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サイアスの千日物語  作者: Iz
第一楽章 荒野の学び舎
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サイアスの千日物語 三十二日目 その三十六

資材部を後にしたサイアスは本城北口を出て城門へと向かい、

城門の脇に設営されている厩舎へと向かった。

厩舎は戦隊ごとに異なる場所にあり、

第四戦隊の厩舎は北門西側にあった。

サイアスは厩舎へと入り、クシャーナを探した。

しかしクシャーナは見当たらず、厩務員に確認を取ったところ、

昼過ぎからマナサと共に外へ出ているとのことだった。


第四戦隊に配属となった騎士マナサは、

第二戦隊から随行してきた配下の兵士2名と共に

城砦南部の丘陵地帯の調査に当たっていた。

魔の指揮によると推測される、大量の眷属による土木工事らしきものの

進捗を監視するためだ。もっとも宴が近いためか全体的に

眷属の活動がかなり活発になっており、

工事に携わる以外の眷属も相当数目撃されていたため、

城砦と丘陵地帯を行き来するついでに城砦近郊に出没する眷族を

適宜仕留めているようだった。


細かい事情を知らない北西厩舎の厩務員は、

南東厩舎では既に名物となっていた光景、すなわち

マナサが昼夜を問わずふらりと出掛け、

戻るたび入り口に眷属の首や屍を積み上げる様に

すっかり畏怖の念を抱いており、連銭葦毛とも呼ばれる

一際美しい毛並みをしたクシャーナに対しても

「様」を付けて呼んでいた。



魔や眷属の屍は、

部位や程度によっては資材として利用されていた。

羽牙の羽や牙、できそこないの爪や毛皮、鑷頭の骨や皮などは

その最たるものであり、撃破の証拠ともなるため余裕のある場合は

仕留めた眷族の屍の一部を持ち帰り、別途勲功を得て小遣い稼ぎと

する者も多かった。とはいえ、個人単位でこれを行う例は極稀であった。



マナサの知人であるサイアスに対しても

やけに腰の低くなった厩務員に見送られ、

サイアスは厩舎を後にして第四戦隊営舎へと戻った。

営舎に戻ったサイアスは、まずは食堂へ出向いて注文書の件を報告し、

新たに作って貰った冷菓と果実酒の代価として、勲功400を支払った。

サイアスは明日の朝に資材部から氷箱が届くため、それまで厨房で

取り置きしてくれるよう頼み、冷菓2個のみを受け取って部屋へと戻った。


応接室では毛布を羽織ったデネブがソファーに座り込んでいた。

どうやらぐっすりと眠っているようだった。サイアスは手前の卓に

冷菓を一つ置き、そっと書斎兼寝室へ移動した。


扉を開け、書斎兼寝室に入ったサイアスは、

まずはその場から動かず室内を見渡した。

扉正面数歩ほどの位置には装備等を置く棚があり、

棚の背後には衝立があった。そして衝立の裏は寝台となっていた。

棚の前で向きを右に転じると数歩先にもやはり棚があり、その背後は

歩いて入る物置きになっていた。


物置は丁度浴室と同程度の大きさであり、棚の左には物置の扉があった。

物置の扉は手前に引き開ける形式であり、棚の位置まで開けると

丁度衝立と綺麗に接して簡易の壁となる仕組みだ。

現状たいして所持品のないサイアスは衝立前の棚には何も入れておらず、

物置前の棚には北往路の戦闘で損壊した装備と、村から持参した剣を

置いていた。物置に至ってはまったく使用していなかった。


物置前の棚の前まで進んだサイアスは、

さりげなく棚の剣に手を伸ばしつつ机の方を見やった。

果たして机の上は、出掛ける前と様相を異にしていた。

冷菓の包み紙で蓋をして置いてあった果実酒入りの杯は空となり、

冷菓の包み紙を敷いた上に伏せられていた。

また杯の脇に置いてあったカエリアの実と白布が無くなっていた。



このことは二つの事実をサイアスに知らしめていた。


一つ目は、サイアスが不在の間に、応接室を通らず

この部屋に出入りできる者が確かに居ること。


今一つは、その者がロイエやデネブではなく、

さらにマナサでもないらしいこと。


サイアスは以上から、その者はどうやら昨夜

サイアスが冷菓を投げた相手であり、

サイアスが不在の間にどこからかこの書斎兼寝室に侵入し、

こちらが用意した品を得て出ていったのだろうと推測した。



サイアスはくすりと笑うと机の杯を片付け、代わりに冷菓を置いて

ようやく寝台へ向かった。玻璃の珠時計は11時を指していた。

サイアスは長い一日を終えて横になり、すぐに深い眠りへと落ちた。

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