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サイアスの千日物語  作者: Iz
最終楽章 見よ、勇者らは帰る
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サイアスの千日物語 百六十六日目 その四・前

中原の古語で「支援」を意味する平原西域

最大の街「アウクシリウム」にて万来の民と

剣礼を交わし、声なく別れを告げた一行。


南東に面する東の城門を出でてまずは南下。

東西に長い楕円をした平原の中央をほぼ

横断している大街道で待機した。


共に帰路を往く西方諸国の王侯らを待つためだ。

示し合わせたようにして北西より馬蹄が迫る。

アウクシリウム西門より出てきたらしき今期の

駐留騎士団、フェルモリアの鉄騎衆80だった。


先日トーラナからサイアスらを警護してきた

のと同数だが、中身はアウクシリウム駐留組だ。


赤の覇王の名代を兼ねて序盤のみビーラーの

供として式典に参加した鉄騎衆長官アレケンが

即日トーラナへと戻った際、ラインシュタット

までの警護を命じていったのだとか。


鉄騎衆はフェルモリア大王の直属だが

国外派遣組はトーラナに詰める彼の実妹、

赤の覇王が預かっている。つまり警護は

彼女の意向なのだろう。


とまれ鉄騎衆80は先日同様20ずつの

小隊に別れ、一行の前後左右を護った。





続いて北西よりさらなる軍勢が。

カエリア王と彼の王立騎士団200。

そしてカエリア王国の歩兵団300だ。


中原北方のカエリア王国と西方諸国や

トリクティアを隔てる大森林は遠からず

豪雪と寒気で長大な氷の防壁と化す。


そうなれば軍勢の移動は不可能。

ゆえに引き上げ時という事だった。


カエリア王国の軍勢に続いてやはり北西より

トリクティア共和国の前執政官プロコンスル率いる

トリクティア機動大隊が粛々と迫ってきた。


その数4000。荒野内、南往路東端域の

巨大防壁や騎士団領内の大街道の整備のため

一期前から継続して軍務に就いていた彼らも

いよいよ総員が本国へと引き上げるようだ。


前執政官はこのうち半数を先行させ道中警護に

当たらせる予定だったが、サイアスの下命に

敏速に応じたアウクシリウム守備大隊により

先を越されてしまったのだと笑っていた。


代わりに此度の行軍では是非とも先触れと

殿を纏めて拝命したいとの事。サイアスは

その申し出を感謝と共に受けた。


そこに北西よりさらなる砂塵。大王国第一王子

ビーラーの近衛と道中警護を担うフェルモリア

大王国の正規軍で合計500だった。


大隊規模の軍勢はアウクシリウムでは南西区画

に滞在し、基本的に市街の横断は認められては

いないため、合流と出立に手間取ったようだ。


カエリア王や前執政官に先を越されたと

悔しがるビーラーは手勢を鉄騎衆の後方かつ

殿な機動大隊2000の前方へと割り込ませた。


平原一の大国の代表らしい実に横柄な振る舞い

ではあるが、ビーラー当人は前執政官に対し

連続ゴメンナ・スッテ中だ。笑って許すまで

続ける気らしく、前執政官は早々に笑諾した。





こうして5000強。ここに東門より

サイアスらの後を追う形で西方諸国連合加盟国

の諸王侯とその供回りが参集した。数十居る

彼らはそれぞれ数十の供回りを引き連れている。


合わせて1000程無秩序にわらわらと。

平原三大国家の軍勢に対してまさかビーラー

宜しく割り込むわけにもいかぬので、大街道

北手で所在なくたたらを踏む風だ。


もっとも当の三大国家の国主らがサイアス一行

の下に集い、おいでおいでと手招きするので

おっかなびっくり諸王のみで向かい、供回りは

大王国正規軍と機動大隊の狭間へと。


当節西方諸国の大半は常備軍を有さない。

これらの供回りはその実守衛や門衛なので

戦闘経験どころか行軍経験すら有さない。


これほどの大軍に近接する事自体初だ。

すっかり萎縮し緊張しきっていた。


さて最後にこうした6000の軍勢の下へと

アウクシリウム防衛軍よりセミラミスの命を

受けた二個大隊2000が近似した。


これらは帰路に就く大軍勢がアウクシリウム

近郊から離れるまでの見送りであり、同時に

監視でもあった。


かつての城砦騎士団長であり今は連合軍

最高司令官であるセミラミス・アムネリス。

彼女の心中が一つ明らかとなったように

サイアスには思えた。


今の彼女にとり、アウクシリウムこそが

身命を賭して護るべき城、己が国なのだ。


アウクシリウムとその民を護るためならば

相手が祖国トリクティアであれ城砦騎士団

であれ、さらには連合そのものであっても

利用し或いは敵に回すも辞さぬ。


そういう覚悟の表れなのだ。

彼女もまた騎士の魂を有している。

サイアスはそう思えた事でこれまでの

彼女の成した諸々に納得がいったのだった。





とまれ此度アウクシリウムを発つのは

こうして総勢8000の大軍となった。


ただし規模こそ大きいが内実は独立別個の

指揮系統を有する雑多な多国籍軍に過ぎない。


仮に行軍中左右すなわち南北方向から強襲を

受けた場合、独立別個の対応を取って総体と

して混乱状態に陥る可能性は高かった。


そこでサイアス一行の下に集った諸王らは

軍勢全体の統率を西方諸国全体の総督たる

連合辺境伯、つまりサイアスへと委ねた。

無論、お手並み拝見という訳だ。


布陣自体は完成している。後は粛々と進発

するだけだが、8000に下知するとなると

それだけで数分は要し行軍も遅々として進まず

徒歩で半日の道のりに数日費やす羽目にすら。


当代において万単位の軍勢を実際に率いた

経験を有する数少ない一人であるカエリア王や

トリクティアの前執政官はサイアスに対して

気遣わしげな視線を投げかけた。だが


サイアスはくすりと笑んで、地上の陽光たる

愛馬にして名馬シグルドリーヴァと共に

大地を、大気を蹴って舞い上がった。





8000の軍勢は奇跡を眼にして息を飲んだ。

遥か彼方の荒野より伝え聞く通りであった。


天馬騎士サイアスは空を翔けるのだ。


神話伝承そのままの美々しく凛々しくそして

輝かしい様に軍勢は瞬く間に心を奪われた。


暫し軍勢の上を舞うように駆け、驚愕や畏怖、

憧憬を隠さず自身を見つめる全ての者と視線を

交わすように巡ったサイアスは、やがて軍勢の

中央上空にて静止。


一身に注がれる視線に頷き返すようにして、

すっと右手を東へと。目指すべき道へと向けた。


8000の視線は一斉に東へと。

サイアスが示す大街道の東の果て。

そこでは夜明けが待ち受けていた。



「全軍、進発せよ」



厳かに発せられた声が静寂の大気を渡る。

直接脳裏に届くようなその美声へと抗う者は

一人とてなく、こうして8000もの大軍は

一糸乱れず進発したのだった。

長すぎたので二分割。

後編は仕上がり次第投稿予定。

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