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サイアスの千日物語  作者: Iz
最終楽章 見よ、勇者らは帰る
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サイアスの千日物語 百六十二日目 その四

野郎同士の無礼講であれば間違いなく大ウケ

したであろう、激しく謎めくアレケンサンバを

しっとり和やかな女子会で披露したせいで、

鉄騎衆の長官殿は速やかに退場処分となった。


恐らくは彼が担当するはずだったろう、

三つ目の台車に載せられた物品の説明は

恐らくはこうなる事を予見していたらしき

チェルヴェナーその人が引き継ぐ事となった。



「昨夜諸君らが北往路で遭遇した、

 大型眷属についてだが。こちらで

 中央城砦に照会したところ、情報無し

 との事だった。


 未知の固体とみて間違いないのだろう。

 まずは無事撃破できた事を賞賛したい。


 中央城砦の参謀部は諸君らに、かの異形

 への命名をおこなうよう通達してきている。

 折角だから、この場で済ませては如何かな」



にこやかに一同へと

そう告げるチェルヴェナー。


女子衆は一斉に最上官なベオルクを見やり、

ベオルクは次官なデレクを見やり、デレクは

縋るような目で次官なサイアスを見やった。


内心またかとは思いつつも、デレクには

ラインシュタットへ本籍を移して貰った借り

がある。そしてサイアスは最低の屑な一件を

未だ把握してはおらず、それゆえ同情心を

妨げるものは何一つ無かった。


もっともサイアスは大形異形との戦闘時

早々に戦域離脱している。お陰で大形異形

の全容をさして知らぬままだった。


要するに、予備知識なぞほっぽって

その場のノリで決めよと言う事だ。

なのでサイアスはその通りにした。



「てがに」



主客に従者その他諸々、数十人の耳目を

一身に浴びつつ、サイアスは至って平静に、

普段通りのお澄まし振りでそう告げた。





「ふむ、『てがに』か。

 同名の事物に心当たりはない。

 取り立てて問題はなさそうだが」


特に感慨なくそう語るチェルヴェナー。


城砦騎士団における異形への命名規則

なぞは流石に把握していないので、

一同へと意見を求める風だ。


そして意見を求められたのをこれ幸いと

早速一同はアレコレいちゃもんを付け始めた。

それが命名の楽しみの一つなので致し方もなし。


さりとてチェルヴェナーの手前な上、

料理の方も控えている。要は急ぎなので

ほどほどに、飽くまでほどほどにであった。



「東方諸国には『赤手蟹』というものが

 おります。やや被ってしまうようですね」



とまずはディード。


確かにやや被る。

されどややしか被ってはいない。

要はちょっと困らせたいだけだ。


サイアスとしては手馴れたもので



「じゃあヤドカリウス」



と何ら拘泥せぬ風だ。



「子持ちだったぞ」



とベオルク。


大形異形の背でうねうねし最後は中から

うじゃうじゃ這い出し逃げたアレが実際に

大形異形の子なのかどうかはともかくとして。


子持ちなら雌である可能性が高く、ならば

男性名詞の語尾であるウスが付くのは

好ましくあるまいとの指摘であった。


例えば入砦前は学者であった第一戦隊副長

セルシウスが学名風に指摘するなら納得だが、

平素は欠片も然様な事を気にせぬベオルクだ。


得意の勿体振りヒゲでドヤってもいる。

間違いない。わざとだ。





またそのうちにスイーツを巻き上げてやろう

と心に誓いつつおくびにも出さず、サイアスは



「ドカテリヤ」



と至って冷静、平静に。



「あー何かそれっぽい!」



とロイエが声を上げ、

一同からも笑いが漏れた。



「確かにドッカリどて焼きでしたね!」


とアクラ。


確かに基地を担いで小山の如く

通せんぼかつ待ち伏せしていた。

が、何やら雲行きが怪しいような。



「えぇ照り焼きも良いですね」


とクリン。


怪しいどころではないようだ。



「まずは鍋ですね」


「雑炊も必須」


「うどんも捨てがたい」


「全部いただきましょう」



立て続けに賛意らしき声を上げる肉娘衆。

この連中はそもそも命名なんぞどうでもよく

早急に蟹、らしきものの鍋が食いたいのだった。





「ハハハ、判った判った。

『ドカテリヤ』だな。申告しておこう」


愉快げに、声を立てて笑うチェルヴェナー。



「鍋については心配せずとも良い。

 実はこの後この場で調理するのだ。

 是非出来たてを堪能してくれ」



ゴクゴクと、いやコクコクと頷く肉娘たち。

チェルヴェナーとしてはそんな食いしん嬢らの

挙措が、自身の家族な猛獣らとそっくりで

可愛くて仕方ないようだった。



「が、まずはその前に。

 こちらをご覧いただこう」



チェルヴェナーの言葉に合わせ、

三つ目の台車から掛け布が取られた。

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