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サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
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サイアスの千日物語 三十四日目 その十七

サイアスとニティヤが書斎兼寝室を出て簡易応接室へ入ると、

どこか不機嫌そうなデネブが帳面を持って出迎えた。


(ご成婚おめでとうございます)


デネブが手にした帳面にはそう書かれていた。


「ん?」


サイアスは怪訝な顔でデネブを見た。一方ニティヤは


「ありがとう。幸せになります……」


と、デネブに向かって微笑んでみせた。


「何がなんだか、よく判らない……」


サイアスは展開に付いていけず茫然としていたが、そこに


(手を取り合って一緒に生きたいと聞こえましたよ?)


とデネブが投げやりに追い打ちをかけ、


「えぇ、確かにそう言われたわ……」


とニティヤが満足げに呼応した。


「いや、言ってないよ? 字が違うよ?

 ……というかニティヤ古代文字読めるの?」


「あら、古代文字なんて暗号の初歩も初歩よ?」


使用者が限られている一方で、体系だった構造を持つ

古代語や亡国の言語などは、程度の低い機密事項の伝達には

打って付けの暗号となる、そういうことらしかった。


「なるほど、一理ある……

 というか結婚とか言ってないから。

 仕えてって言っただけだから」


(なるほど、無理がある)


「私を騙したのね…… 許さないわ……」


「騙してない、騙してない。

 デネブも落ち着いて。どぅどぅ」


サイアスはニティヤとなぜかキレ気味のデネブに囲まれ、

壁際に追いつめられていた。



「ただいまー! っと、何やってんのあんた達?」


その時倉庫に武器を物色に向かっていたロイエとベリルが、

自室ではなくサイアスの居室へと戻ってきた。


「む、増援が……」


サイアスの呻きはすぐに現実の悲劇となった。


「ちょ、ちょっとあんた、誰よその超絶美少女は……

 またどっかから誑かしてきたの?」


「……また、ですって……?」


「!? 人聞きの悪いことを言わないでくれ」


「年上だけじゃなくて年下にも手を出すのね、ベリルも危険だわ……」


「ひ、ひぃっ!?」


ロイエの物言いにベリルが怯え、素早くロイエの陰に隠れた。

一方サイアスはデネブに退路を塞がれ、ニティヤに捕縛されていた。


「あぁもう、ほら、取りあえず離れるんだ。

 グッ、首を絞めるな、関節を極めるな……」


「誰だか知らないけどそこのあんた! 

 サイアスは締め付けよりくすぐりに弱いわよ!

 首とか脇とか、コチョコチョやってやりなさい!」


ロイエはそういってニティヤをけしかけ、

ニヤリと笑って自分も間合いを詰めた。


「!? その顔、さてはわざとか!

 クッ、こうなったら…… デネブ、冷菓だ。冷菓出してやって!」


デネブはプイっとそっぽを向いた。


「で、デネブー!?」



ややあって、見かねたベリルが冷蔵箱から冷菓を取り出し、

ソファでぐったりのびているサイアスを放置して、

女子4名によるお茶会が始まった。

まずは経緯の全てを知るデネブがルジヌやブーク、ローディスとの

会談内容やサイアスとニティヤの会話の概要をまとめたものを

やや苦戦しながら共通語で帳面に記し、卓の中央に置いた。

4名はそれを眺めながら冷菓や茶を楽しみ、

皆訳ありなせいか、すぐに互いを受け入れ親密になっていった。


サイアスはきしむ身体の具合を確かめつつ、

村を発つときのグラドゥスのセリフを思い出し、

「下手すりゃ魔よりおっかねぇ」女性陣の在り様に

暗雲立ち込める心境で遥か東方の故郷ラインドルフを想った。



一方その頃、城砦を遥か東に離れたラインドルフ。

初夏の昼下がりの気怠い熱気を、庭の大樹の木陰で

人の二倍はあろうかという体躯の猛獣に持たれかかって

ダラリとやり過ごしていたグラドゥスの下に、

数名の村人が小走りでやってきた。


「おい大将、大変だ! またしても大勢来やがったぜ!」


「ふが? 何だよお前ら暑苦しい……」


「ふがじゃねぇよ! あんただってむさ苦しいわ!

 北の街道から数十って連中がこの村に向かってきてんだよ。

 どいつもこいつも武装してるぜ。いまいち元気は無さげだが」


村人たちが指差す先、やや傾いて南北に流れるライン川と

流れに沿って広がる開拓村ラインドルフの北側の街道を、

騎馬を先頭にした数十名の武装した人の群れが

村の門目掛け、物言わずゆっくりと迫ってきていた。

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