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サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
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サイアスの千日物語 三十四日目 その二十一

「実は上下2策のうちの下の策については、

 お二方の快諾を得たことにより、既に達成されているのですよ」


ベオルクはうっかり「勿体ぶりヒゲ」を出さぬよう、

注意しつつも、得意げに語った。


「まずは恐縮にして僭越ながら、『兵士提供義務』の再確認などを。

 中央城砦への恒久的な戦力供給を成すために定められたこの法令は、

『10戸に対し1名』の割合で兵士提供を義務付けるものではありますが、

 この1名というのは『城砦兵士1名』を指しており、

 大抵の提供された補充兵は城砦兵士となる前に死んでしまうため、

 結果として年に一度のペースで繰り返し提供義務を履行している。

 そういうことでございますな」


「そうだな。

 眷属とやり合えるヤツは平原じゃ兵士でも極稀だ。

 だから荒野で実際に使って篩にかけつつ育てるしかない。

 それに城砦兵士になれたところで、宴となりゃ魔の一薙ぎで

 小隊単位で兵が吹き飛ぶ。宴の周期的に見ても、

 もって1年てのはあるだろうぜ」


「左様です。そしてこれは言い換えるなら、提供した補充兵が

 城砦兵士として生き残っておる限りは、その兵の戦力指数に相当する

 分の追加の補充は必要ないという意味でもあります。

 まさにライナス戦隊長がそうであったように、

 武神とも呼ばれる程の強者であれば、長期にわたり単独で

 町一つ分の提供義務すら賄い得るのです」


「あいつは戦力指数30超えのバケモンだったからな……

 今ならローディスも届いてそうだが」


「そうですな…… 

 話を戻しますと、このラインドルフは現状人口300弱であり、

 戸数としては50程度です。そのため、仮に恩典である

 1000日の猶予を度外視して今すぐ兵士提供義務を履行せよと

 なった場合は、10戸あたり1ですので5名の城砦兵士に

 相当する補充兵の提供を担え、ということになるわけですな。

 そして大抵の場合、送った者がすぐ亡くなるため、毎年5名ずつ

 生贄のごとく差し出す、とそういうことになるわけですが」


「1000日の猶予を待たずして先行して城砦入りしたサイアスですが、

 その戦力指数は既に4に近く、訓練課程が終わるころには

 確実に5以上となっている見通しです。城砦兵士は戦力指数1

 として扱うため、サイアスは単独で兵士5名分に相当するのです。

 つまりサイアスの尊き決意とその非凡なる活躍により、

 当ラインドルフは村の現状の規模に対する兵士提供義務を

 既にして払い得ていると、そういうことなのですよ」


「大したもんだ…… だがあいつのことだ。

 村のため、承知の上で相当無茶してやがるんだろうぜ……」


「坊ちゃま…… 

 なんという献身、なんという高潔」


アルミナはその顔を伏せ落涙した。

グラティアはアルミナを労りつつ自らも瞳を潤ませていた。


「我々城砦の古参は皆、在りし日のライナス戦隊長の雄姿を知っています。

 サイアスはそんな我々に混じって欠片も臆することなく、

 戦隊長の見えぬ背中を追い、覚悟一つで戦い続けておるのです。

 その気高き魂はまさに騎士のものであり、

 それゆえにカエリア王に認められ、兵に慕われておるのでしょう。

 不肖このベオルクめも、サイアスのためとあらば死をも厭わぬ所存」


ベオルクは決意をにじませた強い口調でそう言った。


「お前ぇ、本当にあいつに仕える気でいるんだな……」


「無論。何も私に限ったことではありませぬ。

 第四戦隊の他の兵どもも、皆そのつもりでおりますぞ」


「頼もしきお言葉。亡き夫も喜んでいることでしょう」


グラティアはベオルクに頭を下げた。


「勿体なきお言葉。私ごときに礼など不要でございます。

 戦隊長を死なせた私ごときには……」


「お前ぇ、まだそんなこと言ってんのか。

 お前ぇのせいなんかじゃねぇよ。自分を責めるのは止せ」


「……は。お心遣い、痛み入ります。

 ……それに、サイアスに仕えようというのは、

 そもそも我らが望んでやっていることでございます。

 自らの手で育て上げ、鍛え上げた理想の主君に仕えること。

 騎士にとり、これに勝る喜びはそう多くはございませんゆえな」


「全面的に賛同いたします」


アルミナは涙を拭い、何度も頷いていた。


「話が脱線してしまいましたな。我が未熟振りに頭を抱えてしまいます。

 ともあれサイアスの活躍は既にラインドルフを窮状より救っており、

 我らが全力でサイアスを盛り立てますゆえ、現状維持であれば

 当ラインドルフは今後も安泰ということなのですが」


ベオルクは話をもとに戻した。


「良い村や町というのは自然に人が増え大きくなっていくもの。

 そのための策が例の入植者の一件なのです」


「ほぅ? というと?」


「サイアスの配下となったロンデミオン傭兵団長の娘ロイエンタールは

 流民となった縁者同様、故郷を失った身ですから、流民共々

 当村に取り込みラインドルフ出身と成すことで、当村の

 兵士提供義務をも補完し得るということです。

 後出し勝負のような話ではありますがね。


 実はサイアスには補充兵のうちから6名、配下となる者を

 選ぶよう申し付けてあるのですが、この6という数字は

 サイアスと合計した戦力指数がこの村の兵士提供義務を充足させる

 であろうことを狙ったものでもあるのです。


 無論全ての配下をラインドルフへ移籍させることは叶わぬでしょう。

 が、現時点でサイアスの選んだ2名はともに戦力指数が4近く、

 なおかつ故郷を持たぬ者でしてな。当ラインドルフはこれにて

 12以上の戦力指数を充当していることになり、

 120戸分の提供義務を賄っていることになるわけです。


 今後も彼らの戦力指数は上昇するでしょうし、

 また残り4名にも諸処期待を持てますので、少なくとも

 今の数倍の規模に成長したとしても、ラインドルフは城砦へ

 補充兵を送らずに済むでしょう……


 これが上下策のうち下の策にございます」

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