対人戦の話で、ローディス閣下が

 細部の潰し合いになるから防具に注意を払えと

 おっしゃっていたものですから、どうしたものかと」


「なるる。小具足系の話だな……」


「話だけってのもなんだし、実際に倉庫で説明しつつ見繕ってやるよ」


「おー、ありがとうございます。宜しくお願いします」


こうしてサイアスは兵士数名と共に、

詰め所に隣接している武具の倉庫へと入っていった。

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