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サイアスの千日物語  作者: Iz
最終楽章 見よ、勇者らは帰る
1262/1317

サイアスの千日物語 百六十三日目 その六

西方諸国連合を挙げておこなわれる

此度の戦勝式典は、城砦騎士団の代表たる

サイアス・ラインシュタット連合辺境伯の

アウクリシウム到着を以って二日後の

正午と定まった。


実際は中央城砦を発ったその折よりとうに

準備が進められていたものだが、連合加盟国の

諸王侯がこぞって集うには時間が必要だった。



西方諸国連合とは数十在る西方諸国と

平原中央の三大国家からなる超国家組織だ。


西方諸国は平原全土を東西に10分割して

西から3番目となる区画を中心にひしめく

中小様々の国家を指す。


元は西端二割を占め栄えていた水の文明圏の

衛星国家で、かの未曾有の大災厄「血の宴」

を経てもなお辛うじて命脈を保てた国々だ。


命脈を保てたとはいっても、人口の衰微は目を

覆うばかりで、ゼロの数が一つ二つ減っている。

大規模な国でも十数万から数万。


中には西方諸国連合の定める「都市」の要件

である、人口1万を満たせぬものも多い。


ただ、それでも国土は依然かつての広さで、

形骸化していてもかつての制度を維持していた。


そして何より生き残った人々が自身の国への

愛着や誇りをけして捨て去ってはいなかった。


その辛楚心情はかの災厄を乗り越えて生きる

誰にとっても察するに余りあるもので、ゆえに

如何な小規模でも国と名乗る事は許されていた。


もっとも国と名乗るからには国として

相応の責務を果たさねばならない。半ば

自縄自縛の様相を呈して苦難の道を往く、

そういう国家も無いわけではなかった。



とまれ「血の宴」から200年前後と目される

城砦暦107年に得た、「退魔の楔」作戦の

総決算とも言える大戦果によって、復興に

喘ぐ西方諸国にも新たな契機が到来しよう。


連合軍を挙げての大規模な合同作戦が済んで

間もない事もあり、それが如何なるものであれ

諸国の王侯は己が国体の命運を定めるべく大抵は

忙殺されており、これを一堂に会せしむるには

相応の時が必要だったのだ。





平原西方最大の都市である城砦騎士団領

アウクシリウムは、俯瞰すれば真円を象る。


このうち一般に開放されている区画とは

円の下半分に相当し、直径1000オッピを

ぐるりと囲う防壁は、南西と南東に門を有す。


荒野の只中に孤立する中央城砦の今年中盤

までの様相で言えば、正方形をした外郭防壁

の一辺の長さが800オッピだ。


詰まる所アウクシリウムは中央城砦の外接円に

程近い規模だ。そこに平原全土から集積された

物資と定住人口3万程度。交流人口では5万余

が詰めている。


これはむしろ如何に中央城砦が巨大かを。

またそこに詰める員数が如何に少ないかをも

如実に物語っていはいた。


もっともあちらは敵地の只中な囮の餌箱だ。

異形が飛び込み中身の餌を食い漁る際には

たっぷりと時間を掛けて貰いたいところ。


ゆえに平原では数万が集う敷地に僅か数千の

手勢で篭り、各所に殺し間を用意してせめて

死なば諸共と、そういう次第で設計されていた。


実際本城のみであった初期はこの企図通りの

凄絶な撤退篭城戦が繰り返され、次第に内郭、

外郭と異形の滅した一帯を制圧し我が物と

して囲ってきた、そういう経緯がある。


そうして遂には二の丸を築き三の丸を予定し

中央城砦の建つ高台全域を手中に収め、さらに

あまつさえ小湿原を分捕って北方領域までをも

支配下に置いた。



ただ、初代連合軍師長にして「退魔の楔」

作戦における100万の軍勢の総司令官、

ユーツィヒ・ウィヌム連合辺境伯の神眼を。


さらにその弟子たる城砦軍師長セラエノの

慧眼を以ってしても、これを成し遂げる

には十数年から数十年の歳月が掛かる。

然様に目算されていた。


そしてそうした目算を卓袱台いや家屋ごと

引っくり返して完遂させた立役者こそ誰あろう、

サイアス・ラインシュタット連合辺境伯だった。


後の書に曰く。


サイアスは城砦史100年分の活躍を成し、

当年を以って忌まわしき暗黒時代は終焉して

黄金時代が幕を開けた。そう評されるのだった。





同じ釜の飯を食った仲、そういう言葉が

示すように、腹減りをたっぷり満たす急遽の

昼食と休憩によって、何だかすっかり意気投合。


最早一個の生き物の如く一致団結した

2300余の軍勢は、美々しく武装し

威儀を正して防壁南西に面した門より

アウクシリウムへと入った。


アウクシリウムは元より西方諸国連合軍の

拠点であり、住民は全て何らかの形での

連合軍の関係者だ。


つまりは戦勝式典の関係者でもあり、

同時に城砦騎士団の後援者でもある。


さらに本来荒野の城砦における軍事活動の

大部分は平原に秘匿されているものだが、こと

サイアスに関しては例外で、広報に利する意図

もありその活躍も美貌も石狂いもにゃーにゃー

までも、全てが具に知れ渡っていた。


よって兼ねてよりの活躍で既に西方で知らぬ

者なき若き英雄にして歌姫。此度の合同作戦の

荒野側の立役者。城砦騎士団の代表であり

地獄のねんねこにゃーにして城砦の姉。


さらには彼ら全てを率いるべき西方諸国連合の

辺境伯として凱旋してきた、あのサイアスの姿

を一目見ようと万単位の人だかりが出来ていた。


万来の人々は凱旋行進を成す2300余に

大いに沸き、その中枢を往く地上の陽光たる

名馬シヴァを。


その鞍上にある武神の忘れ形見。美々しくも

凛々しき天馬騎士サイアスの姿を見止め、

防壁を砕き崩さんほどの声援を放った。



100年前、退魔の楔の大軍勢を率いて

荒野の只中へと臨んだ辺境伯は

そのまま還らぬ人となった。


100年後、退魔の楔を締めくくり

新たな辺境伯が荒野の只中より帰還した。


西方諸国連合軍始まりの地

アウクシリウムの人々の胸中に

去来する想いは一方ならぬものだった。



万雷の歓声による洗礼を受け、こうして

サイアスら帰境の一行はアウクシリウムへと。


そして万民の想いの熱量に背中を押される

ようにして、まずは下半円たる市街地を

威風堂々凱旋行進するのだった。

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