表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
168/1317

サイアスの千日物語 三十四日目 その十五

「グウィディオンは平原のあちこちで

 悲劇と不幸とをばら撒いていたようだ。平原から

 悲劇と不幸とを減らすために荒野で戦う私たちにとって、

 このような輩はまさに害虫、獅子身中の虫といっていいだろう。 

 ……是非ともこの手で始末したくなってきた」


サイアスはやや感情のこもった声で呟いた。


「ダメよ。あいつは私の獲物よ」


ニティヤはサイアスの発言に物言いを付けた。


「あぁ、そうだね…… 君の想いの方が遥かに強い。

 止めは譲ろう。約束するよ。まぁ手足の一本くらいは

 飛ばすかもしれないけど」


「そうね…… それくらいは許してあげるわ。

 でも首は必ず私が撥ねるわよ」


「ふむ、じゃあ首が繋がってれば殺しておいてもいいのかい」


「ダメよ。断末魔が聞けないでしょう? 

 血しぶきも上げてもらわないと困るわ。

 ちゃんと生かしたまま残して頂戴」


「了解した。取り巻きや機動大隊はどうする? 

 適当に始末してしまっていいのかい?」


「捕縛した上で一匹ずつ首を撥ねて回るのが理想だけど、

 数も多いし状況的にそんな余裕はないわね…… 

 仕方ないからそちらは適当にやってくれていいわ」


「判った。書面でも用意しようか?」


「要らないわ。貴方を信用する」


「ならこの名にかけて誓おう。必ず約束は守る」


サイアスはそう言って頷いた。

こうしてどうしようもなく物騒な打ち合わせが成され、

共闘に関しては話がついたようだった。



「さて、共闘に関してはこれでいいとして」


サイアスはさりげなく話題を変えようとした。


「……まだ何かあるの?」


「あるとも。むしろここからが本題」


「話し過ぎて疲れたわ。こんなに話したのは生まれて初めて。

 手短にお願いするわ……」


「仕えて」


「……」


「……」


「手短過ぎる。やり直し」


「……」


やり直すことになった。


「あぁ、その前に。

 ニティヤ、少し声がかすれてきてる。食事と飲み物を用意しよう。

 私も食事、まだなんだ。ちょっと厨房で貰ってくる。休んでて」


サイアスはそう言うとむくりと起き上がり、

スタスタと歩いて部屋を出て行った。


「……ふふ」


ニティヤはため息交じりに笑っていた。

その声には微塵の緊張感も残ってはいなかった。



サイアスは食堂に着くと厨房長を探した。


「おや坊ちゃん。どうなさったね」


厨房長はにこやかな笑顔でサイアスを出迎えた。


「トリクティアとフェルモリアの東部の境あたりの

 郷土料理、二人前ください」


「あいよ、ちょっと待ってておくれよ」


厨房長はいやな顔一つせず、

また詮索もせずに応じ、奥へと戻っていった。


暫時ののち、厨房長は大きな盆を抱えて戻ってきた。

盆には三角形の揚げ物、三角形の平たいナン、

香ばしいスープと果実、そして紅茶が載っていた。


「あの辺の料理といえば馬か羊が鉄板さね。こいつはサモサ。

 小麦粉と塩で作った薄皮に羊肉や羊脂、あとは野菜を詰め込んで、

 さっくりふわっと揚げたものだよ。あの辺じゃ定番中の定番さ。

 こっちはナンと、煮込み野菜のスープだ。季節の香辛料を使って

 風味を調えてあるよ。飲み物は紅茶。あとは果実を多めに、だね」


「おー」


サイアスは感嘆の声をあげた。


「ここは平原中から人が集まるからね。しかもどいつもこいつも

 大飯食らいで大酒飲みで、ついでに味にうるさいときてる。

 お蔭でこっちもなんでもござれだ。どこの料理だって出してみせるよ。

 地域を指定して貰えれば、むしろありがたいくらいさね」


厨房長はそういってカラカラと笑った。


「ありがとうございます。お代は」


「注文料金の類は無しだよ。二食目だし無料だとも」


「二人前ですが」


「坊ちゃんには二人前でも、そこらの食い倒れ共にゃそれで一人前だよ。

 普段からもっとガツガツ食べた方がいいねぇ」


「善処します」


サイアスは苦笑しつつ敬礼し、盆を受け取って居室へと戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ