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サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
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サイアスの千日物語 三十四日目 その五

捕縛者1名を出した騒動で中断した講義は

何事もなかったかのように再開され、無事に終了の時刻を迎えた。

元々資料が数式や表の羅列であったためか

大半の者は講義内容が上の空であり、

ルジヌに終了を告げられてほっと溜息をつくものが目立った。


ルジヌは例によってサイアスに軽く頷くと第一会議室を後にし、

サイアスはルジヌを追うべく席を立った。サイアスに合わせて

デネブも立ち上がり、二人分の資料をサイアスがまとめて所持し、

デネブは護衛に専念することとなった。


「じゃあちょっと行ってくるよ。

 早めに営舎に戻った方がいいかもしれないね」


「ん。確かにちょっときな臭いわね。まぁ、勘だけど。

 デネブ、そっちは頼んだわよ! ベリルのことは任せときなさい」


デネブはコクリと頷きサイアスの背後についた。

サイアスは去り際ランドの肩をポンと叩き、

周囲には聞き取れない程の微かな声で言った。


「望むなら出番を用意するつもりだ。

 まだはっきりしたことは言えないけどね」


ランドはサイアスの言葉に驚き、自身が深刻な表情の

ままだったことを思い出して苦笑した。


「お見通しか。参ったなぁ」


ランドはポリポリと頭を掻きつつ、キョトンと見つめる

シェドの背中をバシリと叩いた。


「さ、食事にいこうか。

 たまには男性寮側の食堂にでも行ってみるかい」


「お、おぅ。よーわからんがそうすっか」


シェドはシェドで何やら挙動不審であったが、

元々どこかしらおかしいので誰も気には留めなかった。



サイアスは会議室を出て補充兵立ち入り禁止の三階へと進み、

手近な一室へと入った。中ではルジヌが待ち構えており、さらに

数名の教官役の兵士がおり、ルジヌに険しい表情で話しかけていた。

教官役の兵士たちはサイアスの登場に軽い困惑を見せルジヌを見やったが、


「構いません。味方です」


とルジヌが手短過ぎる返答をするに及び、頷いて報告を続けた。


「計7名。いずれも上官不敬や任務妨害ですね。

 まるで示し合わせたかのようで」


「そうですか。まぁそうなのでしょうね」


「これまでは精々一日に2.3名と言ったところでしたが。

 昨夜の分も合わせると、捕縛した補充兵は総数22名となりました」


「ふむ、もう少し増えるでしょうかね。

 今日明日の午後はローディス閣下が担当されます。

 閣下であれば捕縛などせず即刻斬り捨てるでしょうから、

 駆け込み需要といったところですか」


「明日も同様に多い可能性が?」


「そうですね…… 

 総数30もしくは31名になるのではないかと推測しています」


「なるほど…… 

 何か情報をお持ちのようで。我々はどう対応すればよいですか?」


「平常通りに対応を願います。それで何ら問題はありません」


「戦隊長には」


「そちらからで結構です。お会いする機会があれば

 私からも報告させて頂きましょう」


「了解しました。それでは」


教官役を担っている第三戦隊の兵士たちは、

ルジヌとサイアスに敬礼して退室した。


「お待たせしましたサイアスさん。

 状況はご理解いただけていますか?」


ルジヌはどこか楽しげな様子で、

サイアスを試すようにそう問うた。


「やはり私兵の一群だったか、というところです

 見極めと対応について相談するつもりでしたが、

 既に手を打たれているのですね」


「ウフフフフ。流石ですね…… 

 是非とも参謀部にお招きしたいところですが、

 貴方にはもっと大切な役目がある。ここは諦める他ないでしょう」


ルジヌは口に手を添え楽しげに笑っていた。

サイアスにとって、これほど感情豊かに振る舞うルジヌを見るのは

無論初めてのことであり、勘所はともかくとして、やはり

軍師も人間なのだな、と失礼極まる感想を抱いていた。


「さて、私からの報告を聞きますか? 

 それとも先にそちらの見解を述べられますか?」


ルジヌはすっかり打ち解けた様子でサイアスに語りかけた。


「こちらからお話させていただきましょう。

 答え合わせになりそうですが」


サイアスもまた、打ち解けた様子でそう言った。

ルジヌは再び楽しげに笑い、


「えぇ、是非そうしましょう。

 貴方の軍師技能、採点してあげるわ」


と満面の笑みで言った。


「お手柔らかにお願いします」


サイアスはやや肩を竦め、先日食堂でロイエやデネブと

おこなった考察の内容を語りはじめた。

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