表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイアスの千日物語  作者: Iz
最終楽章 見よ、勇者らは帰る
1279/1317

サイアスの千日物語 百六十五日目 その九

一度舞台に上がったならば、

活躍し注目を集めねば気が済まぬ。


むしろ主役でなければ承知せぬ。そんな

ある意味見上げた役者魂と、城砦騎士団幹部

らしいお困り振りを遺憾なく発揮したサイアス。


いきなりの見世物にすっかり沸いて拍手喝采な

諸王らの態度に随分機嫌もよくなって、ついで

に一曲歌ってやるか、となったところで。


セミラミスの苦虫を煎じて煮詰めて歯に詰めた

ような表情に気が付いた。大層危険な兆候だ。

そういえば式典の最中だったなと思い出し

しれっと自席へ戻り軍旗をベオルクへ。


なんやこいつ…… と言わんばかりに眉を

ωにひん曲げたビーラーや、軍旗を手に

こんなんどないせえっちゅうねん、と

顔をしかめるベオルク。


さらには顔を伏せ肩を小刻みに揺らして

懸命に笑いを堪えるカエリア王らを

素知らぬ風にツンとお澄まし。


さっさと続きやるにゃ、と言わんばかりの

眼差しでもってセミラミスを見やった。


じっとりと、それはもぅじっとりとした

眼差しでサイアスを一瞥いちべつした妖怪もとい

老獪ろうかいなるセミラミスだが、ここは一つ生来の

結果主義を最大限に発揮する事とした。


式辞の進捗はともかくとして、結果的に式典へ

非常に良い具合にまとまりが付いたとて、残り

は文書通達を。これにて式典の閉幕とす、と

おごそかにそう宣言したのだった。





その後セミラミスは諸王らへ、参集への労いと

清聴への感謝、そして帰路の無事を願いつつ

一足先に議場を後にした。


彼女の斜め後方で議場全体を睥睨していた

彼女以上に物騒な仏頂面の女性もこれに続いて

議場を去った。昨日サイアスらがセミラミスを

訪問した際も常に傍らに控えていたこの女性は

当代の西方諸国連合軍師長だ。


西方諸国連合軍の最高司令官が歴代の

城砦騎士団長であるのと同様に、このポストも

また代々城砦騎士団中央塔付属参謀部を引退した

筆頭軍師が就く事となっている。


要するに彼女は先代の城砦騎士団筆頭軍師だ。

名をルミヌ。当代の筆頭軍師であるルジヌの

実の母だった。


彼女の前任はやや歳の離れた彼女の夫で、

今彼は城砦の子らの養育施設の長をしている。

要はルジヌの一家はここ20年ほど三代に渡り

城砦騎士団筆頭軍師を歴任しているのだった。


城砦騎士と同様に、城砦軍師も世襲ではない。

己が力で大前提となる「軍師の眼」の覚醒を

経て城砦軍師となり、その後日夜徹底して

研鑽を積んだその末に、場合によっては

筆頭軍師と成りうるのだった。


ただし城砦騎士に関してもそうだが、両親の

魔力を引き継いで生まれた城砦の子らは

異形との戦闘を経ず既にしてその異能を開花

させており、ゆえに余の人々と比して城砦騎士

や城砦軍師への適正が高かった。


ルジヌの例でいえばこのアウクシリウムで養育

される最中に既に、軍師の眼を発現していた。

よって端から城砦軍師と成るべく研鑽に励み、

成人し入砦する頃には既に正軍師であった。


当代同様の経緯で入砦した直後から役職を経て

活躍している者には他に、両親が供に城砦騎士

であり、入砦と同時に史上最年少で城砦騎士に

叙勲され一隊を預かった剣聖ローディス。


また城砦騎士と軍師の子と言われ、やはり入砦

と同時に最年少で正軍師となった、騎士団の次代

を担う比類なき俊英、城砦軍師シラクサがいた。


先代騎士団長セミラミスの元で猛威を、否

辣腕を振るった先代筆頭軍師ルミヌもまた、

セミラミスの要請を受け同時に城砦騎士団を

引退し、現役の時分と変わる事なく補佐を

務めているのだった。





とまれ既に20年来の相方であるセミラミスと

ルミヌは、騎士団在任時より常に周囲を威圧し

睥睨して緊張を撒き散らしており、こと此度

此処においてもやはりそうだった。


お陰で両者が退室すると何処からともなく、

そしてそこかしこからほっと安堵の嘆息が漏れ、

それが可笑しくてかあちこちから苦笑が響いた。



「やれやれ、鬼の居ぬ間、ってヤツだな」



と議場の一堂を代弁しおどけてみせる

フェルモリア大王国第一王子ビーラー。


どっと周囲が笑いで応え、そこかしこで

畏まっていた諸王らが伸びやあくびを始めた。


本性はともかく機転が利き愛想が良いので

ビーラーは諸王らに相応の人気があった。



「折角諸王が一堂に会したのだ。

 後は懇親会といこうじゃないか。


 無論経費は全て私もちだ。

 好きなだけ寛いでくれたまえ」



実に気前よくそう宣言し、兵らに指示して

またたく間に議場を宴席へと作り変えさせた。



「サイアス卿、主賓は君だ。

 当然楽しんでいってくれるだろうね」



どこか芝居染みて大仰に。しかし眼はまったく

笑わぬまま然様にサイアスを促すビーラー。


式典開幕早々やり込められた件の借りを

何としても返しておきたいビーラーとしては

何としてもサイアスを逃す訳にはいかなかった。


もっともサイアスに逃げる気はさらさらなく、



「有難う御座います。

 お礼に一曲奏でましょうか」



としれっと応じ、早速懐からお気に入りの

フラウト・トラヴェルソ「ステラディマリウス」

を取り出し、制止する間もなく早速軽やかに。


ほぉ、と楽しげな声が周囲より漏れた。


結局また株を上げさせたのか、

と内心ビーラーは苦笑した。



ビーラーは御歳32。

一方サイアスは18だ。


サイアスへの突っ掛かり振りは大人げや

年甲斐のない敵愾心とも見えもするが、

そも王侯貴族はプライドで飯を食っている。


相手や周囲に舐められるのは死活問題

であり、何より激しく業腹でもあるわけだ。


曲に聞き入り感銘を受ける風を装いつつ

何とか一つやり込めてやれぬものかと

忌々しげに思案していた。


と、その時。


サイアスの奏でる様を眺めていたビーラーは、

サイアスの纏うジュストコールの胸元で

漆黒の輝きを放つ極大粒の宝珠へと眼を留め

一気に真顔になりさらに蒼白となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ