表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイアスの千日物語  作者: Iz
最終楽章 見よ、勇者らは帰る
1287/1317

サイアスの千日物語 百六十五日目 その十七

平原に滞在中は食事はお預けだろう。

そう見越して鞘の内で寝てやり過ごす、

そんな気満々だったらしき剣を象った魔。


すなわち魔剣フルーレティは

棚から牡丹餅な望外の馳走を得て、

蒼炎を派手に躍らせご満悦であった。


ベオルクは苦笑し魔剣へと小声で語りかけ、

返事なものか淡く剣身を明滅させる魔剣と

共に小部屋の奥へと歩み出した。


ビーラーがアウクシリウムへと帯同した

護衛団の副長な武官はその様を夢幻の如く

感じ入り見守っていたが、


「あの女はその後どうだ」


と問われ、はっと我に返った。



「急使をかたり既に国許へと発ちました。

 そろそろアウクシリウムを出た辺りかと」



事前に隊長が用意していたものか、女は

正規の書状をたずさえ、式典の顛末を大王宮へと

速報する特使を装って早々に発ったようだ。


ビーラーの供として式典会場へ入っていた事で

連合軍側も彼女が護衛を務めるフェルモリアの

近衛兵の一人だと認知していたし、軍装にせよ

書状にせよ、証拠も十二分に整っていた。


そのためアウクシリウムを出るまでの途上で

殊更に彼女を留め立てる者はいなかった。


街道を護る兵らも同様に対応するだろう。

事前に伏せられている討っ手ら以外は。



「ベオルク閣下の仰せの通り、取り立てて

 詰問もせず素通りさせ、当隊としては

 討っ手を掛けてはおりません。ですが

 既に手配済みであった分までは……」



ビーラーの猜疑心の度合いにもよるが、

ほぼほぼ近衛隊長を継ぐ事になるだろう

現副長たる武官は、そう言葉を濁した。


これにベオルクは


「うむ、上出来だ」


といたく満足げで



「配置済みの伏兵は大王国の兵ではなく、

 金で雇った裏家業の手合いらしい。


 騎士団領を出た後の大街道沿いに

 10ずつ3箇所との事だ。

 良いみそぎになるだろう」



と薄く笑った。



――賊徒の数十を討てぬようでは

  どのみち異形に勝てはせぬ。


  或いは「賊徒に討たれた」と

  する方が何かと都合も宜しかろう。


  もっとも郷里の母に意識が行き過ぎて

  気もそぞろな現状では、格下相手と

  いえど不覚をとる可能性は高い。


  何より引き取る旨を伝えねばならぬ。

  幸い人類最強の逃げ足を誇る城砦騎士が

  プラプラしていたので繋ぎを付けた。

  後はアレに任せておけばよかろう――



そうベオルクは考えていた。





――かなりの使い手ですね。


議場にて、式典終了直後の騒々しさの中

傍らのベオルクへとサイアスが呟いた。


サイアスの見立てでは剣術技能値3後半。

若くして6以上というのがまず在り得ない

平原の基準では、十分腕利きといって良い。


だが超大国の王族暗殺を担うには、

いささか物足りぬ感もあった。


だが実のところ、これが最適値なのだ。

何故ならこの女の場合、剣術は飽くまで

虚仮こけに過ぎぬからだ。


表道具な剣を認知させ警戒させて、

その実主武器な暗器で仕留めるのだ。

主武器は恐らくは飛び道具、恐らくは針。

サイアスはそのように分析していた。



――うむ。だが「迷い」があったようだ。


ベオルクの見立てもほぼ同様だった。


サイアスに危害が及ぶ可能性を考慮して

あの場は止めに入りはした。が、仮に干渉

しなかった場合、事に及んでいたか否かは

けだし半々。ベオルクはそうも分析していた。



――確かに。ニティヤとは余りに違い過ぎる。



サイアスはしみじみとそう言った。


家族を、国を二度も奪った相手を討つ。

そのために暗殺者と成ったニティヤとは、

覚悟が、気迫が余りにも違い過ぎていた。



――自身の意に拠るものではないのだろう。


――成程…… 



命じられ、不本意ながらという部分が

いざという状況で切っ先を鈍らせたのか。

そうサイアスは納得し、



――抜擢しますか?



と問うた。



――そうだな……

  どの道平原(ここ)では生きてゆけまい。

  乱の火種を摘む意味でも悪くはあるまいよ。



宴の支度を派手に差配するビーラーの挙措を

興味深げに眺めつつ、互いに顔を見合わせぬ

ままサイアスとベオルクは打ち合わせを終えた。



そんな式典会場でのやり取りを思い出しつつ

ベオルクは、小部屋の中央に置かれた応接用の

卓の先、床に転がる何かへと慎重に歩み寄った。



それは魔剣の蒼炎に薙ぎ払われ、半ば消えうせ

残りも恐怖に歪むかのように無残に溶けただれた



暗灰色の仮面の残滓であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ