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サイアスの千日物語  作者: Iz
最終楽章 見よ、勇者らは帰る
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サイアスの千日物語 百六十二日目 その三

チェルヴェナーとベリルの握手を経て

主客は際限なく打ち解けて、さながら

長年来の戦友の如く荒野の女子会は

盛り上がっていた。


そのまま夜を徹しそうな勢いだが、

そもそもサイアスらは帰境の途上だ。


故郷を前に長々引き留めるのは本意ではない

として、宴も酣な砌ながらもそろそろお開きに、

とチェルヴェナーが思い立ったその折に、とある

料理が運ばれてきた。



覇王の従者な女性らではなく、やたらと

恰幅の良い厨房員らしき男性たちだ。


第一戦隊でも採用を検討されそうな体格の

彼らは台車を3つ運んできた。それぞれ

これまでとは随分雰囲気が異なっており、

宴席の一同は自然に目を奪われた。


一つ目の台車には城砦騎士団第一戦隊が誇る

食の殿堂「ヴァルハラ」ばりの円盾ホプロンな大皿。


二つ目の台車にはその大皿に深みを付けて

切り株状にしたげな大鍋的なものが一つ。


いずれも蓋で閉じられ中身は見えず。

ただし挙措や風情からかなり熱そうだとは

見て取れ、他には食器などが積まれていた。


三つ目の台車に皿や食器は一切なく、

何某かの大振りな何かが載せられていた。

布地が掛けられやはり現段階では内容が

判然とせぬものの、食品ではなさそうだと

見当は付いた。


貴賓の間の宴席の手前に3台並べ、

背後に整列する9名の恐らくは厨房員。


サイアスら一行が呆気に取られた事には

9名は背格好も恰幅の良さも顔つきも

瓜二つ、いや瓜九つな感じであった。


果たして彼らは9つ子なのか、或いは

トーラナ製量産型厨房員なのか。すっかり

出来上がっていたベオルクすら一瞬素面に

戻るほどに、謎が謎を呼ぶ感じであった。



「彼らは城郭の厨房を切り盛りする職人ら

 の頭格だ。それぞれ50名を差配して、

 日々5000ほどの兵を食わせている」



呆気に取られ顔を見合わせる一行のその様に

にまりとしつつチェルヴェナーは言った。



「ちなみに九つ子ではない。

 熱心に職務に励むうち、

 自然とこういう姿になる。

 500名とも皆こんな感じだ」



やや楽しげな口調から察するに、

驚かせるつもりもあったようだ。そして

どうやらトーラナ製量産型で正解らしい。


そういえば総員こぞって謹厳実直で訓練熱心な

第一戦隊の戦闘員らも似たような感じだった。

ただ、いくら何でも流石に顔までは……

などとサイアスは妙に納得したり

怪訝けげんになったりしていた。





3つの台車と9名の厨房員の登場から概ね

一拍後、背後からさらに2名の男が現れた。


その2名の有様にサイアスら一行は先刻以上に

呆気にとられ、今度は驚きの声も出てしまった。


うち1名はほんのり大振りな事を除けば

整列する9名と瓜二つ、いや累計瓜十だ。

ただしこの人物は口元左右にひょろり、

髭を生やして揺らしていた。


先刻厨房員についての説明があったため、

彼も厨房員、それも恐らくは総大将的なアレ

だろうとサイアスらには類推できた。だが。


今一人、礼装の具合から武官だと判る

ベオルクよりやや年配といったその人物は、

容貌こそ異なるもののにじみ出る雰囲気がまさに

もぅ、シェドやチェルニーそっくりであった。



「紹介しよう。

 厨房長ロルーシと鉄騎衆長官アレケンだ。

 どちらがそうなのかは、まぁ判るだろう」



クツクツと楽しげなチェルヴェナー。

確かに仰せの通りではあった。


フェルモリア王家男子には呪われた血が流れて

いるというが、いくら何でも呪われすぎでは

なかろうか、などと困惑気味の一行。



「どちらも此度はお手柄だったのでな。

 英雄諸君と面識を持つ機会を与えたのだ」



どうやらそういう事だった。





まずは鉄騎衆長官、王家の遠縁、とは思えぬ

ほど血の濃ゆそうな40代後半妻子持ちの

お困り様、アレケンが一行に自己紹介した。


赤の覇王が睨みを利かせているので平素の

はっちゃけ振りは随分成りを潜めてはいたが、

よく動く身振り手振りといいやたら滑らかな

口調といい、一行がよく知る人物そっくりだ。


この感じからいくと大王その人はきっと

とんでもなくアレな感じなのだろう、と一行は

気もそぞろで、アレケン当人には気の毒な事に

会話内容が殆ど記憶に残らなかった。


一行が畏まって清聴している、ように見える

その様にアレケンはすっかり気分を良くして

段々とテンションも上がってきたものか、



「さぁ盛り上がって参りました、

 ここで皆様お待ちかねのアレを」



と唐突に腕袖まくって帯鉢巻いて

即興創作なる謎のサンバを披露し始め、

慌てた厨房員らにつまみ出された。



「アレでも王家の男子では常識人でな……

 私が大王宮に寄り付かぬ訳、少しは

 判って貰えただろうか」



と苦笑し肩を竦めるチェルヴェナー。

女衆は一斉に頷き同情の眼差しを向けた。

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