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サイアスの千日物語  作者: Iz
最終楽章 見よ、勇者らは帰る
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サイアスの千日物語 百六十五日目 その二十三

長台詞を一気に語り尽くしたカエリア王は

サイアスに。むしろ傍らにあるニティヤや

一家に向かって頭を下げた。


宝冠を戴き国家の威信を担って世界と向き合い

そびえるように在らねばならぬ超大国の王者の

こうべとは、かくも垂らされて良いものではない。


されどかくの如き有様なのは、一個の父親

として己が娘の幸せを。せめて願いの一つも

叶えてやりたいという愛娘への想い。それが

勝っているからなのだろう。



単に国家や御家の事情だとか、平原乱世の

趨勢を睨んでだとか。そうした小理屈を

前面へと押し出し頼み込まれたのであれば。


ふぅんそうなん? 知らんけど。

で或いは流せたのやも知れないが。


我が子を想う親心ゆえと断じられては。

また凍てついた人形の如き生を生きる姫の

己が命運を己が手で掴みたいという、初めて

示した意思ゆえだと言われては、感情的に

否定のしようがなかった。



サイアスはじめ一家の多くは、幸福な身上の

延長として人界を離れ、荒野の只中で戦って

いるわけではなかった。


多くが重く苦しい運命と戦い

彼方の荒野へ。そして巡り合い



いずれ死すべきこの旅路。

手を取り合って共に往こう。



そういう想いで一つと成った

そういう人々なのだった。


皆が凍えた生を独り生きていたし

皆が与え合う愛情に飢えていた。


だから死が直ぐそこに迫る状況であっても。

傍からは稚拙な「家族ごっこ」に過ぎぬと

見做されかねものでしか、なかったとしても。

 

彼らは家族と成り、家族を名乗り生きていた。

それが、それこそが彼らにとって、人らしく

生きている事の揺ぎ無い証左だったからだ。


そうして出来上がった家族の輪。そこに

また一人、己が運命のくびきに抗って

共に在りたいと願うものが現れた。ならば。





「陛下、まずはお顔を上げてくださいませ」


とサイアス。


病に臥せりがちな幼少より箱入り娘として

育てられ、その後は囮の餌箱たる中央城砦へ

自らを生贄として差し出して、凍てついた

生を生きる事を選んでいた。



「陛下の、いえ。

 子を想う親の想い、しかと承りました」



とニティヤ。


二度も家族の命を奪われて。襲撃され炎上する

屋敷で、この子だけは助かって欲しいと見送る

二度目の両親の眼差し。その想いは今も

はっきりと胸中にあった。



早くに戦で母を亡くし、父もまた自身らの

囮として戦死。傭兵団のため常に気を張り

ながらも両親からの。家族への愛情に

飢えているロイエンタール。


生まれてすぐに売り払われ、売り物として

育てられ。さらに兵士提供義務の生贄として

荒野の死地へと出された、そこで初めて

本当の家族を手に入れたベリル。


さらにはデネブやディードら一家にとり、

王の訴えは実にその琴線に触れるものだった。



「是非とも私の妹に。そして皆の

 新たな家族になってほしい。


 会えるのを楽しみに待っている。

 そうお伝えくださいませ」



毅然と。だが慈愛に満ちた眼差しで

ニティヤは一家の総意を代表した。





「有り難い! 心より感謝する」


深々と謝意を示すカエリア王。

すぐに一気に明るくなった。


 

「ならばこれよりこのラグナ。

 アルノーグ・カエリアもまた

 そなたらの父や祖父の一人となる。

 何でもどんどん頼ってくれ! ハハハ!」



カエリア王は長子赴任の話の際とは

まったく異なるハイテンションだ。

それはもぅ、禦感斜めならずであった。



良かった良かった、と思ってはいた

サイアスだが、徐々に何だかまたしても

とんでもない事になったという実感が沸々と。


これで妻6人娘1人か……

戦以外で死ぬのは御免だ…… とも。


そんなサイアスにカエリア王は



「……というわけだサイアス。

 我が娘を宜しく頼むぞ!


 安心してくれ。娘は我が一族の

 中でも飛び切り美しい。丁度

 ヴァディスが幼くなったような姿だ」



とさりげなく親馬鹿した。



「姿だけ、でしょうね……?」



それなら容姿は確かに良かろうが…… と

額を押さえ嘆息するサイアス。バレ次第

姉に押さえ付けられる事だろう。



「ハハハ、中身は流石にあぁじゃない。

 心配要らないさ。 ……今の話。

 くれぐれもアレには内密にな」


「如何でかバレそうな気もしますが」



サイアスの嘆息は深まるばかりだ。



「有り得るな…… まぁいい。

 末娘の名はシルマリルだ。

 伝承の宝珠の名を採った」



とカエリア王。


平原北方には中原とはまた異なる

余り知られぬ神話や伝承が数多くあった。



「おぉ、上代の北方詩篇に謳われる、

 あの『白銀の光輝』ですね。

 それはまた、何と素晴らしい……」



唐突にサイアスの態度が変わった。

何やらうっとりしつつ饒舌に。


石にまつわる話とならば平原全土津々浦々、

時空すら超えあまねく網羅しているようだ。


娘にベリルと名付けるくらいだ。

名前がモロにツボだったらしい。

お陰で全力でお気に召したようだ。


そんな例により例のごとくの病的な

アレっぷりに、今度は周囲が呆れ嘆息した。





とまれ軽重合わせて願いが成就する運びと成り、

これほど目出度い事もないとて、広間は明日の

予定を鑑みて、ささやかながらも宴席と成った。



「そういえばヴァディス姉さんは

 結婚はどうなっているのですか?」



そんな中、至極上機嫌なカエリア王に

サイアスが尋ねた。この際なので

全力で罠を踏みしめにいく風だ。


「アレか……」


と嘆息かつ苦笑なカエリア王。

やっぱりコレはマズかったか、

と早速後悔し始めるサイアス。



「幼少より余りに優秀かつお転婆でな。

 いっそ長男で通すかと、対外的には

 そういう事になっていた。


 アレとしてもその方が都合がいいと

 好んで男装し一層暴れまわっていたよ。

 

 あの容姿だ。それはもぅご婦人方に

 大人気でな。やんごとなき姫らとの

 縁談がひっきりなしに舞い込む始末だ。


 我が伯父、つまりアレの父としては流石に

 マズいとて、慌てて実は姫だと公表した。

 すると何故だかより一層、やんごとなき

 姫らからの縁談が増えた。



 また、実は姫だと公表した事で、本来なら

 家督を継いでしかるべき立場のアレの弟

 との間で、跡目争いが起きそうになった。


 そこで色々面倒になって出奔し、アレは

 王立騎士団へと転がり込んできたのだ。 

 

 その後はそれはもぅいきいきと万事に

 活躍を成して、今に至るというわけだ」



呆れた風に、それ以上に楽しげにそう語る

カエリア王。姉のアレっぷりはきっと父系の

王族の血なのだろうな、と何やら納得しつつ



「……何だかもぅ、

 とんでもないじゃじゃ馬ですね」



とサイアス。



「そこは『千年の名馬』くらいに

 しておいた方が身のためだぞ」



さりげない気遣いを見せるカエリア王。

無論サイアスのための気遣いだ。


「……確かに」


神妙に頷くサイアスであった。

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